ミーティングツールから“AIファースト”のワークプレイスに進化
Zoomのサービスといえばウェブ会議が有名だが、現在同社のコミュニケーションサービスには、ミーティング以外にもチャットやメール、電話が追加されており、業務領域でもカレンダーやドキュメント機能など多くの機能が備わっている。サービス名も「Zoom Workplace」に変わり、ひとつのプラットホームですべてのビジネスコミュニケーションやコラボレーションを実現する統合プラットホームサービス(UCasS、ユニファイド・コミュニケーション・アズ・ア・サービス)へと進化を遂げた。

「Zoom WorkplaceはUCasS基盤として使いやすいUIを備えつつ、さまざまな機能を低価格で利用できるコスト面や、高品質でコミュニケーションできるなどの理由で市場から高い評価を得ています。現在多くの企業が、既存のビジネスツールをZoom基盤に移すことを検討しています」(佐藤氏)

2021年8月にZVC JAPAN株式会社(Zoom Video Communications, Inc.の日本法人)に参画。 2024年2月に執行役員に昇進。ZVC JAPAN入社前は、富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)にて営業、マーケティングに従事。 米国Xeroxへの出向も経験、米国拠点ゼネラルマネージャー、グローバル企業向けの営業責任者などの要職を務めた。 これまで長くハードウェア、ソフトウェア、SaaS、BPO、コンサルティングなど、幅広いソリューションとサービスに携わってきた経験を活かし、現職では中堅・大手企業向けのZoomビジネス展開を主導し、成長と戦略を担当している。
その機能群をさらに強化・発展させるのがAIである。2024年10月、同社のビジョンは「人をつなぐ AIファーストプラットホーム」に変わり、Zoomが提供するサービスには生成AIツールの「AI Companion」が実装されている。ZoomのAIの特徴について、佐藤氏はAI機能が追加費用なしで使えることと、AIモデル利用におけるフェデレートアプローチのふたつを強調した。
「AI Companionのユーザーは、ワンクリックでミーティングの議事録を起こしたり要約したりできます。AIモデルは当然ZoomのAIを中心に据えていますが、OpenAIやAnthropic、Metaなどのエンジンも使えるので、良心的な仕組みといえるでしょう。今後はオンラインのみならず、オフィスや会議室での対面型ミーティングでも使えるAI Companionツールも提供予定です」(佐藤氏)


AIが面談を採点! 人材育成と定着をうながす“キーソリューション”とは
AIの実装により、Zoomプラットホーム上で行う営業活動やイネーブルメントのプロセスも飛躍的に進化を遂げている。最新のZoomプラットホームが実現する、自動化された営業活動の全貌について、佐藤氏は次のように説明する。
「見込み顧客に架電を行い、アポイントが獲得できたら自動的にカレンダーで空き時間を探し、ウェブミーティングであればURLの発行を行います。面談の前にドキュメントツール上でAIが必要なアジェンダが用意され、担当者はそれをもって面談に臨めます。対面・電話・ウェブミーティングの様子は録音・録画され、終了後CRMと連携して必要項目が自動入力されます。
さらにその後、のちほどご紹介する『Zoom Revenue Accelerator』が面談における重要なポイントを自動で分析・採点し、そのデータを担当者は次のステップに活かして社内にも共有できるようになります。これにより、現場とマネージャーがファクトベースで会話できる状態をつくることができ、営業力やイネーブルメントの強化、生産性向上につなげられるのです」(佐藤氏)

それらを実現する際のキーソリューションが、クラウドPBXの「Zoom Phone」と営業支援ツールの「Zoom Revenue Accelerator」である。
Zoom Phoneは、スマホとパソコン、固定電話からオフィス電話の受電・架電ができるクラウド電話サービスとなる。「03」「06」などの地域番号や既存の電話番号をそのまま使うことができ、かけ放題プランによって通話料も抑えられるという。

「オフィスのサーバーやオフコンがクラウド化されていったのと同様の動きが、電話の世界でも起きようとしています。すでにZoom Phoneは、企業の大小を問わず国内で20万ライセンス以上のユーザーに活用されています」と佐藤氏は説明する。
Zoom Revenue Acceleratorが解決する4つの営業課題
一方のZoom Revenue Acceleratorは、AI機能を搭載した会話型インテリジェントソフトで、「AI Companionが個人で使うAIツールであるのに対し、Zoom Revenue Acceleratorは組織で活用するAIツールという位置付け」(佐藤氏)となる。
労働力不足が加速する中で、営業現場ではさまざまな課題を抱えている。たとえばGartnerの調査によると、2021年の平均離職率は前年比36%で増加しており、新人の営業担当が自力で動けるようになるまでは90日から120日かかるという。また、フォレスターの調査によると、現場の営業職が顧客との面談に費やせる時間は労働時間の23.3%で、管理職が営業担当のコーチングに充てられる時間は14%しかないという。
「人材の確保が難しくなるにつれ、営業チームではひとり当たりにかかる負荷が高まっています。現場ではDXによりツールが増え、入力や報告業務が増えることで生産性が落ち、マネージャーも見るべき部門や部下の数がますます増えている状況です。その結果、人を採用できても現場ではオンボーディングが進まずに営業力が高まらず、入社した人材もマネージャーから話を聞いてもらえず、エンゲージメントが低下し退職してしまうという負のサイクルに陥る組織が多いのが実情です」(佐藤氏)

