高めるべき「質」の水準 「記録」「計画」「実行」
第1回「2:8の法則にとらわれない高水準な営業組織へ 新フレームワーク『5 Standards Model』」では、営業組織を強くする「5S」の全体像と、高めるべき「量」の水準、「接触面積」について解説しました。
第2回となる今回は「質」の水準である「記録」「計画」「実行」、この3つについてセットで解説していきます。
3つの水準が高いと、「記録した内容を元に、計画を立て、それを実行することで質が向上する」というサイクルが早く、質高く回るようになります。なお、この「記録→計画→実行」のサイクルには「資産化サイクル」と「KPIサイクル」の2種類が存在します。それぞれ解説します。
資産化サイクルとは? 過去の失注理由が正しく記録されていた例に学ぶ
資産化サイクルとは、記録したデータをそのまま情報として活用することで売上につなげるサイクルです。主に役職、決裁者フラグ、趣味などの「お客様に関する情報」や失注理由、予算、ニーズなどの「案件に関する情報」が対象になることが多いです。
とある組織で資産化サイクルがうまく回った例を紹介します。
あるとき、その組織が売っている商品が国の新たな補助金制度の対象になることが判明し、その情報が全社の営業に共有されました。補助金の対象になれば、何割かを国が負担してくれるため、お客様はその企業の製品を安く購入できることになります。
その情報が共有された次の日には、全国の営業がSFAを開き、自分のテリトリーの過去案件から失注理由が「予算ネック」になっているものを検索し、電話をかけ、アポを獲得しました。結果、大量の受注が生まれたそうです。過去案件の失注理由が正しく記録されている「記録」の水準、その記録を元に補助金制度を売上につなげられると考えた「計画」の水準、伝達の翌日には全国でアポ獲得が実施される「実行」の水準、すべての水準が高く、同様に動くことができた企業がほかにいなかったからこそ生まれた大量受注なのだと思います。
KPIサイクルとは? 「なぜか売れる/売れない」から脱却しよう
KPIサイクルは、営業活動や案件情報をKPI化することによって、示唆を得て営業活動を改善するサイクルです。
上図のように、売上がKGI(最重要指標)の場合、それを単価×受注数に分解し、さらに手前のステップとして、案件数、アポ数、TEL数のようなプロセスに分解することができます。さらにプロセスを科学できている組織では、プロセスのKPIに対して、どうすればそのKPIが上がるかという「アクション」にKPIを置いている企業も存在します。売上までの過程を分解し、KPI化することにより次の示唆が得られます。
- 売れている人の売れている理由がわかる
- 売れていない人の売れていない理由(ボトルネック)がわかる
分解して考えることで、「なぜか売れない」「なぜか売れる」から脱却できるようになります。実際に、KPIを細かく分解し、プロセスを科学できている組織の例を紹介します。
とある組織では「ペア率」と呼ばれるKPIを置いています。ペア率とは「先方の決裁者と実際に商品を使う担当者の両方が同席していた商談数」÷「全商談数」の割合です。決裁者に会えると良いのは当然ですが、実際に商品を使うのが決裁者ではない場合、決裁者は持ち帰って現場の担当者に話を聞くことになるため、「最初から担当者も同席してもらったほうが良いのでは」という仮説から生まれたKPIです。
この仮説をもとに、記録・分析を行ったところやはり、「ペア商談」の受注率が如実に高かったそうです。そしてペア率が高い商談をつくる営業が何をしているのか調べると、もっとも差が出たのは「アポ獲得の際に必ず毎回ペアの打診をする」という基本的なことでした。有用性が示されており、かつ高めるための方法に再現性があるため、その組織では「ペア率」をKPIとすることに決まり、組織全体のペア率は大きく上がり、売上向上につながったそうです。
これは一例ですが、このようなKPIを1商材に対して20個以上設定し、「何をすれば売上が上がるか」高い精度で科学できている組織も存在します。
次に2種類のサイクルを高い水準で回すために高めるべき、「記録」「計画」「実行」の水準について個別に説明していきます。