システムは信用できない? 「人力BI」による課題
データドリブン営業を実現する前、アマノの営業組織が抱えていたのが人力BI(Excelマクロ)の問題だ。小俣氏によれば「SFAやERP、グループウェア(Notes)など各システムに商談や売上、営業活動などデータは豊富にあった」という。しかし商談管理に適した確認画面がなく、当時活用していたBIツールはデータをCSV出力してExcelで加工する必要があった。これにより資料作成の負担が増えるばかりでなく、さまざまな課題が生じた。
まず、粗利益が不明であること。作成したExcel資料には売上予定金額と売上予定月の項目がある一方で、粗利益率や成約時期の項目はなかった。現場の営業メンバー・マネージャーは、商談ごとの受注時期の正確な管理ができず、また、売上が計上されるまで収益性(低利益率・赤字受注)が把握できない状況だった。
加えて、各担当者が手元のExcelでデータを管理・更新するため、システム上のデータが更新されない状態にあった。小俣氏は「本社がシステムで集計したデータと各支店の報告内容が一致せず、『システムは信用できないから再度報告を求める』という非効率的なフローが発生していた」と振り返る。
この状況を打破するために小俣氏が注目したのが、データ分析基盤「Dr.Sum」とBIツール「MotionBoard」だった。
製造部門から逆輸入 Dr.SumとMotionBoard導入の経緯
アマノのBIシステム導入では「Dr.SumとMotionBoardを一緒に導入したのがポイント」だと小俣氏は言う。各システムに散逸しているあらゆるデータをDr.Sumに蓄積してデータ分析基盤を構築。それをMotionBoardを用いて即座に、わかりやすくダッシュボードに可視化することで、営業現場が抱える課題に応えたのだ。
こうしたアマノのDr.SumとMotionBoard活用は、製造部門が先行して成果を出した。アマノでは製造部門も複数のシステムやExcel資料を利用しており、既存のBIツールでは工場のさまざまなデータを適切に活用できないという課題を抱えていた。そこで、当時はMotionBoardのクラウド版を部内利用していた小俣氏に声がかかり、ともに設計を進めたのだ。
現在は工場の点検作業において、タブレットでチェックシートに入力した不良品のアラートや件数などをMotionBoardでダッシュボード化、工場に設置した大型モニターに映し出している。
「実は、過去にDr.Sumの導入は社内で一度却下されています。それでもDr.SumやMotionBoardの活用で実現できることについて発信していたところ、製造部門の担当者の耳に入り、声をかけてもらえました。製造部門における成功事例ができたことで、逆輸入するかたちで営業部門での活用がスタートしたのです」(小俣氏)
商談の「今」と「未来」を見通すふたつのダッシュボード
現在は営業部でも、各システムのデータをすべてDr.Sumへ集約し、それらを連結・加工してMotionBoardで表示している。小俣氏は、実際に営業部門で活用されているふたつのダッシュボードを紹介した。
ひとつが「有望(商談)一覧表」だ。登録されている商談を一覧化し、有望度をA、B、Cで評価・表示する。1画面で受注月、売上月、四半月など切り口を切り替えて確認できるうえに、このダッシュボードは1年後、2年後など、登録されている商談のすべてを見通すことができる。Excelで確認できたのは6ヵ月程度だが、数年がかりの大型案件を確認できるようになったのだ。
もうひとつが「商談管理」だ。営業現場の声をとりいれたこのダッシュボードは、当月の受注を目標とした「今まさに注力すべき商談」を集中的に管理することができる。
また、「MotionBoardの優れた点は、入力画面を柔軟に作成できること」だと小俣氏。とくに予算・決裁・課題・導入・競合のBANT-C情報は担当者ではなくマネージャーがチェックすることで、客観的な情報を蓄積している。受注確度の判断が容易になっただけでなく、有望度やスリップしそうな案件、月初との状況変化や商談発生からこれまでの進捗も確認できるようになった。
データの信頼性を高め、「作業時間減・売上増加」を同時実現
Dr.SumとMotionBoardの活用により新たに作成されたダッシュボードでは、商談の粗利益額・利益率も表示し、SFAに登録されている商談はすべて確認可能に。赤字商談、受注予定月など正しいデータを把握できるようになった。
加えて、ダッシュボード上にSFAのリンクを設置し、変更があれば即座にSFAへ反映できる設計にした。こうすることでデータの更新漏れがなくなり、システム上のデータに対する信頼が高まったことで、本社による再確認のフローが不要に。また、現在はMotionBoardを見ながらミーティングを行うため、Excelによる資料作成も廃止されている。
Dr.SumとMotionBoardの導入により、手元のExcel資料による属人的な売上・商談管理から、全員が同じデータを確認し、先々の粗利益まで見通して活動するデータドリブンな営業へとシフトしたのだ。
この取り組みによる定量的な成果として、都内の支店では、1年間で作業時間を5.5%削減しながら受注金額を7.4%増加させた。また特筆すべきは、売上が下がったコロナ禍においても粗利益を上げたことだ。Dr.SumとMotionBoardは2019年4月に導入し、2020年4月から本格運用を開始している。その直後にコロナウイルス感染拡大が本格化し、売上・粗利ともに10%以上下がった。売上回復には苦戦した一方で、粗利益は早期に前年比102%まで復活したのだ。
