買い手がおかれている「あいまい」な状況とは
前回はBtoB営業組織における「文書」の重要性と文書の目的やつまづきやすいポイントについて解説しました。今回は、売り手と買い手側がおかれている状況を解説しつつ、具体的な文書作成術に踏み込んでいきます。
未知の仕事には「このとおりに進めれば絶対に成功する」というマニュアルがありません。そのため、売り手が提案を始める際、買い手側(見込み客・顧客側)の「あいまいさ」「多義性」「不確実性」は非常に高くなっています。つまり、ツール選定ひとつとっても、明確な基準で取捨選択することができません。
そもそも買い手側の担当者が「営業DXに取り組みなさい」などふわっとあいまいな目標だけを与えられているケースは少なくありません。営業部長はSFAを導入して見込み客・顧客の商談状況を可視化し、商談管理をしやすくなることを営業DXであると考える一方、副部長は顧客の製品利用状況をモニタリングするツールを用いて、追加の製品導入提案を行えるようになることを営業DXと考えていることもあります。このようにひとつの概念・事象に対し、複数の解釈があることを「多義性がある(高い)」と言います。
そのような状態では、途中で方針転換をする、取り組むプロジェクトの優先順位が下がり、別のプロジェクトに取り組むことになることも日常茶飯事です。このようにして進んでいく仕事を「非線形」と言います。見込み客・顧客は所属している企業や部署の業務について豊富な経験を有しているプロフェッショナルだとしても、プロジェクトを進めることのプロとは限りません。最初から理路整然と計画を立て、試行錯誤することなくプロジェクトに取り組んでいる組織はほとんどないのです。
売り手側と買い手側の状況のミスマッチ
一方で、セミナーや展示会などで見込み客と接点をつくり、インサイドセールスが架電を行い、獲得したアポからフィールドセールスが商談を進め、受注したらカスタマーサクセスに引き継ぐという売り手企業側の仕事の進め方は、ルーティン・線形そのものです。ヒアリング項目やトークスクリプトを準備し、オンボーディングで行うトレーニングメニューなども用意し定型化する。これらは既知の仕事になります。
未知・非線形のプロジェクトの進め方をしている組織(買い手)と、既知・線形のルーティンワークの進め方をしている組織(売り手)とが、あるタイミングで出会い交わるとき、そこには人材と状況のミスマッチ、情報のインプット・アウトプットのアンバランスといった問題が起きます。
まず人材と状況のミスマッチについて見てみましょう。対象はインサイドセールスが見込み客・顧客と出会うタイミングです。売り手企業の多くが、若手社員や外部ベンダーにインサイドセールスを任せています。これらの人々は語弊を恐れず言えば、自社製品や見込み客の業界への知識が少ないケースが多いです。当然、ヒアリングのスキルも決して高いとは言えません。売り手企業視点では、たくさんの見込み客と接点を持つことを優先するため、このような体制で臨むケースが多いのでしょう。
一方で、この時期の見込み客は、ある目標を実現する手段を探している時期にあたり、あいまいさ・多義性がもっとも高い段階にあります。そこで、売り手企業がトークスクリプトに沿ってヒアリングを行っても、見込み客自身もわかっていないことが多く、売り手企業が知りたい情報に答えられない、答えたとしても実は適当、ということが発生してしまうのです。
つまり、この状況の見込み客から経験やスキルに乏しいインサイドセールス担当者が、売り手企業の目的であるアポや商談獲得に役立つ情報を聞き出す難易度は非常に高いのです。