関係が良好な顧客から解約されてしまう理由
2009年に米国で創業し、世界トップシェアのカスタマーサクセスプラットフォームを提供するGainsight。業界の草分け的存在と言える同社が2022年4月に本格的な日本市場進出を果たしてから、まもなく1年を迎える。
セッションに登壇するのは、長年SaaS企業で営業部門をリードしてきた絹村氏と、同じくSaaS企業でカスタマーサクセス部門をリードしてきた和久井氏だ。現場とマネジメントの両方を経験してきた共通点を持つふたりが、各部門の視点を交えながら、カスタマーサクセスな企業文化に必要な組織設計・営業プロセス・評価制度のあり方を議論する。
そもそもカスタマーサクセスとは、カスタマーサポートやCX改善と何が違うのだろうか。これについて絹村氏は「顧客成果(カスタマーアウトカム)の視点を含んでいるかどうか」だと説明する。
購入前後のプロセスで良いサービスを提供すれば、顧客体験は向上する。しかし、顧客の業績や市場の動きが悪化すると、体験向上だけでは顧客をつなぎとめられない。契約を継続する根拠としては弱く、社内を説得する材料にもなりにくいためだ。
そこで「カスタマーサクセスのプロセスにおいては、お客様に成果を届ける視点が不可欠」と絹村氏。和久井氏は「良い関係を築けていたお客様から、突然解約されてしまった経験がある。要因はやはり、顧客成果の視点が抜け落ちていた点にあった」と振り返る。
ゴールが違うから足並みが揃わない
顧客の成果が重要である一方、求める成果は顧客によって異なる。そのため、成果から逆算して達成までのプロセスを描くハードルは高い。ただでさえ難しい顧客成果の創出を、日々の売上獲得に追われる営業担当者がケアできないのも、ある意味では当然と言えるかもしれない。ここに、営業とカスタマーサクセスの連携の難しさがある。
そんな中、Gainsightは営業とカスタマーサクセスの連携を成功させている。秘訣は「成果フレームワークの共有」にあるという。課題・指標・達成のプロセスをそれぞれ明確に定義することによって、プリセールスからポストセールスに至るまで、全員が同じ品質でサービスを届け、お客様を成功に導くことができているのだ。
絹村氏はGainsightに入社した当初、営業担当者がこのフレームワークを使い続けていることに驚きを覚えたという。新しい手法を取り入れても定着せず、形骸化する営業組織が多いためだ。多くの営業組織とGainsightの違いはどこにあるのだろうか。
両者の違いを探るにあたり、和久井氏は浸透・定着の阻害要因に着目した。そもそも営業とカスタマーサクセスは、向かっている目標が大きく異なる。「営業の目標が売上の向上であるのに対し、カスタマーサクセスには『変な売り方をしないでほしい』という守りの意識が働く」と和久井氏。実際、営業とカスタマーサクセスのトップが異なるKGIやKPIを追っているケースも珍しくない。絹村氏は「ゴールが違えばやり方も変わり、足並みが揃わないのは当たり前」と指摘する。