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現場にとっては「与えられちゃったプロジェクト」?
カスタマーサクセスの計画策定は、キックオフミーティング(CS担当者と買い手企業の担当者の顔合わせ、支援計画について話し合う打ち合わせ)時に行うのが一般的です。本稿では、インサイドセールスや営業担当者が引き継いでくれた資料がそこまで詳細を押さえておおらず、カスタマーサクセスのキックオフミーティングで初めて「プ譜」を使用する想定で解説します。
プ譜を作成するときの大事なポイントは、書き上げていく過程を顧客と一緒に見ることです。リアルな会議であればモニターに映し、オンライン会議であれば画面を共有します。顧客に問いかけ、対話する内容を、その場でリアルタイムに記述していくのです。手元のPCにメモして、あとで議事録にして送るということはしません。プ譜が計画書であり議事録になります。これだけでも資料作成の時間を短縮することができます。
製品導入担当者と現場で製品を使用する担当者が異なる場合、現場担当者のニーズや課題が十分に考慮されていないケースも多いです。「なぜこの製品を使用するのか?」が不明瞭ということです。製品の操作方法を覚えることに目がいきがちで、その製品を使用してどんな成果を得たいのかにまで考えが及んでいないことがままあります。この状態のまま突き進んでしまうことが解約の遠因となってしまうため、顧客の考えや意見を引き出して(言語化して)、できるだけ早く上記のことを明らかにし、「与えられちゃったプロジェクト」を「自分のプロジェクト」にしていく必要があります。
対話を通じてプ譜に「成功の定義(勝利条件)」や「そのために必要な状態’(中間目的)」と「施策(具体的な作業)」が構造として収まっていく過程を目にすることで、顧客の担当者はプログラムの見通しを持てるようになります。顧客とCS担当者が共に製品を使用して目標を実現していこうという気持ちに持っていくことができるのです。
製品活用後の「成功」の定義が複数あることを理解する
カスタマーサクセスの計画策定の時間を短く簡潔にかつ、論理の飛躍なく精確にしていくための基本手順は次の2ステップです。
- 勝利条件をひとつに絞りこみ、具体的に表現する
- 中間目的と施策を設定し、取り組む順序や依存関係を整理する
ひとつめのステップは、複数存在する勝利条件をひとつに、あいまいな勝利条件をわかりやすく具体的にすることです。ホリゾンタルSaaSであれバーティカルSaaSであれ、それぞれの製品は企業の何らかの課題解決や目標実現を助けるために提供されています。経費精算業務をラクにしたり、個々の営業案件の状況をわかりやすく把握できるようにしたり、ウェビナーの開催・運営業務の手間を削減したり……さまざまな製品がありますが、買い手企業が製品に期待する大きな目標はだいたい共通のものになるはずです。
ところが、「その目標がどうなっていたら成功と言えるか?」という勝利条件は、企業によって異なります。次の図を見てください。
これは本連載のインサイドセールス編でも取り上げた架空のAI議事録SaaS「kaigee(カイギー)」を導入する企業の勝利条件の例を複数挙げたものです。
インサイドセールス編
kaigeeはAIが自動で議事録を記録したり、記録内容からタスクリストを作成したり、会議中の発言や質問を評価するといった機能を備えています。kaigeeを導入する企業の大きな目標は「会議の生産性を向上させる」ことですが、「会議の何がどうなっていれば生産性が向上したと言えるか?」には、さまざまな定義があり得ます。
「1回の会議時間が短く、開催回数が減っている」ことを勝利条件とする企業もあれば、「参加者が主体的に参加していて、質の高い意思決定がなされている」ことを勝利条件とする企業もあります。ひとつの目標に対して複数の勝利条件が存在し得る、というのが大事なポイントです。
上述したふたつの勝利条件を実現するための中間目的と施策を書き加えてみると、次の図のようになります。勝利条件が異なると、それを実現するための計画はガラリと変わるのです。
限られた時間・人手・お金で複数の勝利条件を追うことは非現実的です。ふたつ以上の勝利条件を追うことで、いずれも進捗しなかったということになれば、SaaSのように1年単位で更新していく契約形態では、あっさり解約されることになります。
勝利条件があいまいだと、本来実行しなくて良い施策を計画に組み込んでしまう可能性が高くなり、それによって貴重なリソースを無駄遣いしてしまうことになります。あいまいな勝利条件を実現したとしても、それが本当に手に入れたかった成果ではなかった場合は解約の憂き目に遭います。