AI時代の新たな成長のプレイブック「Loop」
CEO ヤミニ・ランガン氏は、AIがもたらす変化は単なる生産性の問題ではなく、人間のアイデンティティに関わるものだと指摘。「AIの世界で、私たちはどのように価値を発揮し続け、どこに居場所を見つけるのか」という問いを投げかけた。

ランガン氏は、インターネットの登場以来、企業が成長を遂げるうえで中心的な役割を果たしてきたインバウンド戦略のファネルが「今や機能不全に陥っている」と指摘した。
まず、ファネルの上部にあたる「認知」フェーズでは、買い手の情報収集チャネルがTikTok、YouTube、Reddit、Podcastなど多岐に渡り、分散しているという。加えて中間部の「検討」フェーズでは、AIの概要が検索結果の上部に表示されるようになったことで、オーガニックトラフィックが減少する「トラフィック・アポカリプス(トラフィックの終焉)」が起こっていると述べた。
一方で、ファネルの下部にあたる「コンバージョン」フェーズでは、AIが買い手への深い理解を助けることで、買い手が個人的で関連性のあるコンテンツへたどり着くスピードが上がっていると説明。コンテンツや顧客理解が引き続き重要となることを踏まえたうえで、ランガン氏は、AI時代の新しい成長のプレイブック「Loop」を発表した。

Loopは、顧客との対話やデータの分析に基づき構築された。静的で線形的なファネルとは異なり、動的で常に学習・進化するモデルだという。そのステップは、次の4つで構成される。
1. Express(表現)
AIを導入する前に、まず自社の理想的な顧客プロファイル(ICP)を定めるとともに、自社のブランドの視点、トーン、声(ボイス)など、AIで作成するすべてのもののガイドを定義する必要がある。この明確な視点がなければ、AIが生成するコンテンツはスパムになってしまうとランガン氏は警告した。
2. Tailor(個別化)
AIを活用し、メッセージを個別最適化する。そのためには、まずデータを整備しなければならないとランガン氏。個々の顧客の行動や意図を示す「インテントシグナル」を蓄積。そのうえでAIを用いて1人ひとりのターゲットに合わせたメッセージを作成・検証・改善する。
3. Amplify(増幅)
顧客が存在するあらゆるチャネルでコンテンツを多様化する。ランガン氏は、顧客がウェブサイトよりもソーシャルメディアやPodcastに多くの時間を費やし、疑問があれば情報を検索するのではなくコミュニティやAIに質問するようになった現代、企業が「見つけられる」ことが困難となっていると指摘。そうした中、従来のSEO(Search Engine Optimization)だけでなく、LLM(大規模言語モデル)の回答の一部となることを目指す「AEO(AI Engine Optimization)」戦略の重要性を強調した。
4. Evolve(進化)
AIの力を借りて、戦略や施策をリアルタイムで迅速に反復・改善する。ランガン氏は、AIを活用したマーケティングキャンペーンは「クルーズ船からジェットスキーのように」迅速に方向転換できるようになると表現した。
このステップでは、何を測定・最適化するべきかを知り、AIを活用して、戦略や予算の使い方、結果を研ぎ澄ませていくことが重要だという。「Express」では効率を、「Tailor」では顧客エンゲージメントを、「Amplify」ではコンバージョンを測定。さらに、AIの可視性や引用数といった新たな指標も追跡し、「Evolve」では速度を測定することで、マーケティングが飛躍的に向上すると述べた。

ランガン氏は、AI時代における人間の役割を「率いる(lead)」こと、AIの役割を「加速する(accelerate)」ことだと結論づけた。このハイブリッドなパートナーシップこそが、将来のキャリアやチームのあり方を変革し、企業が持続的に成長するための鍵となると語った。