「最大公約数」の話になる、集合研修への疑問
――佐藤さんは、バリバリのトップセールスだったそうですね。どのような経緯で、販売・営業担当者の育成や指導に関する事業をされるようになったのでしょうか。
かつては携帯電話やスマートフォンなどの販売を担当しており、時流にも助けられて圧倒的に成績がよかったんです。上司や経営層に「なぜ佐藤はこんなに売れるのか」と怪訝がられるほどで、自然と営業のノウハウを後輩に伝授する教育担当になりました。私自身はというと、新入社員の頃から「鬼の営業部長」と呼ばれるような方々について回り、背中を見てそこから盗むかたちで営業スキルを身につけてきました。それもあって、20代の頃はまだ感性でやっていたところがありましたが、徐々にメソッドとして理解し体系化するようになり、じきに事業として立ち上げるに至ったわけです。
起業直後は、講師ひとりに対して多数の受講者という集合研修がメインでしたが、必ずしもそれがベストとは考えていませんでした。集合研修ではどうしても「個」を殺してしまう。まさに公教育でも問題になっているのと同じように、全体の理解や進捗に対応しようとすると最大公約数の話をするしかないわけです。そこで集合研修が終わると、全国の販売店を訪問し、受講者が接客しているところを1人ひとり動画撮影してはアドバイスをするようになりました。しかし、私ひとりではそれができるのも本当にわずか。また、笑顔や姿勢などは人によって好みや感じ方の違いがあり、組織として評価指標を確立している会社も案外少なく、評価がぶれがちでした。
そこで、時間がなく属人化しがちな研修を、動画を用いて個別に学びの機会が得られるようにする。地理的な制約を越えてより多くの人に個別のフィードバックを届ける。そんなふうに、東京にいながら全国の販売店の1人ひとりの個性を磨けるソリューションを実現したいと考えるようになりました。
――その中核にあるのが、「TANREN」というアプリなのですね。具体的にはどのようなものなのでしょうか。
よく「マルチメディア時代の赤ペン先生」と表現するのですが、課題を与えられ、答案用紙を送ったら真っ赤になって返ってくる、それが動画になったと思えばわかりやすいでしょう。
たとえば、ある商品の販売の際には、商品特性をきちんと理解し、ニーズのあるお客様に届ける必要があります。また競合の製品との差別化なども理解する必要があります。そうした「行うべきこと」のインプットは研修などでも行いますが、それが本当に実践できているかどうかを動画で後追いして確認します。この「アウトプット」が頻繁にできて、フィードバックしやすいところが「TANREN」のユニークポイントです。
さらに、クラウド上にアップされた動画を、一覧として一元管理できるインターフェイスを持っているのが「TANREN」の特徴ともいえます。全体を見ながら、たとえば「数字が悪い店舗」や「強化したい年次のスタッフ」というように目的に応じて個別学習を行い評価するのはもちろん、業績が良い、現場の評判が良いというような「お手本となる人」を抽出すれば、自社の評価軸を知ることもできます。会社によっては8,000件も動画が上がっているところもあり、新入社員がセールストークを学ぶためのツールにもなっています。
つまり、大切なのは、自社で回していけるような設計になっていること。会社の中で課題を見つけ、解決のための設計をし、その実践に対し、どのような評価を返していくか。そのPDCAサイクルを回すうちに自然とレベルアップしていけるようになっています。