2025年1月に日本電気株式会社(NEC)からカーブアウトしたスタートアップhootfolioは、伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)、明治大学商学部加藤拓巳准教授との共同研究により、従業員エンゲージメント向上に効果的な「1on1ミーティング」の在り方を科学的に解明した。
因果AI「causal analysis」を活用してデータから取り組むべき要因を特定し、実際にABテストを通じて人事施策の改善効果を実証した本成果は、人的資本経営における科学的なアプローチの成果を示す事例となる。

背景
人的資本経営の重要性が高まる中、さまざまな企業が従業員エンゲージメント向上の施策として1on1ミーティングを導入している。しかし、「1on1疲れ」や効果実感の薄さに課題を感じつつも、形式的な運用にとどまってしまう企業も少なくない。
そこで、CTC、明治大学商学部加藤拓巳准教授、hootfolioの3者は、従業員アンケートなどのデータを因果AIで解析し、エンゲージメントを高める要因と、1on1満足度を高める具体的な条件を明らかにした。
研究のプロセスと成果
Step1.エンゲージメント要因の特定
CTCのひとつの事業部門であるエンタープライズ事業グループで因果AI causal analysisを用いて従業員エンゲージメントを左右する要因を探索した。その結果、もっとも影響を与えるのは「1on1ミーティングの質」であることがわかった。
Step2.「満足度の高い1on1」の条件を分析
続いて、「どのような1on1が満足度を高めるのか」を分析した。
その結果、次の要素が正の効果を示した。
- マネージャーによる傾聴・共感
- 相談内容への実行力ある対応
- 会話トピックとしての仕事内容・キャリア開発・雑談
一方で、「プライベートな話題」は満足度を下げる傾向が見られた。
Step3.1on1の現場で活用できるスクリプトを開発
分析から得た示唆をもとに「1on1トークスクリプト」を作成。営業現場などで成果を上げてきたトーク構造化手法を1on1に応用し、マネージャーが自然に、かつ効果的に対話できるよう支援するフレームを構築した。
Step4.ABテスト(※)で効果を実証
さらに、スクリプトを活用したマネージャー群とスクリプト未導入のマネージャー群で1on1を比較するABテストを実施した。結果、スクリプト活用群の部下において、1on1満足度が統計的に有意に向上した。
※ABテスト:異なる施策案を一定期間・条件下で比較し、効果を検証する手法
意義
本取り組みでは、因果分析による科学的知見をもとに実際のマネジメント施策として実装し、効果を実証した。これは、これまで属人的に行われてきた1on1を、データドリブンかつ再現性のある改善サイクルへと転換した取り組みとして、人的資本経営の新たな可能性を示している。
なお、本研究成果は、伊藤忠テクノソリューションズ、hootfolio、明治大学商学部加藤拓巳准教授の共同研究として、学術誌『Strategic HR Review』に掲載(※)された。
※Kato, T., Akashika, A., Yun, S., Kasahara, T., Ikeda, R., Yamada, E. (2025). Effect of a script for managers in charge of 1-on-1 meetings on employee satisfaction. Strategic HR Review, 1-7.
因果AI causal analysisについて
日本電気株式会社(NEC)の研究所で開発された独自のAI技術により、従来の分析では見えづらかった「原因と結果」の関係性をデータの中から抽出・可視化。統計の専門知識がなくても直感的なインターフェースにより、「何が成果を生むのか」という問いに答え、ビジネスの次のアクションを科学的に導くことを可能にする。従業員エンゲージメントを高めるための要因分析など、人事領域でも活用が拡大している。
