「打席」「単価」「打率」のどれを上げられるか
――一戸さんは現在のエージェントを創業される前に会計事務所で勤務されていたと伺いました。営業のお仕事にはいつから関わられているのでしょうか?
学生のときに起業した会社でイベントの企画や集客、協賛企業の開拓などを行っていたので、営業のキャリアはそのころからです。あるとき「このまま大学にいてこの仕事をやっていてもろくな人間にならない」と思い立ち、大学を辞めて違う会社を起こすことにしました。
起業するまでの5、6年は勉強のために会計事務所へ勤め、その後2年ほど父の事業を手伝ってから28歳の時に今の会社を作りました。昔はITがなかったので、起業すると言えば資本を投下してリターンを得る事業の立てかたしかできませんでした。もともと金融業界に興味はあったのですが、在庫不要でリスクの少ない保険の代理店業を始めることに決めました。
会社設立当初は僕ひとりしかいなかったので、毎日崖っぷちに立たされている気持ちで必死に営業していましたが、まったく売れませんでした。月並な手法かもしれませんが、アポに行く回数を増やして売れる確率を上げ、お客様に商品や周辺知識をきちんと伝え続けていくうちに結果がついてきました。最近はAIの導入や営業の仕組み化が取り沙汰されていますが、「一定の母数をもとに成約率を上げる」という点では、僕のやってきたアナログの営業と根本は同じだと思います。大事なのは「打席」「単価」「打率」のどれを上げられるか。たとえば、経験や知識に乏しい新卒の営業は、残念ながら数を打つしかありません。それを、打率を上げるために必要なプロセスだと教えてあげないから、みんな「いつまでこんなことやらなきゃいけないんだろう」と思って辞めてしまう。逆に、僕のように20数年営業をやっている人間がずっと打席数ばかり増やしているのもまずいので、僕は少ない打席数で単価を上げ、8割9割打たなければいけない。
少ないアポで成果を最大化できるようになるには何をすべきか、そこがきちんと仕組み化されている会社を選ぶことは営業パーソンにとって大切なことかもしれませんね。ときどき、喫茶店で疲れ切った営業マンを見かけることがあるのですが、きっと彼らの営業は仕組み化されていないから、ルート営業であちこち回っても成約がとれなくて、部下に「営業という仕事は大変だ」と愚痴っぽく伝えてしまうんじゃないでしょうか。足を使って稼ぐ営業を否定はしませんが、いつまでもそれではダメだと思います。