セールス・イネーブルメントとは?成長企業が取り組む2大テーマ
セッションに登壇した山下氏が代表を務めるアールスクエア・アンド・カンパニーは、セールスフォース・ジャパンにてセールス・イネーブルメント本部長を務めた同氏の経験などを活かし、2019年に設立された。イネーブルメントのコンサルティングと、営業成果および育成の進捗を可視化するアプリケーション(Enablement App)を提供し、ベンチャーからエンタープライズ企業まで、営業組織を幅広く支援している。
セッションの冒頭で、山下氏は「セールス・イネーブルメント」という言葉を改めて定義した。「イネーブルメント(Enablement)」は英語で「何かができるようになる」という意味を指す。つまり、セールス・イネーブルメントとは「営業が成果を上げられるようになること」、ひいては「成果を上げる営業パーソンを継続的に輩出する組織開発・人材育成の仕組み」として定義した。
では、なぜ多くの企業がセールス・イネーブルメントに取り組み始めているのか。山下氏は「セールス・イネーブルメントのテーマは大きくふたつある」と語る。
ひとつは「オンボーディング」。特に営業職を積極的に採用している中小規模のスタートアップでは、中途社員の育成がOJTに依存するなど属人化してしまっているケースがあり、その後のスキルや成果に差が出てしまう課題が散見される点を指摘した。
そして、もうひとつは「営業スタイルの変革」だ。従来までは暗黙知であった売り方のコツを形式知化し、多くの営業メンバーのパフォーマンスの底上げを図るというもの。これはエンタープライズ企業にニーズが高いトピックであるという。
本来、営業育成においては、組織として目指す成果を定義し、達成するための行動をまず紐解く必要がある。そのうえで、アクションを起こすために必要な知識・スキルを整理して、育成プログラムをはじめとした施策を考えていくことが肝要だ。施策を実行するだけでなく、結果までをSFAやセールス・イネーブルメントツールなどのテクノロジーを用いて可視化・検証していくことを忘れるべきではないと山下氏は強調する。
実際に、育成のためのプログラムやコンテンツは多くの企業が用意しているはずだ。しかし、山下氏はこの「成果」「行動」「知識・スキル」のサイクルがうまく連動している企業が少ない実態を指摘する。
「営業企画部門がSFAを使って商談進捗・行動管理を行う一方、人事部門がトレーニングプログラムを提供します。その際、1つひとつの施策が最適化されていたとしても、『連動』がされていないため、営業メンバーは『なぜデータを入力しなければならないのか』『なぜこのトレーニングを受ける必要があるのか』がわかりません」(山下氏)
この「成果」「行動」「知識・スキル」のサイクルをひとつのプロジェクトとして回していくのがセールス・イネーブルメントだ。一気通貫で必要なプログラムを提供し、ツールを活用しながら進捗状況を可視化するほか、営業の成果と育成の成果の連動をデータを用いて検証し、次の打ち手につなげていく――こうした取り組みが真の営業力強化につながる「セールス・イネーブルメント」であると山下氏は説いた。
持続的な組織成長を促す仕組みの運用に欠かせないのがマンパワーだ。5年ほど前から、海外ではセールス・イネーブルメント組織を企業内に立ち上げ、営業のトップラインを高めていく取り組みが広まっているのだという。日本でも、セールス・イネーブルメントに特化したチームの必要性が徐々に浸透し、営業推進部や経営企画部がスモールスタートでプログラムを整備する取り組みが増えてきた。
では、実際にセールス・イネーブルメントに取り組んでいる企業では、どのような成果が表れているのだろうか。
「検証」までがイネーブルメント 導入企業の実例が示す成果
セッションの中盤では、実践企業がどのようなかたちで営業実績・イネーブルメント施策の成果をデータ検証しているかが実例と共に解説された。次の図は、実際にアールスクエア・アンド・カンパニーが支援している大手企業のデータだ。縦軸が営業成果のデータ(受注本数)で、横軸が育成結果のスコア(営業スキル評価)を指している。
「営業の成果とそれに紐づく知識・スキルを整理したうえで施策を打った結果、一定の相関性が見られました」(山下氏)
また、上段には営業チームが回す営業活動のサイクルを、下段にはイネーブルメントの施策がどのように紐づいていくかを示した次の図を投影。サイクルを標準化し、回していくことが営業力強化につながる鍵になると山下氏は続ける。
なお、セッション内では営業成果に関連するデータを蓄積していくうえで営業チームが取り組むべきPlan、Do、Seeに関する言及も。
営業チームのPlan、Do、See
1. 事業計画に紐づいた営業ゴールを目指す2. 日々の商談活動を進める
3. それらをSFAなどのツールを用いて検証する
イネーブルメント文脈で言うと次の流れになる。
イネーブルメントの流れ
1. 上段の営業活動を推進するにあたり必要なスキル体系を整理
2. スキルマップへの現状の達成度を測るアセスメントを実施し、注力テーマを明確化
3. テーマに対応したトレーニングやコーチング、コンテンツを提供し、育成を推進
4. 結果も可視化して検証
山下氏は「Enablement施策のエッセンス」の図を示しながら、「実態を見ると、(1)~(4)まで断片的に取り組んでいる企業が多い。しかし、成果を起点にして一気通貫で取り組んでいるケースは少ない」と課題を分析し、最終的には、図2のようにグラフ化して「(4)検証する」ことの重要性を語った。
「イネーブルメントは、これまで皆様の会社で取り組んできた施策を含めて一気通貫でサイクルを回し、そうして得られたデータで結果までを検証していくことが重要です」(山下氏)
セールス・イネーブルメント仕組化の3STEP
セッションの後半では、セールス・イネーブルメントを仕組み化するまでの3つのステップが紹介された。山下氏が説明する、それぞれのフェーズにおける具体的な進め方は次のとおり。
