顧客起点の新たなセールス手法、“インテントセールス”
「営業DXの現在と今後」について、CrossBorder 荻原慎太郎氏をファシリテーターとして、CrossBorder 小笠原羽恭氏、EVeM 鈴木純太氏、マツリカ 中谷真史氏のパネルディスカッションが実施された。
最初に中谷氏が、アメリカのSales Techにおける3つのトレンドについて解説した。ひとつが、AIに対する高い関心。ふたつめが、分業式の営業組織が統合される揺り戻し傾向。そして3つめが、営業やデータ分析が売り手主導から買い手主導へ、顧客起点になりつつあることだ。
顧客起点のセールスとはいったい何なのか。鈴木氏は、顧客の立場や目線に立とうと取り組む企業も多い一方、顧客起点のセールスを実現するためには、その解像度を上げる必要があると指摘した。たとえばターゲットとなる企業のニーズ分析や、顧客の満足度を深掘りすることが重要だという。
顧客の解像度を高めることについて、小笠原氏は、顧客の言葉そのものではなく、その言葉を発した真意が重要だと指摘。言葉の裏にある真意を掘り下げて特定し、応えていくことが必要になるが、難易度は非常に高い。そこで、今後はインテントデータの積極的な活用が重要になるという。マーケティング領域ではMAツールによって顧客の行動がある程度把握されている一方、セールスの領域ではまだ少なく、「顧客の行動起点で興味関心を分析する方法のひとつとして、インテントセールスがある」と小笠原氏は語った。
セールスの“ブラックボックス”に挑戦 注目ツールの紹介
続いて、顧客起点をテーマに、登壇者たちが注目するSales Tech業界の注目領域・注目サービスを紹介した。
小笠原氏は、商談獲得という視点からセールスインテリジェンスプラットフォーム「Zoominfo」 を挙げ、3つの特徴を解説した。ひとつめが、インテントデータの活用による商談獲得だ。ふたつめが、顧客との電話や商談をAIで分析する機能。カンバセーションインテリジェンスの分野で提供している同機能では、アプローチのタイミングや提案内容など、未来を見据えた顧客起点のデータ分析が可能となる。
そして3つめが、興味関心が高まっている企業にマルチチャネルでインターネット広告を出稿する機能だ。従来型のターゲティング広告と異なり、インテントデータにもとづいてクリエイティブを作成・配信することで、インサイドセールスの商談獲得やその後の成約に結びつきやすくなる。セールスとマーケティングを統合する同思想は、今後日本にも上陸するだろうと小笠原氏は見解を述べた。
鈴木氏は、ナーチャリングの視点からセールスエンゲージメントツール「Outreach」を挙げた。メール配信やフォローアップ、タスク管理といった営業のワークフローをテンプレート化して自動化する“シーケンス”、行動や属性に基づきメール内容を調整する“パーソナライゼーション”、メール開封やクリックなどのデータから効果を分析する“パフォーマンス”の3つの特徴を紹介。とくにシーケンスは営業メンバーごとに設定でき、パフォーマンスを比較することでイネーブルメント面でも効果を発揮するという。
さらに鈴木氏は「クロージングや受注など商談がフォーカスされる一方、こまめなDM送付や架電など、商談と商談の間のノウハウがブラックボックス化している」と指摘し、シーケンスにより、この課題が解消されるのではないかと語った。
最後に、中谷氏はデジタルセールスルームの視点から「GetAccept」を挙げた。提案書や資料等をデジタルセールスルームに格納し、どの資料を閲覧したかなど商談に関するあらゆるデータを収集することで、顧客の興味関心に合わせた提案が可能になる。日本でも資料のトラッキング機能は登場しているが、ひとつの資料の閲覧状況に留まらず、商談の内容や議事録などすべての情報を一元管理できるのが特徴だ。セールスの最後のブラックボックスである“商談の中身”に切り込むツールだと中谷氏は語った。
3人が挙げた注目のサービス・プロダクトについて、萩原氏は「顧客起点を、顧客の行動やインテントに基づいてアクションをパーソナライズすることだと捉えている点が共通している」と総括し、顧客起点のトレンドにあわせ、グローバルではさまざまなツールが積極的に運用されていることを示唆した。
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マーケティングとセールスを一気通貫に 国内変革の予感
