「知らない」が強みに! 理想の営業スタイルをいちから構築する戦略的価値
「営業経験者を採用したのに、うまくいかなかった」
そんな声を聞く機会が、この数年でとくに増えてきたと感じています。とくに中堅・中小企業では、即戦力として採用した人材が組織になじまず、早期離職するケースが少なくありません。
その背景には、自社の営業文化やスタイルにフィットしないまま、前職の営業スタイルに引きずられてしまう現実があります。これは本人が悪いわけではなく、過去の経験値によるものでしょう。
そうした中で、他社の文化に染まっていない営業の未経験者は、いわば白紙の状態です。経験者が過去の方法に引きずられてしまうのに対して、未経験者は固定観念や自己流のスタイルを持っていない分、自社の価値観や営業の型をそのまま吸収しやすく、変化の多い営業現場において伸びしろのある存在になり得るのです。
たとえば、私たちが関わった中では、飲食業、保育士、販売職などの接客経験を持つ方々が、営業未経験にもかかわらず短期間で成果を出し始める例がいくつもありました。共通しているのは、相手の話を丁寧に聞く姿勢が自然と身についていることです。現代の営業では、話す力よりも、顧客の課題を聞き取る力が成果を左右する場面が多く、営業未経験の人材が活躍できる領域は確実に広がっています。とくに若手が多い営業チームでは、こうした白紙の状態こそが、チーム全体に一体感や安定感をもたらす土台になっていると感じます。

もちろん、未経験者を育てるには時間も手間もかかります。名刺交換、電話応対、報連相など、ビジネスの基本から丁寧に積み重ねていかなければなりません。営業人材をいちから育てて企業へ派遣している私たちの現場でも、まずはマナーや基礎動作から始め、商談ロールプレイ、電話対応演習といった段階を踏んだ育成設計を行っています。
しかし、未経験者は「できない」のではなく「知らない」だけであることがほとんど。できるまでのプロセスさえ整備すれば、結果を出すまでの時間は思っているほど長くはかからないでしょう。こうした育成設計があって始めて、未経験者が「自社の型を守る人材」に育ち、自社の強みとなるのです。
とはいえ、未経験者のほうが優れていると主張したいわけではありません。経験者には経験者の強みがあります。ここで強調したいのは、経験の有無よりも、どう育てるかが重要であるということです。「未経験だから難しい」と機会を閉ざしてしまうのではなく、どう育てれば成果に結びつくかを考えることが、営業組織の底上げにつながると感じています。そうした考えのもと、営業未経験者を採用していちから育成することは、理想の営業スタイルをいちから築くための戦略的価値があると言えるでしょう。
1人ひとりが自社の営業文化になじみ、成長していく過程は、やがて組織の強さや誇りにもなっていく。その「土台づくり」こそが、営業組織として今、本当に考えるべきテーマなのではないでしょうか。