起業を念頭に「個人の戦闘力」としての“営業力”を鍛える
――まずは、営業というお仕事に出会ったきっかけを教えてください。
「世の中のインフラとなるような事業を創りたい」という志のもと、新卒でインテリジェンス(現:パーソルキャリア)に入社しました。インテリジェンスは、創業者である宇野康秀さんはもとより、藤田晋さんをはじめとする起業家・経営者を多く輩出しています。皆さんに共通するのは、ビジネスのあらゆる場面で必要とされる、交渉力や推進力などを含めた個人としての戦闘力、すなわち“営業力”です。
学生時代に『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(著:ジム コリンズ、ジェリー ポラス、訳:山岡 洋一/日経BP) を読んで、起業家には、この苦境を乗り越えるための“営業力”が欠かせないことを知りました。若くして起業を考える人の多くは、学生時代からビジネスアイディアのブラッシュアップに注力しがちです。バイアウトを目的とするなら優れたアイディアさえあればいいかもしれない。しかし、「社会のインフラとなる会社」を目標にするからには、ビジネスの現場で営業力を鍛えるほかないと考えました。
――実際に、営業職を経験されていかがでしたか。
当時人材紹介市場で2位だったインテリジェンスでは、組織に掛け算があることを学びました。インテリジェンスの営業は「はたらくに熱狂する」ために本質的に合理化されていたのです。ツールありきの合理化だけではなく、営業メンバー全員が100%ではなく200%出し切り、本質的にビジネスを伸ばすための組織設計がされていました。
たとえば、営業が熱狂するうえで重要な予算の透明性については、顧客の広告出稿ランクや人材紹介による決定数がCRMで可視化され、保有顧客の独自係数で予算やノルマが算出されるようになっています。また個人やチーム、組織での表彰、社内予算のダブルカウント計上などゲーミフィケーション性も高く設計されています。
一方、当初私が配属されたのは立ち上げ期の部署だったため、営業における泥臭さも経験しました。必然的に社歴が長く、実績ある先輩たちから予算の多い顧客が割り振られ、新人に最初に与えられるのは「先輩も受注できなかったリスト」です。インターンの経験もなく、ビジネスマナーも敬語もぎこちない。そんなド新人が先輩も受注できなかったリストで受注できるわけがない。実際、新人研修では1位をとりながらも、2ヵ月くらい受注できずにいました。
それでも能動的に担当者がついていない新規客を見つけたり、他媒体だけに掲載がある会社にアプローチしたりして、少しずつ受注できるようになりました。並行して、自分のプレゼンを録音して帰りの電車で聞き直したり、PCを持ち帰れないので資料を自宅に転送しておいて週末に企画書を作成したり、365日ひたすら営業力を鍛えていました。
――そこまでして熱中したモチベーションの源泉は何だったのでしょうか。
配属の挨拶で「2年で会社を辞めて、社会のインフラとなる事業を創出する」と宣言していたのに、1年目から新人賞をとれないなんて「起業家として死するのと同じ」と思っていましたから(笑)。宣言したおかげで、周囲からは高い期待値を持って厳しくフィードバックしてもらえました。
やっぱり営業ってすごく面白いじゃないですか。商いの本質であり、製品の良さだけではなく自分の「個力」が評価される経験ができる仕事です。顧客にアイディアを提案できる回数も多く、反応もダイレクトに返ってくる。創造性を発揮する仕事の中でも、より成功体験を積みやすく、ゲーミフィケーション性が高いのも魅力でしょう。圧倒的な実績を出せるようになってからは、さらに誰も実践したことがない新しい提案を創出して体系化し、組織に伝播させていきました。常に同期が求められている数段上のミッションに果敢にチャレンジしていたんです。