これからの時代、「価値訴求」できる営業が生き残る
ソフトブレーン社は、SFA/CRMツール「eセールスマネージャー」を中心に、営業コンサルティングやトレーニングなどを提供し、営業の業務変革をサポートしている。今回、営業支援のプロフェッショナルである同社の川上氏が、「価値訴求にすべてをかける営業テクニック」をテーマに講演を行った。
このテーマの背景には、これからの営業パーソンは商品・スペックの紹介だけでは生き残れないという実態がある。川上氏は内閣府の資料を抜粋し「今後生き残っていく職種は、おもてなし人材、IoTを担う技術、そして高額品を売れる営業・戦略スタッフ」だと説明。営業人材に限らず、今後は価値ある技術・サービスを提供できる人材が重宝される。単純作業はAIに取って代わられるのだ。つまり、これからの営業パーソンは「価値訴求にすべてをかける」必要があると川上氏は言う。
そもそも価値訴求とは何だろうか。川上氏は3人のレンガ職人の逸話を紹介した。旅人がレンガを積んでいる労働者3人に「あなたは何をしているのか」とたずねたところ、ひとりは「レンガを積んでいる」、ふたりめは「壁をつくっている」、最後の3人めは「街に安寧をもたらすために大聖堂を建てている」と答えた。ひとりめとふたりめが自分の仕事を作業・機能ととらえているのに対して、3人めは価値を提供するものとしてとらえている。
「営業活動で言えば『こういう機能がありますよ』ではなく、『こういう効能をもたらしますよ』ということを伝えられるかどうかが鍵。これが価値訴求になります」(川上氏)
では、なぜ顧客は価値を欲するのか。それは「皆様の会社の製品と似た機能やスペックを有した製品・サービスが世の中にあふれているという前提があるから」と川上氏は説明する。中には同程度の機能でより安い製品もあるだろう。「だからこそ、顧客はもっとも重要な判断軸として、自分自身が良い顧客体験を得るための価値を求めている」と言う。
川上氏は「皆さんも普段、顧客体験と価値を欲している」と、ふたつの例を挙げた。ひとつはマスクを購入する際。価格の幅は多少あれど、口を覆うという機能はどの商品も変わらない。そこで、購入の決め手としてレビューやクチコミを参考にする。「レビュワーがどんな価値を得られたか、どんな良い顧客体験を得られたかに注目する」のだ。
もうひとつの例として、日本におけるiPhoneの普及率が高いことに注目した。世界ではAndroidのほうが普及率が高いのに対し、日本ではiPhoneの普及率が60%を超えて逆転している。操作性やサポートのわかりやすさ、ほかのApple製品との互換性、そしてクルーによる丁寧なサポートが選ばれる理由だ。「多くの人が使うことで、多様な顧客体験が蓄積され、それに触れることができる。これも選ばれる理由になる」と川上氏は言う。
「自社の価値」を正しく見出すフレームワークを紹介
営業が価値訴求を行うには、まず自社の商品・サービスの「価値」を正しく把握しなければならない。そこでソフトブレーンがコンサルティングをする際に使っているのが「特性価値検討法」だ。自社の有する特徴がどんなニーズに応えられて、どのような顧客体験をもたらすのかを考えるフレームである。使い方はシンプルで、「商品・サービスの特性」と「ユーザーのニーズ」を書き連ねて、このふたつが重なり合う「ユーザーにとっての価値」を見出す。たとえばUber Eatsをこのフレームに当てはめると、次の図のようになる。
Uber Eatsというサービスの特性は、多くの飲食店が加盟していて配達員も豊富であること。そして注文から支払いまでスマートフォンのアプリ上で完結できること。一方、ユーザーのニーズは、注文できる商品の幅を広げることや「このタイミングで配達をしてほしい」といった時間のコントロールが挙げられる。
特性とニーズの重なり合うところがUber Eatsの「価値」にあたる。お気に入りの料理をタップひとつで注文できる。配送状況をリアルタイムで把握でき、ライフスタイルに合わせて受け取り方法を選べるといった点だ。