小俣氏は「コスト削減などほかの要因もあるが、MotionBoardで粗利益を可視化し、現状と目標までの乖離が明確になった点が成果につながった。それまで売上中心だった考えに利益という重要な視点が定着した」と言う。増収増益を実現した現在は、さらなる分析の追加と、さまざまな部署で集計業務の効率化を求めてDr.SumとMotionBoardの利用が開始されている。
営業現場からの要望に「想像力」で応える
データドリブン営業へのシフトにおける苦労について、「ひと言で言うと、営業現場の要求は厳しいものがありました」と小俣氏。まず「最新のデータをいつでも見たい」という声が上がった。一般的に、データの更新がシステムへ反映されるのは1時間や1日に1回程度。しかし営業現場からは、データを入力したら即座にダッシュボードへ反映される状態を求められた。ここでDr.Sumへデータを集約したことが功を奏し、30分に1回のデータ更新を実現しているという。
ほかにも多かったのが「見るだけではなく入力したい」という要望だ。
「意外だったのが、コメント入力画面です。商談に対して自分が行った活動や成果、チェックする項目などをとても細かく入力してくれて、我々の予想以上に活用されています」(小俣氏)
ダッシュボードのUIについても、当初はチャート式の画面を表示していた。しかし営業現場では、画面遷移が少なく一覧化されていて、ソートもできる画面が好まれた。現在はExcelライクな表形式のUIで展開しているという。
営業現場の声を反映するには、コミュニケーションのとり方にも注意したという。「完成版ではなくても良いので、イメージができるサンプルのダッシュボードをつくってほしい」と小俣氏。口頭や紙の資料だけでは営業担当者とうまくイメージを共有できず、完成したあとで「これじゃない」と思われてしまい、使われなくなってしまう。実際に使われているダッシュボードは、サンプルを見ながら営業と議論を重ねたことが成功要因となった。
「現場からシンプルなUIを求められたためという側面もありますが、MotionBoardでは容易にサンプルを作成できました。一般的に利用するレイアウト決めと表示させる元データの加工さえクリアすれば、慣れている人なら1~2時間で作成できます」(小俣氏)
一方で、小俣氏は「現場の声を聞きすぎてもいけない」と指摘する。ただ現場の言葉どおりにつくるだけでは、本当に課題を解決するダッシュボードはつくれない。実際の業務内容をたずねたり、サンプルへの意見を聞いたりする中で真のペインを導き出すことが重要だ。企画部のメンバーにはよく「想像力を働かせてくれ」と伝えているという。
「想像して試行錯誤するというのは、営業現場もメンバーも非常に労力がかかります。しかし全員で想像力を働かせて取り組むからこそ、期待以上のものができるのだと思います」(小俣氏)
システムは統一しなくても良い データドリブン営業の本質
現在、商談管理のためのダッシュボードは、営業はもちろん、製造部門も確認するようになった。製造業では、いつ、どの程度の受注予測があるかが生産計画をつくるうえで重要となる。従来は営業が見積もりを作成してSFAに登録し、そのうえで、別のデータベースやExcelで製造部門に共有していた。しかし現在では、商談管理のデータがもっとも鮮度が高くて信頼できるとして、営業部門と製造部門が同じダッシュボードを見る文化に変わりつつある。
さらに変化として、システムのリプレイス時に「MotionBoardで作成できないか」という声が挙がるようになった。BIは「見るだけのもの」という印象があるが、「入力のためのシステムも、MotionBoardなら作成できるのではないか」という考え方に社内がシフトしたのだ。「入力できる点が、予想以上に社内で響いた」とその効果を語った。
最後に、今まさに「データドリブン営業」へ挑戦しているリーダーたちへのメッセージを聞いた。
データが蓄積されていれば、将来的にさまざまな分析が可能になる。まずはとにかくデータを1ヵ所にためること。そして「業務をすべてひとつのシステムに集約しようとしないことが重要だ」と小俣氏は言う。
さまざまなExcelや各業務システムをひとつにまとめれば良いと考えがちだが、営業に関わる業務は多岐に渡り、すべてをひとつのシステム内で対応できるようにするのは困難を極める。無理に進めた結果として、業務を進めづらくなってしまったり、変更のハードルが高いことで世の中の変化に柔軟に対応できないシステムになってしまったりする。これでは、仮にデータを可視化できるようになったとしても、データそのものの入力精度が低い、データ量が足りないという問題が起こりやすい。
業務上最適なのであれば、Excelでデータを管理しても良い。大事なのはそれらのデータを集め、必要なかたちに加工して可視化し、活用することであり、これこそが真のデータドリブンだと小俣氏は語った。
「データをかき集めるという非常に泥臭く、表立っては見えない部分がもっとも重要です。そうした思想を体現しているDr.SumとMotionboardを、今後も活用していきたいと思います」(小俣氏)
上期中に年間予算の達成を予測! 「データドリブンな営業組織づくり」の資料を無料公開
属人的な営業活動により「営業目標未達成」「売上前年割れ」「営業人員の3割退職」という三重苦を抱えていたウイングアーク。同社が「MotionBoard」の営業実績管理ボードを開発し、上期中に年間売上目標の達成が見通せる「データドリブンな営業組織」へ進化を遂げたプロセスを無料で公開します。特設ページより資料をダウンロードのうえ、自社の営業組織を改革するヒントとしてお役立てください。
営業現場のデータ活用なら「MotionBoard」
現場でのデータ活用環境を整備し、各人が可視化・活用できる状態にすることで、レポート作成などの作業の効率化や、売上・受注の増加などの成果につなげることができます。営業組織の成果を最大化する「MotionBoard」について、詳しくは製品サイトをご覧ください。