矢野経済研究所は、国内の従業員エンゲージメント市場を調査し、参入企業の現況や動向、市場の課題と展望を明らかにした。従業員エンゲージメント診断・サーベイクラウドの市場規模について、公表する。
市場概況
2020年の国内従業員エンゲージメント診断・サーベイクラウド市場規模は、事業者売上高ベースで前年比124.8%の38億2,000万円になると推計した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、在宅勤務が増加し、従業員のメンタルヘルスをケアするために日々の状態を把握できるサーベイの需要が増加した。
従業員エンゲージメントを高めることは、会社側、社員側、双方の状況が変化したことで以前に増して注目が集まっている。
まず、会社側の状況変化として、労働力人口の減少により人手不足が顕在化、採用が難しくなったことで社員の定着や離職防止策が求められるようになったこと、また、人的資本の情報開示など投資家からの要望により新しい指標が求められていること、SDGs(Sustainable Development Goals)やESG投資[環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資]の潮流で働きがいに注目が集まっていることなどが挙げられる。
一方、社員側の変化としては、社会課題への貢献意欲や成長実感を求めるといったミレニアル世代・Z世代の労働観の影響を受けていること、人生100年時代を前提とするなかで「自分が本当にしたいことは何か」「自分のやるべきことは何か」といったテーマで人生、働き方を考える人が増えつつあることが背景にあるとみられる。
注目トピック
リモートワークの急速な広がりを受けコミュニケーションが課題に
新型コロナウイルスの感染拡大にともなう、緊急事態宣言の影響により、これまで一部の企業のみが行っていたリモートワークが急速な広がりをみせた。通勤がなくなることで感染リスクの低減だけでなく、作業時間を長く確保できたり、生産性向上や家族との時間が増えたりするなどの利点があることがわかったが、負の側面として、職場でのコミュニケーションに関する課題が挙がるようになった。また、いわゆる「飲みニケーション」ができなくなったこともコミュニケーションの量が減る要因になっている。
リアルな場であれば横にいればすぐに話ができる状態であったが、電話やチャット、オンライン会議などを使えば会話はできるものの、コミュニケーションを取るのにワンクッション入ることになり、これまでのように気軽にコミュニケーションができなくなった。マネージャーはリモートワーク下でも気軽に相談できる環境を作り、メンバーの目標設定や1人ひとりが自律して働けるような働きかけが求められるようになっている。
そこで、会社やチームの目標に紐づいた個々人の目標設定を行い、アクションを明確にすることができるOKR(Objectives and Key Results)や、その進捗を確認し、継続フォローを行う1on1ミーティングを導入する企業が増えている。また、1on1は目標の進捗確認やフォローを行う場としてだけでなく、単なる雑談だとしても、コミュニケーションの量を確保することで心理的安全性を高めると考える企業もあるようだ。
そうした背景から、診断・サーベイだけでなく、1on1運用支援ツール/サービスやOKR運用支援ツール/サービスなど、コミュニケーションを軸にした従業員エンゲージメント向上に関わるプロダクト・サービスが企業から注目を集めている。
将来展望
2021年の従業員エンゲージメント診断・サーベイクラウド市場規模は、事業者売上高ベースで前年比120.4%の46億円になると見込む。
ここにきてSDGsやESG投資の潮流を背景に、従業員の働きがいを高める取り組みや人的資本経営への関心が高まり、それらの指標となり得るエンゲージメントを測る診断・サーベイクラウド市場が拡大しつつある。これまでの導入企業はスタートアップやIT系企業の導入が多かったが、金融業界などIT業界以外の大手企業への広がりも見られる。また、大手企業では以前から多く導入されている従業員満足度(ES)調査ツールをリプレースするケースもある。
調査要綱
- 調査期間:2021年4月~6月
- 調査対象:日本国内の従業員エンゲージメントに関連したプロダクト、サービスを展開している企業
- 調査方法:同社専門研究員による直接面談、電話・e-mailなどによるヒアリング調査、アンケート調査および文献調査併用