「売り物」と「売り方」の複雑化で疲弊する営業現場
──以前、千葉さんには連載などを通じて、営業組織のSales Techの活用について必要なことを教えていただきました。今回は生成AIがテーマです。あらゆる営業組織を一気通貫で支援するコンサルタントの立場から、現代の営業組織の課題を教えていただけますか。
営業担当者の絶対数が少なくなっていくという話は皆さんすでに目にしたことがあるかもしれません。コロナ禍の調査ではありますが、8割以上の担当者が退職を考えたことがあると言います。そしてその理由のトップ3は「給与」「労働時間」「モチベーションが維持できない」。この改善に必要なのは、業務の生産性向上と報酬制度の見直しで、人手不足の世の中で、経営者はここに取り組む必要があるわけです。
──報酬制度の見直しの前に、いま組織でできることとして生産性の改善に取り組む組織が多そうですが、手段があふれる中でどこから手をつけるべきか悩んでしまいそうです。
そのとおりで、実はその前に改善すべきことがあるんです。それが「売り方」と「売り物」のアップデートです。
ものづくりに強く、高品質な「製品」を売ることに注力してきた日本企業のスタイルに「サービス」が加わり、売り物が複雑になってきています。サービスとは、顧客の課題を特定し、「課題解決ができる」製品であることを訴求しながら、導入・利活用支援を行うこと。コモディティ化する製品も多く、自社製品のみならず、他社製品を組み合わせたパッケージが売り物をさらに複雑化し、値引きやキャンペーンなど、売り方は掛け算され、さらに複雑さを増し続け、現場は疲弊、営業は過熱する価格競争に巻き込まれています。
その状況下で、不採算事業の中止や、製品の統廃合も行うことができていません。この背景になるのは、営業にとって大切なのが「自分のお客様」であるということ。たとえ、会社として2~3件の案件だとしても、自分のお客様にとって必要な売り物であれば、営業としても残したいわけです。
──売り物の複雑化で生産性が下がっていると。売り方のほうはどうでしょうか。
あるメーカー営業の1日を見てみましょうか。朝9時に出社してメールをチェックし、商談へ向かう。その後帰社して11時30分から見積もりの「調整」に3時間──。倉庫への在庫確認、提案をカスタムした場合の金額を原価部門に確認、上長に値引き確認の電話……。Excelでフォームをつくり、ワークフローに載せ、申請をして良いか上長にメールで確認します。それ以外にも、契約管理システムを立ち上げ、SFAに営業状況を入力して……。社内の交渉やシステムへの入力で2~3時間とられている営業は現実にたくさんいます。
見積もり作成だけではなく、提案資料の作成などでもこういったことが起こっているでしょう。つまり、生産性向上のために導入したはずのテクノロジーも複雑化し、売り方の阻害、つまり、お客様と向き合うための時間が捻出しづらくなってしまっているわけです。