セールスとマーケは共通ゴールで「つながる」
──今回のKEYNOTEでは「つながり」の重要性があらためて強調されました。
Dick 実は人々がソフトウェアに求めているものは大きく変わっていないのですが、基準は変わってきていると思います。業界一ではなく「best in connection」、つまり良いつながりを実現するソフトウェアを求めているのです。
その理由はKEYNOTEで弊社CEOのヤミニ・ランガンがお話したとおり、社会が「断絶の危機」直面しているからです。システムの断絶、人と人の断絶、企業と顧客との断絶は企業の成長を妨げています。ユーザーはつながるアプリケーションやシステム、そしてコミュニティを求めるようになっているのです。
──つながりが求められる時代において、営業の果たすべき役割はどう変化していますか。
Dick 営業は企業が顧客とつながる際にメインとなる部署です。そして10年前とはつながり方はもちろん、顧客に提案するもの、提供する価値も変わってきているでしょう。
まず、アプローチの方法もかつて主流だった電話やEメールでは、返答率を維持するのが困難です。電話に出てもらえない、メールが開封されない時代、SNSやメッセージアプリを活用する必要も出てきているでしょう。これまで以上にさまざまな価値を提供する必要もあります。インサイトや、分析したデータ、学習コンテンツなど、現代の顧客が求めるものを見極めなければなりません。
多くの企業は、営業担当者に行動量・活動量を優先するよう指導しますが、HubSpotは、お客様とつながることを優先するよう伝えています。現在は、営業職がクリエイティブな仕事に変化する必要がある、そんな転換期だと考えているからです。
営業とマーケティングの関係もまた変わってきています。10年ほど前から、営業とマーケティングが連携すべきだという考え方が出てきて、HubSpotはそれを「Smarketing」と呼んできました。コロナ禍の分断を経て、また両者がつながらなければならない時期に来ています。
──私自身、HubSpotさんから「営業とマーケティングは背中を預け合う関係である」と教わりました。Jonさんは両者の理想の関係をどうお考えですか。
Dick 両者の連携では「共通のゴール」がもっとも大切だと考えています。マーケティングチームと営業チームの目標が異なっていてはいけません。HubSpotでは「収益へのコミットメント」がマーケティングと営業、さらに言えばカスタマーサクセスも含めた組織の共通ゴールのひとつです。目標の共通理解によって、深い連携が生まれていきます。
より良い顧客体験のためCRMと決済が連動する世界へ
──マーケターとして、BtoBビジネスにBtoCマーケティングの考え方を応用していると記事で拝見しました。では、BtoBのセールスパーソンは、BtoCビジネスから何を学ぶべきでしょうか。
Dick BtoCのビジネスから多くのインスピレーションを得ています。多くの人々がBtoBよりも、BtoCの購買時のほうが良い体験が提供されると感じる要因は何でしょうか。実はBtoBの購買において、営業はお客様の「摩擦」になってしまうことがあります。BtoBでも「摩擦のない購入体験」を提供するべきであり、企業はそこに投資する必要があります。
摩擦のない購入体験の実現に向け、BtoBセールスが考慮するべき点は3つあります。ひとつが複数のチャネルで行うオムニチャネルコミュニケーション、ふたつめが営業担当者の介在意義・価値の提供、そして3つめがペイメントです。
──相互に関係しあう観点であり、とくに営業の介在価値も変化していますよね。
Dick KEYNOTEでCTOのダーメッシュ・シャアが、企業の成長の仕方がどう変遷してきたかを語りました。営業がリードするSales Led Growth、マーケティングがリードするMarketing Led Growth、プロダクトがリードするProduct Led Growth、そして最後にコミュニティがリードするCommunity Led Growthが紹介されました。
それぞれ「コンサルテーション」「コンテンツ」「コーディング」「つながり」の重要性が強調されました。あの資料を見た方の中には、グロースの手法は新しいものに取って代わられると感じた方もいるかもしれません。しかし決してそうではありません。営業担当者や営業組織も、時代や顧客の変化に合わせつつ、自分たちの得意な分野を複合的に活かしていくことで、良い顧客体験をつくることができるはずです。
──決済周りの発表は今回の目玉のように感じました。顧客が自ら支払いまで完了させる世界は今後日本でも実現されるのでしょうか。
Dick 日本でもこれから起こると信じています。CRMはこれまで、決済やeコマースと離れたものと考えられていました。企業は顧客体験をひとつのプラットフォームに集約し、提供していきたいのに、なぜか決済だけがつながっていなかったのです。CRMを活用し、顧客体験を最適化するニーズはますます高まっていくはずですから、このような機能追加・強化を今後も実施していきます。
──日本のBtoBセールスもHubSpotからさまざまなインスピレーションを得て、マーケティングと連携しながら変革に挑んでいます。メッセージやアドバイスをいただけますか。
Dick 大前提としてお伝えしたいのは、営業とマーケティング両方が変わらなければならないということです。営業がいなければマーケティングは加速できませんし、逆もまた然りです。HubSpotではフライホイールについてよく話をします。フライホイールはファネルを循環型に表現したモデルですが、「この部署がこの領域を担当する」と垂直に表現していたものを円形にしただけではないかとよく誤解されます。
お客様を惹きつけるのはマーケティングだけ、提案するのは営業だけと役割を分けるのは違うと私たちは思っています。大切なのはお客様のニーズに合わせて自分たちが変わること。その考え方が、ビジネスの成長を後押しします。イベントの名称でもある「インバウンド」は創業以来の思想ですが、HubSpotに関わるすべての人がこの考え方を信じれば、事業を伸ばし共に一緒に成長していくことができると考えています。
──ありがとうございました!