セールス・イネーブルメントの構成要素は
「データ」「行動変容」「成果」
──「セールス・イネーブルメント」の定義を教えてください。
セールス・イネーブルメント(Sales Enablement)の直訳は「営業が○○をできるようになる」です。営業組織の最終目標は“成果を出すこと”ですから、「営業が成果を出せるようになる(=売れるようになる)」ことを意味します。「成果起点で営業を育成する取り組み」──これがセールス・イネーブルメントのもっともかんたんな定義と言えるでしょう。
もう少し具体化すると、「データを通じて人の行動変容を促し、営業の成果を継続的に最大化する取り組み」と定義できます。
まず、自社の営業担当者のスキルや営業成果といった「データ」に基づき現状を把握し、“誰に、どのような育成をするのが効果的か”を特定します。次に、研修やロールプレイングなどのトレーニング、マネージャーによるコーチング、商談分析ツールやナレッジ集約システムなどを導入することで営業の「行動変容」を促します。そして最終的に「成果」を継続的に最大化させていきます。
この「データ」「行動変容」「成果」の3つの要素が仕組みとしてつながっていることが、セールス・イネーブルメントにおいて押さえておくべき非常に重要なポイントとなります。
なぜセールス・イネーブルメントが必要なのか
日本の営業組織が抱える課題
──そもそも、なぜセールス・イネーブルメントが組織に求められているのでしょうか。
営業組織が「育成」の取り組みを何もやっていないかというと、もちろんやっているのです。にもかかわらず、育成が進まず、成果が上がらない組織は少なくありません。その原因として、営業組織が抱えている3つの課題が挙げられます。
ひとつめは「一過性」。研修などのトレーニングを1回実施しただけで終わってしまうことです。ふたつめは「属人性」。「マネージャーの背中を見て覚える」といった育成が行われている状況です。3つめは「ブラックボックス化」。これは営業のプロセスや、受注/失注の要因などの営業データが可視化されておらず、問題点がどこにあるのかを把握できない状況を指します。
実際に、「マネージャーが忙しすぎて育成がなかなか進まない」「そもそもSFAにデータが入力されておらず、データ活用ができない」という悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
これら3つの課題のうちどれかひとつでも生じていると、営業育成や営業強化の取り組みを行っても、成果につながりにくくなります。まさにそこにメスを入れ、再現性をもって組織が強化される仕組みをつくるのが、セールス・イネーブルメントです。
──米国に比べて日本ではセールス・イネーブルメントの取り組みが遅れていると言われていますが、日米の大きな違いはどこにあるのでしょうか。
ひとつは、米国ではセールス・イネーブルメントに関するサービスを提供するベンダーがすでに多く存在し、M&Aなども積極的に進められている状況にある一方、日本では最近盛り上がりはじめたばかりで、イネーブラー(イネーブルメントを推進する人)がまだまだ少ないという現状があります。
そして、もっとも大きな違いは「セールス・イネーブルメント専門の部門が設置されているか否か」です。海外ではイネーブルメントの部門が経営企画部や営業企画部の中に設置されていることが多いですが、日本においては、そのような部門が設置されているケースはまだ非常に少ないです。
では、日本の組織で育成の責任を誰が背負っているのかというと、営業マネージャーです。部下のOJTはもちろん、営業資料などのコンテンツ準備や、トレーニングの提供もマネージャーが担っていることが多く、これでは効率的な育成サイクルを回すことは到底できません。
また、マネージャーになる人はプレイヤー時代に営業成績が良かった人が多く、「教える専門家か」というとそうではありません。マネージャーの役割は売上をつくることが主であるため、育成の土台をつくる役割は本来、育成の専門性を持つ部門が担うべきなのです。それがまさにイネーブルメントチームであり、この部門がコンテンツやトレーニングなどを設計し、営業チームに武器として渡す役割を担います。
つまり、育成の仕組みをつくったり、準備したりするのがイネーブルメントチームの役割、それらを各営業担当者に実践させるのがマネージャーの役割と言えるでしょう。