バーチャレクスグループのバーチャレクス・コンサルティング(以下、バーチャレクス)は「カスタマーサクセス日本市場動向&実態調査」を実施。2025年版第7弾の結果を公開した。

カスタマーサクセス業務におけるAI活用実態

まずはじめに、カスタマーサクセスに取り組んでいる人に対して、カスタマーサクセス業務においてAIをどのように活用しているか、または今後どのような活用を検討しているのかを質問した。「カスタマーサクセスの効果を感じている」効果実感層(n=494)では、まず顧客対応におけるチャットボットが61.3%となり、基本的な自動応答システムやサポートチケットの自動作成が、業務効率の向上や顧客満足度の改善に寄与していると考えられる。また、「NPSやCSATの予測・分析」(31%)、「顧客行動予測」(25.1%)、「AIによるパーソナライズ」(21.7%)が導入され、自動化以上の価値創出を目指していることがわかった。
一方、「カスタマーサクセスの効果を感じていない/どちらとも言えない」効果未実感層(n=345)では、もっとも多い回答が「分からない/答えられない」が31.9%となり、AIの具体的な効果や運用状況に対する認識のばらつきが見られた。同グループにおいても「チャットボットの導入」は31.6%と一定の割合を示すものの、全体としては効果実感が薄い結果となっている。さらに、業務内でAIを利用していない割合も効果実感層に比べ高く、導入の進捗や活用レベルに企業間でばらつきがあることがうかがえる。
カスタマーサクセス領域の投資状況と今後の展望

ここからは、カスタマーサクセス領域への投資に対する企業の実態を見る。まず、「直近一年でカスタマーサクセスツールにかけた予算」について質問したところ、効果体感層では、約4割の39.7%が「50万以上/月」と回答しており、比較的高額な投資を行うほど成果を得やすい傾向がうかがえる。一方で、「効果を感じていない/どちらとも言えない効果未体感層(n=345)」でも23.8%が同じく「月50万以上」と回答しており、投資額の高さだけでは十分な効果を保証できないことも明らかになった。
さらに、効果未体感層において「分からない」という回答が29%と突出していることから、費用把握や運用状況の可視化が不十分なため、効果検証が難しくなる可能性が考えられる。
また、10万円未満や10万~30万円未満といった比較的低予算の層でも効果を感じている企業が一定数存在。投資額が低くても成果を得ている企業は、自社の規模や顧客構造に合わせたツール選定・活用を行っている可能性がある。総合的に見ると、カスタマーサクセスの取り組みを成功させるには、予算を増やすだけでなく、導入目的の明確化、KPIの設定、チーム体制の整備など、運用面を含む戦略設計と継続的なモニタリングが不可欠であると考えられる。
カスタマーサクセス領域の投資状況と今後の展望

次に、全社的にAIを導入している企業に所属している人に対して、カスタマーサクセスにおけるAI活用の予算配分先を質問した。その結果をカスタマーサクセスの効果体感別に分析した。効果実感層(n=221)では、48%が顧客対応の自動化に投資しているほか、「顧客データ分析・行動予測」(43%)や「FAQの自動化」(38.9%)、「パーソナライズ施策」(31.2%)など、さまざまな取り組みに予算を割り当てている。また、社内トレーニングやナレッジ共有に投資する企業も20.8%となり、AI活用を社内全体で浸透させる取り組みが進んでいることがうかがえる。
さらに、AI活用のパイロットプロジェクトに試験的予算を配分している企業は14.5%となった。加えて、「AI活用の必要性を感じているが、予算の確保が難しい」という企業が11.8%存在し、資金面の課題に直面しながらも前向きにAI導入を検討している企業が一定数あると考えられる。
一方、効果未実感層(n=78)では、予算配分の内訳として「分からない/答えられない」が41%ともっとも多く、次点の顧客対応の自動化も25.6%となった。社内トレーニングやナレッジ共有への投資は1.3%であり、AI導入の目的や運用体制が十分に整っていない可能性を示している。また、今年度は予算化していないが来年度以降の導入を検討している企業は1.3%となった。さらに、AI導入の優先度が低いため予算を割り当てていない企業が3.8%存在する点も、AI活用が十分に浸透していない要因のひとつと捉えられる。