(1)目指すTOBEモデルに則したスキル体系を整理する「スキルマップ」
スキルマップは、ハイパフォーマーの知識・スキルを営業活動の流れに即して体系化したもの。「似た概念に『コンピテンシー』があるが、スキルマップはもっと具体的かつ実務的」と山下氏は説明する。 スキルマップを構成するうえでのポイントは、商談を前進させるために必要な「キーアクション(主要行動)」を抽出すること。そしてそのキーアクションのために必要な知識・スキルを明確化し、整理していくことであると続けた。なお、キーアクションは15~20個程度にとどめると、その後の施策に落とし込みやすいのだという。
「初回訪問に必要なキーアクションと、クロージングに必要なキーアクションは異なります。リソースが限られている場合には、自社の成果創出に必要な重点テーマにしぼったかたちでスキルマップを整備していくやり方も効果的ではないでしょうか」(山下氏)
インプットの具体的な方法としては、ハイパフォーマーへのインタビューが効果的であると山下氏。しかし「ハイパフォーマーがいない」と悩む企業も多いという。その場合、ひとりのスーパー営業がいなくとも、「提案書を書くのが得意なメンバー」「初回訪問に長けているメンバー」など、それぞれの強みから断片的に情報を集めることで十分に効果を発揮できると説明した。スキルマップは「最初から100点を目指す必要はない」と山下氏は強調する。
「仮説検証的に、自社の特性に合わせて都度修正しながらつくり上げていくのが良いと思います。当社でも標準的なスキルマップを提供しているので、そういった外部のソースをたたき台に構成していくのもひとつの手です」(山下氏)
上司と部下の評価ギャップに注目 より精度の高い育成施策の実現に
(2)育成テーマ抽出「アセスメント」
スキルマップの整理後は、注力するべき重要な育成テーマを定量的に把握するべく、スキルマップに対する営業メンバーの現時点での達成度を確認する必要がある。アセスメントを実施する際のポイントとして、山下氏は「上長と部下の評価のギャップ」に注目することを推奨した。
「それぞれの評価の差が可視化されると、従来『何か話がかみ合わない』と思っていたところが『上長はできていないと思っていたスキルが、部下自身はできていると1ポイント高く評価していたのか』といったかたちで顕在化されます。この可視化が、具体的な施策につながっていくのではないでしょうか」(山下氏)
(3)育成施策の提供
育成課題の抽出により「トレーニング」「コーチング」の テーマが決まれば、いよいよ施策に落とし込んでいく――これには、知識を学ぶための「トレーニング」と、実際に現場で活かすための「コーチング」が有効であるという。しかし、トレーニングを提供するにあたり、リソースの観点からそれらの質の担保が難しいと考える企業も少なくないだろう。そうした企業に向けて同社では実践的なトレーニングコンテンツの提供も行っているという。
「当社がリモートや対面でトレーニングをご提供することももちろんありますが、独自開発したアプリケーションには、ソリューション営業に特化した多様なトレーニングコンテンツを標準搭載しています。こういった外部のリソースを利用いただくのもひとつの手ですし、自社のハイパフォーマーにZoomなどで5~10分ほど成功事例を話してもらい、動画としてノウハウをシェアするやり方なども考えられます」(山下氏)
学んだことを現場で実践するためのコーチングでは、マネージャーの役目が鍵となる。商談レビューや進捗管理などに関するアドバイスは、多くのマネージャーが取り組んできただろう。しかし、学んだことを自主的にアクションに活かしていくためのスキル育成――いわゆる「ピープルコーチング」までをプログラム化して実践している企業は少なく、マネージャーの個人的なノウハウに依存し、属人化しがちであるという。山下氏はこうした課題に対しても、スキルマップの活用がポイントになると説明した。
「スキルマップを活用し、定期的な1on1でスキルの伸長を確認していくと、従来の『トレーニングを受けて終わり』からもう一歩踏み込んで、実際にできるようになっているかどうかまで可視化されます」(山下氏)
営業改革の要となるセールス・イネーブルメント まずはスモールスタートで
実際に社内でセールス・イネーブルメントに取り組む際、どのような体制から始めるべきか。山下氏は、一気に営業組織全体に展開を試みることのハードルの高さを指摘したうえで「まずは施策が合致するチームでスモールスタートするのが良い」と勧め、営業企画部門を中心に部門横断でプロジェクト化する方法を提案した。重要なのは「まずは作成したプログラムを一巡させてみて、自社にとって本当に効果があるのかを検証すること」と山下氏。効果があるとわかった段階でイネーブルメントチームを立ち上げるなど、組織的に広げていく方法が効果的であると語った。
セッションの終盤、山下氏は「セールス・イネーブルメントは断片的な取り組みではない」と改めて強調。そして、次の言葉でセッションを締めくくった。
「成果と行動、知識・スキル、これらを具体的に紐づけて、データで検証しながら改善サイクルを回していく。この一連の流れで持続的な営業組織の成長を目指すものです。従来こうしたイネーブルメント領域を一気通貫で管理するソリューションはありませんでしたが、まさに現在当社が提供しているので、ご興味のある方はぜひお声がけください」(山下氏)
“成果起点の営業育成”が実現!イネーブルメントサービスのご紹介
「なぜ営業能力の差は縮まらないのか」「なぜエース営業に依存しチームの底上げができないのか」「なぜOJTだけでは成果にばらつきが出てしまうのか」「なぜトレーニングを実施しても効果を感じないのか」「なぜ新人営業が即戦力になるまで時間がかかるのか」
このような問いに真っ向から向き合う「営業組織・営業パーソンの成功を本気で考えた新しい育成の仕組み」こそが、私たちが考えるイネーブルメントのコンセプトです。