国内のSales Techについて、中谷氏は「日本のカオスマップには空白が多い」と指摘する。今回カオスマップにSales Markerを掲載したことに対し、「これまで、Zoominfoは日本で実現できるのだろうかという疑問があった。Sales Markerの登場により、マーケティングからセールスを一気通貫でつなぐという点で、日本に革命が起きるのではないか」と、中谷氏は今後の展望を語った。
最後に荻原氏は、今後国内では何を意識してセールスに取り組んでいくべきか登壇者へたずねた。鈴木氏は「自社の戦略を考える際、海外のSales Techのホワイトペーパーは非常に勉強になる。たとえば前職でプロダクトを開発した際も、Outreachのホワイトペーパーから着想を得た。まずは日常的にホワイトペーパーをダウンロードしてみるなど、できる範囲からやっていくことが大切」と語った。
小笠原氏は、自身のコンサルティングファームでの経験から、DXが進まない理由として、(1)データを取得していない、(2)集めたデータを分析していない、(3)社内のデータがサイロ化しているなど、多くの企業でデータ活用が課題になっていると指摘する。「今後、データを活用してセールスに取り組む企業が増えることが楽しみ」と、より活発なデータ活用を推奨した。
中谷氏は「とにかく変化が多い時代、学ぶことで時代にあわせて自分を変化させていかなければいけない。我々のようなSales Techベンダーは、ツールを利用する企業に対しては大きな価値を提供できる一方で、アナログ営業に対する強力なライバルにもなり得る。一緒に新しい時代、新しい技術にチャレンジして、営業価値を高めていければと願っている」と、ともに成長する未来に期待を寄せた。
部門最適から全体最適へ ビジネス・イネーブルメントの重要性
「BtoBマーケティングのトレンドとインテントデータの可能性」では、BtoBマーケティングにおける戦略策定について、小笠原氏とsuswork 田岡凌氏が登壇した。
田岡氏は、「BtoBのすべての商材は顧客の課題を解決するために存在している」という原点を踏まえ、BtoBのマーケティング戦略の策定では、リード獲得や商談獲得といった顧客接点最大化のみならず「課題啓蒙」と「信頼醸成」が重要だと指摘する。
多くの顧客は自社の課題に気づいていない場合が多い。そのため、まずは顧客の潜在的な課題を可視化して、ともに解決策を見つけ出すことが必要となる。さらに、提供する解決策が顧客にとって真に有益であることをリアリティをもって伝えることで信頼感を醸成し、意思決定に反映させていく。課題啓蒙と信頼醸成を実施したうえで、まさに顧客が課題に直面するタイミングでの接点を最大化するという設計が重要だと田岡氏は解説した。
「課題啓蒙」と「信頼醸成」の重要性を踏まえたうえで、今後注目するべきBtoBマーケティングの施策として、田岡氏は3つの施策を挙げた。
ひとつめは「BtoBブランディング」だ。単に認知を高めるだけでなく、認知からカスタマーサクセスのプロセスに至るまで、すべてのビジネスファネルで継続的に顧客の課題を啓蒙して信頼を獲得し続けるブランディングが重要になると田岡氏は語る。
ふたつめが、「インテントデータの活用」である。接点を持ちにくい“ニーズが顕在化している新規顧客”との接点獲得において、インテントデータを用いたアプローチが鍵になると示唆した。
最後に、田岡氏は「ビジネス・イネーブルメント」について言及した。マーケティングやセールスなど各部門で最適化したIT活用やKPIが、ビジネス全体で考えたとき必ずしも最適とは限らない。インテントデータ活用を進める中でも、部門最適から全体最適へ視点を転換した人材の育成が重要になると田岡氏は語った。
小笠原氏も、「リード獲得をKPIに設定したが商談化しない、ツールを導入したが使いこなせないという事例もよくある」と、ビジネス・イネーブルメントの重要性に同意した。
セッションの最後に、BtoBマーケティングにおけるインテントデータの活用について解説があった。田岡氏は、「新規顕在顧客の獲得において、デジタル広告・ナーチャリング・アウトバウンドの商談獲得・リサイクル商談の獲得・カスタマーサクセスと、非常に広い範囲で活用されていくだろう」と語る。ビジネス全体最適でインテントデータを活用することを前提に、今フォーカスするべきエリアを考えることが重要だと指摘した。