続いて、人材採用・育成、ツール導入、研修等を含むカスタマーサクセス予算について、今後どの程度投資する予定かを質問したところ、効果実感層の場合、全体の約55%が前年比で増額(「やや増額」36.2%、「大幅に増額」18.8%)を計画しており、成果に対する評価が高く、積極的な投資拡大の意向が強いことがうかがえる。一方、約28%は現状維持を選択しており、一定の安定運用を望む企業も存在するものの、全体的には増額志向が見られた。減額を考える企業や専用予算がない割合が低いことから、カスタマーサクセス施策が投資対象としてしっかり位置づけられていると考えられる。
対照的に、効果未実感層では、「現状維持」と「分からない/答えられない」が各約25.2%という結果となり、全体的に慎重かつ不透明な予算運用がうかがえる。予算増額に前向きな割合は「やや増額」14.8%、「大幅に増額」4.9%と低く、減額に傾く傾向(「やや減額」13.3%、「大幅に削減」5.8%)もられ、カスタマーサクセス施策に対する期待値が低いことが背景にあると考えられる。また、専用予算を設けていない割合もこのグループでは高く、企業全体の取り組み姿勢が効果実感と密接に関連していることがわかった。
カスタマーサクセス取り組みの成果

最後に、カスタマーサクセスの効果、成果について見た。効果実感層に対して、カスタマーサクセスのどんな取り組みがその効果に直結しているかを質問したところ、もっとも多かったのは「顧客の離脱防止策の実施/解約の前兆を読み取り先んじて対策を打つ」で36.2%だった。続いて、「正しい顧客への販売・サービス提供」(35.6%)や「顧客の状況を常に把握/サービス導入後の利用状況のモニタリング」(35.6%)といった施策が高い割合を示しており、これらの施策は解約防止や顧客価値向上に直結していると推察される。
また、「顧客ニーズの変化に迅速に対応する」(34%)や、「定期的な顧客フォローアップの徹底」(26.9%)も挙げられ、利用状況を継続的に把握し、課題を早期に解決する姿勢の重要性が示されている。一方、発展的な施策として「顧客同士のコミュニティ形成促進」(13.2%)や「タイムトゥバリュー向上のための取り組み」(10.5%)は約1割となり、まずは守りの取り組みに注力している現状がうかがえる。
しかしながら、「数値で顧客を把握/カスタマーヘルスの管理」(23.9%)や「全社レベルでのカスタマーサクセスへの取り組み」(21.9%)の評価が一定数存在することから、部門横断的なデータ活用や顧客理解の深化が進んでいることも見受けられる。

また、カスタマーサクセスに取り組むことによって業績向上などの成果が出た要因は何だと思うかと質問してみた。まず、全体の約40%近くが「カスタマーサクセスの概念を社内に浸透させた」と回答しており、従業員1人ひとりがカスタマーサクセスの意義を理解し、共通認識を持つことが施策の成功に直結していると考えられる。また、約39%が「会社がカスタマーサクセスへの予算を確保/拡大した」と答えており、経営陣からの支援と十分な投資が、実際の施策遂行において後押しとなっていると考えられる。
さらに、「導入したソフトウェアを効果的に活用できた」(36.2%)や、「カスタマーサクセスの取り組みを継続した」(32%)といった回答もあり、短期的な成果だけでなく、継続的な改善と最新ツールの積極的な活用が成果に結びついていることがうかがえる。また、顧客の声を製品・サービスの改善に活かす取り組みや、既存顧客との関係構築も一定の評価を受けており、顧客視点の取り組みが企業全体の成長に貢献しているといえる。
一方で、「トップダウンの推進」や「専門人材の採用・育成」といった要素は比較的低い評価にとどまっており、現場での柔軟な対応や組織全体の協力体制のほうが、成果を生むうえでより効果的であるという示唆も得られた。
全体として、カスタマーサクセスを成功させるには、社内の意識統一や予算確保、継続的な取り組み、そして最新ツールの活用が不可欠であり、これらの施策が相乗効果を発揮することで、顧客満足度の向上と持続的な成長につながっていると考えられる。
【調査概要】
「2025年カスタマーサクセス日本市場動向&実態調査」
調査方法:インターネットアンケート
調査実施期間:2025年2月21日~2月26日
対象地域:全国
対象者:20歳から65歳の有職者(契約社員、派遣社員、パート・アルバイト、個人事業主・フリーランス、専業主婦・主夫、家事手伝い、学生を除く)64,138人