活動データ分析から得られた気づきと効果
まず、従来は手作業で入力していた「訪問の結果」「訪問の内容」「予算の有無」「決裁権の範囲」「面談者の役割」「決済フロー」「初期の課題認識」「UPWARDの活用シナリオ」の各項目を、プルダウンかチェックボックスから選択すればSalesforce Chatterに自動的に配信できるようにした。次にそのデータを「訪問回数」「顧客プロファイル」「案件内容」「所要時間」のログ情報と掛け合わせて分析できるようにした。
柴田氏はその分析結果から得たふたつの気づきを紹介した。ひとつは「ターゲットペルソナは初回訪問で進展しやすい」こと。もうひとつは「ターゲットペルソナはクロージングまでの訪問件数が少ない」ことだ。また、業種によってはキーパーソンの役職レベルが異なることもわかった。それまでは役職レベルが高ければ高いほどいいと考えていたが、意思決定の早いスタートアップとの商談が増えるなか、情報通信業の場合はキーパーソンの役職レベルが一般社員でも商談の進展が早いことが見えてきた。
さらに柴田氏は、「『誰に?』がはっきりすると売上につながりやすいことがわかった」と話す。これまではマーケティングはリードばかり、インサイドセールスはリードと自分の持っているコールスクリプトで電話をかけることばかりに追われ、商談化につながるフィードバックができていなかった。しかし、2種類のデータを分析できるようになった結果、この情報を定量的に戻すことができるようになり、プロセス全体に良い循環が生まれたことを実感しているという。
UPWARDの場合、パイプライン管理を実践しており、どの段階で案件がどれだけ必要かを把握することはできていたが、活動管理が加わることで、成約までに何回訪問するべきかを提示できるようになった。営業は毎月の目標を達成するために目の前の案件ばかりを追う傾向がある。意識が変わり、訪問計画を主体的に実行できるようになったことを、柴田氏は「私たちの求めていた『勝ちパターン』につながった」と評する。
活動管理を行うようになり、得られた効果は3つあるという。まず、営業からインサイドセールス、マーケティングへのリアルな情報のフィードバックできるようになった。次に、分業から協業に仕組みを進化させることができた。どの会社のどんな人にニーズがあるか。キーパーソンの名前を示し、営業がインサイドセールスやマーケティングとともに「このお客様を狙いたい」という話ができるようになった。協業が発展した結果、ABMプロジェクトが本格的に活動を開始したという。最後に、営業の意識が変化したことだ。以前は案件金額の数字だけを追いかけていたが、訪問件数を意識するようになったことで、自らが行動計画を立てられるようになり、意識が変わったと柴田氏は喜ぶ。
自社だけに役立つものではない「活動管理」
これまでの1年間の取り組みを振り返り、柴田氏は活動管理について「これまで蓄積してきたさまざまな実績データから導き出した仮説を真実にすることだと思う」と総括した。同社の取り組み内容を見ると、活動管理が「営業日報」や「さぼらずにやっていることのアリバイづくり」ではないことがわかる。
UPWARDを活用した活動管理は同社だけのものではない。たとえばモバイル決済サービスを提供するPayPayは加盟店開拓のために、UPWARDを活用している。ある担当者が一度訪問して断られた店舗に別の担当者がもう一度訪問しないよう、地図上で記録を残すようにしている。また、訪問記録を蓄積することで、ターゲット店舗のお客様に会いやすい時間帯がわかるようになったという。
また、衛生消費財メーカーのマーケティングキャンペーンと連動した活用例もある。この企業ではルートセールスにおけるチラシのA/BテストでUPWARDを活用しているという。同じ商品に対して「いま購入するとお得」というセールのチラシがひとつに加え、「いまやらなくて大丈夫?」というニーズ喚起のチラシをつくり、どちらがより評価されたかを検証した。いままではセールの施策ばかりをやってきたが、もしニーズ喚起の施策がより効果的とわかれば打ち手も変わるであろう。
柴田氏は「活動管理のようなSales Techを活用すれば、現場起点のリアルな情報を定量化して活用することで営業力を組織的に向上できる」とまとめ、講演を終えた。