Zoom Revenue Acceleratorを活用することで、それらの問題を「オンボーディング・イネーブルメント早期化」「付帯業務の削減」「営業活動の可視化によるマネジメント強化」「VoCの活用」という4つの観点から解消できるという。
「まず、面談の成功と失敗のデータを蓄積して解析することで、新人のオンボーディングを速めつつ、ハイパフォーマーの行動をもとに効果的な人材育成が可能になります。システム面ではAPIでさまざまなCRMと連携できるため、入力の手間がなくなり、入力や報告業務に費やしている時間をお客様との接点に使えるようになります。また、面談における重要なポイントをAIが自動採点するため、マネージャーはデータをもとに営業活動の正確な評価を行うとともに、個人の強み・弱みを把握して適切なコーチングができます。加えてお客様の声が自動でたまっていくため、それらのデータを営業戦略や商品戦略に活かしていくことも可能です」(佐藤氏)

年間10万回以上の会話データは“宝の山” 活用基盤にZoomを採用
続いて、Zoom Revenue Acceleratorによってイネーブルメントの成果を挙げている、RENOSY(GA technologies)の福島氏が登壇。自社での活用事例を語った。
テクノロジーを活用したAI不動産投資サービスを展開している「RENOSY(リノシー)」では、面談をオンラインで完結するかたちでサービスを提供しており、年間10万回以上電話や面談が行われ、オンラインの会話数が圧倒的に多いという。その中で、事業成長のための施策の一環として、2024年にZoom製品を導入し、会話データを利活用できる仕組みを構築している。


「顧客体験の向上、より良い商品やサービスの設計、営業の成約率を上げるためのヒントは、すべてお客様との会話の中にあります。会話のデータを活かせていないと、営業担当者のセンスや経験で提案されがちです。会話の内容をしっかりと分析したうえでフローができると、データをもとにお客様に最適かつ確度が高い提案ができるようになります」(福島氏)

新卒で不動産会社に入社し3年間法人営業を担当。2017年、サイバーエージェントに転職し、AI事業本部にて広告プロダクトの新規事業開発を推進。2020年1月にGA technologiesに入社し、新規事業の立ち上げ等を経て、現在は不動産投資サービスRENOSYにおけるセールステック推進の責任者を務め、テクノロジー活用による営業生産性向上を担う。
Zoom導入前の営業スタイルは、社用携帯で電話業務を行い、録音・録画はされているものの会話の内容はブラックボックス化し、面談時に使っていたシステムもデータの蓄積・活用がしにくかったと福島氏は言う。育成も基本的に人が同席して直接指導していたため、リソースの関係上、すべての面談について指導することは難しかったという。
そこで同社は電話をZoom Phone、面談ツールをZoom Meetingに刷新し、育成の仕組みとしてZoom Revenue Acceleratorを導入した。その結果、現在は営業会話の内容を蓄積して活用できるようになったという。


「Zoomの導入により、お客様との会話データの一元化、データ活用を進めるにあたってのデータの構造化・標準化、CRMへの登録や議事録生成作業の効率化、確度の高いイネーブルメントなど、多くの成果が得られています。定量的な成果としては、電話や面談の議事録が自動生成されたことにより、年間数千万円規模のコストを削減できています」(福島氏)
月間売上高が1.5倍に データドリブンのセールス・イネーブルメント
AIによって面談を同じ基準で評価できるようになったことで、セールス・イネーブルメントの仕組みも整ってきている。ハイパフォーマーとローパフォーマーの差分が可視化され、ギャップを人がサポートして埋めていくというスタイルが確立されたという。


「ZoomのAI機能により、年間10万回以上ある会話データを評価できるようになりました。AIによって面談が“同じ基準”で採点・評価されることで、営業担当者間の比較が売上などの数字以外の面でできるようになりました。これにより今自分はどこを強化すべきなのかが可視化でき、そこに対してイネーブルメントメンバーが育成をサポートしています。実際に、Zoom Revenue Acceleratorを活用した評価スコアをもとにイネーブルメントを実施したメンバーは、そうでないメンバーと比べて月間の営業売上高が150%伸びたという数字も出始めており、効果を実感しています。」(福島氏)

さらにお客様の発言内容も構造化・分析できるようになり、「より高い顧客体験に向けたサービスの磨きこみができるようになった」と福島氏はさらに成果を語る。
「最終的にはZoomの機能を用い、AIで多くの会話データを活用できる状態にし、その精度を上げていくことで、人員増加に頼らずに事業を成長させられる組織になりたいと考えています」(福島氏)

最後に佐藤氏は、「営業の活動はブラックボックス化されている部分が多く、それを現場の経験や教育で身に着けるのはとても難しい」と改めてセールス・イネーブルメントにおける課題を強調。そのうえで「Zoomは、データとAIによる分析で課題解決のお手伝いができます」と述べ、セッションを締めくくった。