インサイドセールスの採用に「カルチャーフィット」が必須なワケ
――なぜいまインサイドセールス組織は必要とされているのでしょう。
鐸木 理由はふたつあると考えています。BtoBビジネスにおける購買体験が変わったことがひとつ。サブスクリプション型サービスの提供が増えたことでオンプレミス中心の時代よりも、購買するお客様にとってシステムやソフトウエアの導入ハードルは低くなっています。そして、販売者からするとセールスサイクルが以前より短くなり、顧客企業とのコンタクトが1部門だけで完結することもあります。一方、容易に導入できるサービスのなかには「Must Have」ではなく「Nice to Have」のものも多いため、短いセールスサイクルの中で、製品知識の深い人がお客様に「バリュープロポジション(自社だけがお客様に提供できる価値)」を訴求することが求められます。これを効率的に実現することと、インサイドセールスとの親和性が非常に高いのです。
ふたつめは人材育成の観点からです。即戦力のスーパースター営業の採用にはコストがかかりますし、組織の「チーム戦略」にすぐフィットするのかという意味でもリスクがあります。これは、プロスポーツの世界でも同じですね。将来を担うようなスーパースター人材を社内で育てるための育成機関としてもインサイドセールスが必要とされているんです。
茂野 加えて少子高齢化が進み、2065年には日本の労働人口力は4割減るという調査結果もありますから、さまざまな「働くかたち」を企業側もつくっていく必要があります。現在働くことができていない方の中には、介護や育児など家庭の事情を抱える方も少なくありません。インサイドセールスは場所にとらわれず柔軟に働くことができる職種で、書籍内でインタビューを掲載したベルフェイスの岡崎莉絵さんも、愛知県からフルリモートで働き、チームリーダーにまでなっています。若手はもちろん、あらゆる方に就業のチャンスをつくることができますよね。
オンラインの営業という観点からも、オンライン商談の浸透は日本の商習慣では難しいとも言われてきましたが、コロナ禍で状況は一変しましたし、大企業向けの営業すらオンラインで可能だということも証明されつつあります。
――まさにインサイドセールス組織の必要性を感じ、組織を立ち上げている方々はお悩みもいろいろあると思うのですが、本日はポイントを絞っておふたりが「インサイドセールスの採用」で重視していることを教えていただけますか。
鐸木 ひと言で言うのであれば、「ジョブフィットよりもカルチャーフィット」です。
茂野 インサイドセールスこそ、カルチャーフィットが重要だと私も思います。今でこそテレワークも増えていると思いますが、これまでは1日中会社にいることも多い仕事でした。社内でメンバーと顔を合わせる時間も、圧倒的に多いんですよね。
鐸木 経験上、ジョブフィットありきの採用は、同じようなキャリアを積んできた人が増えることで「同質性」が高まるんですよね。カルチャーフィットを重視すると、自然とさまざまなバックグラウンドを持った人が集まる環境になり、「グループダイナミクス」と言いますか、1+1はいくらにでも化ける――というチームになっていくと思います。ジョブフィットしていない人を採用するのは不安かもしれませんが、インサイドセールスという職種は非常に「トレーナブル」なんです。
茂野 「トレーナブル」、つまり育てやすい環境があるからこそ、多様な人材を得られます。さらに、インサイドセールスチームの中で育った人材が多様性を維持したまま、即戦力としてほかの部門に異動することが、組織全体のダイナミズムを高める原動力になるとも感じます。
――カルチャーフィットな採用を実現するために大事なことを教えてください。
茂野 普段から自分たちが何を大事にしているチームかを明示できているか、つまりカルチャーの言語化でしょうか。それさえできれば、カルチャーフィットする人材の採用につながります。
鐸木 Amazonは非常にカルチャーの強い会社でして、「リーダーシップ・プリンシプル」という行動規範があります。根底に、マネージャーでなくても全員がリーダーであるという考え方があり、「Customer Obsession(お客様へのこだわり)」や「Ownership(オーナーシップ)」などの14項目から構成されています。入社面接の際は、面接官1人ひとりがこのうちの2~3項目を担当し、面接者との対話の中で、候補者の方がAmazonが求めているような考え方や、行動指針に合うような経験をお持ちかを確認していますね。また入社後も、この行動規範に則り、業務を遂行することが求められます。