カスタマーサクセスは全社で目指すべき理念
高橋(HiCustomer) まず、「インサイドセールスリーダー」「コミュニティマネージャー」として最前線にいらっしゃるおふたりの現在の役割について教えてください。
長橋(Asana) 私はAsanaでコミュニティマネージャーをしています。プログラムを企画してユーザーとのエンゲージメントを高め、コミュニティを大きくしていく役割です。
Asanaのコミュニティは、「口コミでの製品の広がりを再生産するマーケティング的な機能」と「顧客企業のアンバサダーを軸に製品を社内に浸透させていく、カスタマーサクセス的な機能」の両方を担っています。
茂野(ビズリーチ) 私はHRMOSのインサイドセールスの責任者を務めています。またコミュニティではユーザー会の企画支援も担当しており、お客様の事例やノウハウ、経験をシェアするコミュニティも含めて、製品価値だという考えで取り組んでいます。
なお、インサイドセールスの基本にはカスタマーサクセスの理念があると考えており、当社のインサイドセールスと関わったお客様には、購入に至ったかに関わらず「問い合わせて良かった」と思える体験を提供したいと考えています。総じて、カスタマーサクセスは一部門の役割にとどまらない理念だと考えているため、顧客を中心に据えた取り組みをもっと推進していきたいですね。
高橋 カスタマーサクセスは会社全体で持つべき理念なんですよね。組織全体で「カスタマーサクセス」を意識することの重要性について教えていただけますか。
茂野 現在、日本のBtoB製品の購買体験が良いとは言えないケースがあります。たとえば、「たくさん電話したことで、うまく商談になって良かったね」といったスタイルの営業は、顧客中心とは程遠いですよね。最近アメリカでは「バイヤーイネーブルメント」が注目され、マーケティングの段階からいかに良い購買体験を提供するかが、成約率や継続率、さらに商談のサイズにも影響すると言われています。
だからこそ、すべての部署がそこを目指さないといけない。たとえば、マーケティングなら有用だと思ってもらえるホワイトペーパーやセミナーをつくること、インサイドセールスなら購買に至らなくても「自社の課題が解決できた」と思ってもらえることが重要です。これはきれいごとではなく、事業の本質として注力するべきです。
長橋 Asanaはフリーミアムのソリューションのため、ユーザーになるハードルは低くBtoC的な側面もあります。ユーザーに使って価値を感じてもらえなければ、継続や課金はしてもらえないですから、そういった意味で広義のカスタマーサクセスを全部署が目指しています。「プロダクトが使いやすい」ことは大前提で、カスタマーサクセス=プロダクト体験と言えるほど、広義のカスタマーサクセスの大部分を占めるのがプロダクトだと思います。
そのうえで、狭義のカスタマーサクセスとして特定の企業を専属で支援するチームが存在します。どんなに製品が良くてもお客様が会社の中で使うとなると、働き方や組織とかみ合わないケースがあります。そこで働き方自体を変えていく、いわゆるチェンジマネジメントを支援するのが狭義のカスタマーサクセスの役割です。
高橋 PLG(Product-Led Growth)の観点でもSLG(Sales-Led Growth)の観点でも、お客様を中心に考えるということですね。
長橋 そうですね。とにかくお客様の話が中心にある会社は、健全だと思います。競合や自社の話ばかりの組織は、上手くいかないですね。そういった意味でお客様のビジネスに興味を持つことも大事。とくに私が担当しているマーケティング領域はテクニックでどう数字をつくるかに集中しやすいですが、そうするとお客様への興味を失ってしまいます。本当はお客様のビジネスや業界の理解が大事なんですよね。
茂野 ずいぶん前ですが、マーケティングの会議でとても議論が白熱したんですよ。私は良かったなと思っていたのですが、本部長が「この1時間で『お客様』って言葉が出てきたのは1回だけだった」と。考えている“つもり”にならず、顧客中心を日々意識していかなければと改めて感じました。
長橋 それぞれの組織のカルチャーやスタイルもありますから、容易ではないですよね。お客様主語のコミュニケーションを日常的に重ねて、少しずつ浸透させていくしかありません。一足飛びにはできないことだと思います。