「カスタマーサクセスから考える」は当たり前に
――藤井さんから見ても、BtoBの購買行動は変わってきていると思いますか。
藤井 近年は情報の価値に差がつかなくなってきています。これまでは営業担当者がベタ付きしていれば「うちの製品を使っていれば大丈夫ですよ」と情報のバリアを張ることができていましたが、今は顧客側が自分でリサーチすることによってほかに良い選択肢があることが容易にわかってしまう時代です。
この変化に連動して、BtoB領域においても「まずはカスタマーサクセスから考える」ことが当たり前になり始めていますよね。そしてBtoCの領域においては、理想の状態に顧客を連れていくまでにどのような段階を踏めば良いか、デジタルで可視化できるようになっています。
著書『アフターデジタル』シリーズ(日経BP)でも紹介した中国平安保険(Ping An Insurance Company of China, Ltd.)は、その最先端をいく企業のひとつです。同社では保険をその場で契約しなかったお客さまに対して、営業パーソンが役に立つアプリケーションをおすすめしダウンロードしてもらいます。そのアプリを通じて顧客行動を把握することで「この人は今この病気について調べているな」「お金をコツコツ貯めたいタイプなんだな」「子どもが生まれて、学資保険に興味が出始めるタイミングだな」と、的確で効率的な提案営業を実現しています。
――こうした事例をBtoBの大手企業が戦略として活かすには、どのようなデータを取得することが考えられるでしょうか。
梶原 前提として、BtoCと異なり、BtoBにおいては「法人としての意思決定はお客さま担当者ひとりの感情だけでは動かない」難しさがありますよね。そのため、得られたデータをもとに法人としてのお客さまに対する理解を深め、サクセスに関する仮説をお客さまに提案するような取り組みを弊社ではスタートさせています。まずは、長年活用してきたSFA上に蓄積された受失注ソリューション、金額等の商談情報に加えて、提案プロセスを可視化・共有し、戦略的な仮説提案に反映させるような取り組みを加速させています。そこに、ハイタッチ営業の組織だからこそ得られる「商談時のリアルなお客さまの声」を掛け合わせることで、仮説の精度をさらに上げることを目指しています。
笹谷 一方で、BtoBの難しさは、営業担当者がタッチしている時間軸の情報しか手に入りづらい点にもあると思います。そもそもすべての情報をお客さまが営業担当者に伝えてくれるかもわかりません。BtoCに比べると量的にも質的にも圧倒的に制限がかかっているとも考えられます。つまりAIにとっては情報不足が当たり前ですから、競合他社とは「仮説の深さ」の戦いになります。今後、タッチしてない時間軸でデータが取得できるようになれば、もっと面白い取り組みが実現できるのではないかと思っています。