エンタープライズ営業は「アカウントプランニングの型」が肝
──まず、千葉さまのお役割をうかがえますか。
ラクスルに入社したのは2021年の7月です。執行役員から、エンタープライズ領域で新しい事業を立ち上げる話を聞き、営業組織をつくるところからコミットするかたちでジョインしました。
その後、2021年の10月に法人向け印刷物・販促物発注一元管理サービス「ラクスル エンタープライズ」が立ち上がり、現在セールス・マーケティング責任者を務めています。
「ラクスル エンタープライズ」は、大企業や中堅企業の煩雑な印刷・販促業務を管理統制し、印刷物を一元管理するサービスです。企業はネット印刷を活用できるようになることで、コスト削減や生産性向上を実現することが可能になります。
──ラクスルで営業の「型化」に取り組んでいるとうかがっています。型化の必要性に気づいたきっかけは何だったのでしょうか。
型化の必要性を強く感じたのは、SaaS業界のキャリアを始めたイーリバースドットコム(現 リバスタ)にいたときのことでした。
当時のイーリバースドットコムは、トップの営業メンバーは商談でバンバン売れる一方、売れないメンバーはなかなか売れない、そんな状態でした。要は、チームとしての中央値が悪かったんですね。そこで、「The Model」など型や仕組みに関するワードが流行り出したこともあり、営業の型化に取り組むことになりました。
──型化に取り組むことで、どのような成果が得られましたか。
シンプルに、「救われる」人が多くなったと思います。昔であれば、上位20%の人しか成果を出せないのが営業でした。上位20%が200点を取り続けて、ほかの人は50点しか取れないような世界だったのが、型によって80点をとれるプレイヤーが増えたのは、確実な成果だと思います。
かつての営業組織では、圧倒的なトッププレイヤーが君臨して「売れるから偉い」という雰囲気があった企業も多かったはずです。トッププレイヤーの独裁的な雰囲気が蔓延し組織の空気が悪くなることもあったでしょう。すると優秀なメンバーもトッププレイヤーとの折り合いが悪くなり対人関係のストレスが増え、離職率も高まります。
一方、型・仕組みを生かすには個ではなくチームの視点が必要です。成果が出だすとチーム全体の成功リズムができあがり、ポジティブな空気が伝播していきます。そうすると組織の空気も自然と良くなります。
──現在、ラクスルではどのような点を重視して型化を進めているのでしょうか。
エンタープライズ営業とMM・SMBの営業では、アプローチが違う点は意識しています。たとえば、エンタープライズ営業で重要なのは「アカウントプランニングの型」ですね。大企業の決裁者・チャンピオンのニーズに合う、もしくはインサイトを与えるような商談内容の準備、アカウントマネジメントができているかが鍵を握ります。
当社のエンタープライズ向けの営業組織ではThe Model的な分業をしていません。アカウントエグゼクティブと呼ばれる営業が顧客を担当しているため「分業プロセスの型」がないのです。提案内容をアカウントプランニングとして型化し、商談深耕率をどんどん上げて2回め・3回めの商談へと進めることを重視しています。
一方、MM・SMBのお客様に対しては、個々のプロセスに対してKPIを設定する「分業プロセスの型」をしっかりつくるほうが向いています。具体的には、リードの商談化率がいくらで、成約率も見ながら受注がいくつあるかをプロセスごとに管理して、各パイプラインのボトルネックを特定しています。
──顧客の企業規模によって型も変わってくるのですね。ラクスルのエンタープライズ向けの営業組織では、提案内容をどの程度まで型化しているのでしょうか。
「仮説」を持っていくことを徹底しています。具体的には、お客様の中期経営計画や組織図、プレスリリース情報などを見て、今どんな課題を抱えているかを見ていきます。たとえばSDGsへの課題感があるとわかれば、「ラクスル エンタープライズ」導入によるコストカット以外に、環境配慮の観点からも訴求すれば経営陣の評価も得られるぞ、といった仮説などです。
そもそも、大企業の決裁者・チャンピオンは営業を受け慣れているもの。営業として仮説を持っていないと「何も考えないで商談に来たのか」と思われてしまいます。私は「サイレント失注」と呼んでいるのですが、1回めの商談を取り付けても、その先の2回め商談に続かないケースはどこの会社でも多いんですよね。
シンプルに、「貴重な時間をいただいているのだから、最大限良い提案ができるようにしよう。そのために徹底的に事前に調べよう」という話です。顧客側の担当者の方にも、しっかり準備してきたのか、そうでないかは伝わるものですから。