川上氏は「類似サービスはありますが、もっとも台頭しているのはUber Eatsだと思います。この価値提供をいち早く行ったことで、結果的に皆に選ばれたのでは」と分析した。
ただ、このフレームワークだけでは自社の価値を見出しづらい場合もある。そこで川上氏はもうひとつの手段として「既存顧客に聞く」ことを推奨した。「なぜ我々を選んでくれたのですかと聞いてみてください」と川上氏。実際に、あるリフォーム会社が既存顧客にたずねたところ、「近かったから」という回答が圧倒的に多かったと言う。たしかに、その周辺にはほかにリフォーム会社がなかった。ここから「●●エリアのクチコミ満足度・リフォーム実績No.1」という価値を創出できたのだ。
そのほかにも「価値の源泉になるものはあふれている」と川上氏。商品そのものの価値や会社の価値はもちろん、会社・商品が有している情報や付帯するサービス、そして従業員、つまり人材の豊富さも価値につながる。「会社、商品、情報、サービス、人の5つの軸を中心に価値を検討すると良いのではないか」と提唱した。
1週間サイクルの「5つのアクション」で価値を訴求しよう
自社の価値がわかったら、それをどのように訴求すれば良いのか。月曜日から金曜日の1週間の流れになぞらえ、価値訴求する際の5つのアクションを紹介した。
月曜日は「教える・学ぶ」。まずは価値訴求の方法を学ぶ必要がある。川上氏は自社で採用している方法として「ブロックカード」を紹介した。ブロックカードは、価値を伝えるための資料・トークを起こしたいわば“あんちょこ”的な教材だ。また、カードだけでなくプレゼン動画も教材化している。これをウェブにアップし、スマートフォンでいつでも確認できるようにしていると言う。顧客は「同じような悩みを有している企業が、そのサービスでどんな顧客体験を得られたのか」という「事例」を求めている。顧客の実際の声を交えた事例を用意すると効果的だ。
火曜日が「練習」。先ほどのブロックカードを基にロールプレイングを行う。ソフトブレーンの場合、新卒はまずロールプレイングで価値訴求できるようになることを目指す。ブロックカードに紐づいた採点表をつくり、70点以上を記録すると顧客への訪問ができるようになる。
水曜日は「実践」だ。ウェブ商談の場合、次の「振り返り」のために顧客の許可を得て録画できると良い。商談で価値訴求を実践するときのポイントとして、川上氏は「結論ファースト」を挙げた。「こちらは○○様に対して▲▲なメリットをもたらします」のように、顧客が得られる価値を最初に伝えることが重要だ。
木曜日は「振り返り」である。チームで週に1回、商談動画を見ながらフィードバックを行うと良い。商談中には見えていなかった顧客の反応を俯瞰的に見ることで改善につながると言う。
最後の金曜日は「改善」。振り返りを経て「どうすればお客様により価値が伝わるのか」という改善方法をメンバー全員で考える。改善案をマネージャーから押しつけるのではなく、商談を行ったメンバー自身が、顧客から得られた反応を客観的に見たうえで改善する。このサイクルを回すことで商談内容は良くなっていくと言う。
川上氏はまとめとして、「スペック・企業説明は捨て去り、価値訴求に全振りしましょう」と改めて強調した。これからの時代を生き抜くためには、高い付加価値を提供できる営業パーソンを目指さなくてはならない。顧客は良い顧客体験を得るための価値を判断軸にしているため、自分たちの価値がわからなくなったら、既存顧客にたずねることが有効だ。
そして、価値訴求のアクションは「学ぶ・教わる」「練習」「実践」「振り返り」「改善」のサイクルを1週間単位で回していく。このとき、マネージャーの一方的な意志で行うのではなく、顧客に相対しているメンバーを巻き込んでいくことがポイントになる。川上氏は「これらが、価値訴求できる営業組織をつくるうえで有効な策です」と話し、セッションを締めくくった。