さらに、戦略マーケターの視点から「インテントマーケティング・インテントセールスは、ABMに変わる次世代のセールスマーケティング手法になるだろう」と田岡氏は示唆した。
「これまでデモグラフィックにしか取得できなかったデータが、ニーズドリブンに変わっていくでしょう。本当に接点を持ちたかった企業と接点を持てるようになるという意味で、BtoBマーケティングの次世代を担うものになっていくと確信しています」(田岡氏)
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リリースから1年強で1,780個の機能追加を実施
「Sales Markerの今後と開発計画」では、小笠原氏とCrossBorder 陳晨氏が登壇した。
最初に、小笠原氏よりSales Markerの成果報告が実施された。2022年のリリースから約1年で、Sales Markerは人材系企業やSaaS系企業などさまざまな業界でおよそ130社に導入された。加えて、セールスの非効率的な部分を変えていきたいという思いでメディアにおける発信も強化している。また事例インタビューにも注力しており、「ベストプラクティスとなるような事例を皆さまに共有しながら、より根本的な営業課題を解決できるように支援していければと考えている」と今後の展望を語った。
続いて陳氏より、Sales Markerの開発環境が紹介された。Sales Markerは2022年2月にサービス構想を開始し、1年3ヵ月で1,780個の機能を追加している。そのうちの3割がユーザーからのフィードバックによるもので、「ユーザーによってプロダクトを育ててもらったと感じている」と陳氏は語る。
陳氏と取締役 渡邉駿也氏のふたりでスタートした開発チームも現在は8名体制となり、今後はメガベンチャーで経験を積んだエンジニアの入社が予定されている。今後もさまざまなフィードバックを得て、チームを拡張し、「わくわくするようなプロダクトの開発を続けていきたい」と陳氏は語った。
新しい営業体験を提供する、3つの新機能
今後のプロダクト開発について、陳氏は3つの機能アップデートを紹介した。ひとつめが、2023年4月リリースされた「Sales Marker Workflow」だ。たとえば「5億円以上の資金調達をしたスタートアップ企業のうち、CMやタクシー広告用の動画制作のインテント(※)が発生した場合、自動でメールを送る」というように、特定条件に当てはまる企業がトリガーとなる行動を起こした際、指定のアクションを自動で実行するよう設定できる。CrossBorderでは2023年のミッションとして“セールスオートメーション”を掲げており、ワークフローの機能強化に取り組んでいくと解説した。
(※)インテント=ウェブ検索行動履歴を分析して購買意図の発生を検知
ふたつめが、2023年6月にリリース予定の「Sales Marker ICP」だ。既存の顧客リストをアップロードすると、AIが既存顧客の特徴を分析してTier1・Tier2・Tier3に分類し、それぞれの特徴と傾向を可視化する。これにより、インサイドセールスや営業、マーケティングのリソースをもっとも受注確度が高い顧客に集中させることが可能になる。
3つめが、2024年リリース予定の「Sales Marker GPT」だ。ChatGPTとの連携機能で、ターゲット企業が取り扱う商材や、インテントデータから推測できるニーズに合わせた文面の作成・送信までを自動で行う機能をはじめ、セールスパーソンをアシストするさまざまな分析・提案機能が搭載される。「AIによるサポートをもとに、さらなる新しい営業体験が得られる」(陳氏)として、現在開発を進めている。
機能紹介ののち、小笠原氏は「私たちが一貫して提供したいのは、セールスにおいて本来集中すべき活動へのフォーカス」だと語った。2024年に向けてさまざまなセールス予測やロードマップを提供し、セールスとマーケティングの垣根を取り払うことで、営業活動やマーケティング活動のさらなる進展に貢献していくと今後の展望を語る。
「データを活用することで、アウトバウンドセールスをクールで楽しい職種にしていきたいと考えています」(小笠原氏)
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