プレゼン資料の台本を削除した理由
米川 準備を進める中で、BtoB営業がBtoC営業を「後追い」している風潮に気づいたんです。BtoC営業の世界では、口コミやユーザーレビューを根拠に購入の意思決定を行うことが当たり前になりつつあります。それと同様に、BtoB営業においてもユーザーの声の重要性が高まっていく点を伝えていくべきなのではないかと思い……。この点を橘に伝え、結果的に本番1週間前に資料をつくり直すことになりました。
橘 こうした、「そもそも営業のやり方が変わってきている」という考え方は、突き詰めると「営業パーソンの役割が縮小する」という結論に至ります。これに対して、米川から「営業の大会で、そうした結論になってしまうのは良くないのではないか」と指摘を受けたのも印象に残っています。とはいえ、そうした考え方は一種の「忖度」ではないかと思うんです。どうせ勝ちに行くならば、そうした大人の事情を考慮した忖度を行わずに正々堂々思いの丈をぶつけたいと考えていたため、結論は曲げずに挑みました。
──プレゼンの語り口も審査の対象になったかと思いますが、どのような点に気をつけていましたか。
米川 予選大会にて、「えー」「あー」などといった「フィラーが多い」という指摘を受けたこともあり、「プレゼン中の話し方」にはかなり意識を向けました。
橘 人が「えー」「あー」などと口に出してしまうのは、主にカンペを見ていることが原因です。米川には、パワーポイント内のカンペ(発表者ノート)を削除するようアドバイスしました。聞いている側は微妙な言い回しまで気にしませんし、何より、カンペに頼らずに自分の言葉で思ったことを口に出すことで棒読みではなくなり、自然とフィラーもなくなると考えたためです。
米川 私としては不安で、本番の2日ほど前までは「やっぱり、万が一に備えてカンペは用意しておくべきなんじゃないか」と話していたんです。しかしいざカンペなしのプレゼンを経験すると、結果として削除して良かったなと思いました。
橘 カンペがないことに不安を抱く米川に対しては、「カンペを見ながらプレゼンをする、そんな中途半端な戦い方で優勝してもつまらないだろう」と伝えた記憶があります。用意した文章を読み上げるのではなく、自分の言葉で思いの丈を伝えられれば、たとえ結果が振るわずとも「勝った」ようなものだと伝えました。
──本業も非常にお忙しい中での準備は本当にたいへんだったと思いますが、そうした中でも、おふたりが「絶対優勝」にこだわった理由を教えてください。
米川 冒頭でも申し上げましたが、「日本一の顧客支援型営業組織を創る」という全社のビジョンが刷新されたタイミングであったためです。この大会で優勝を勝ち取ることでわかりやすく、チームを活気づけられるのではないかと考えたためです。
橘 私は、結果そのもの以上に、「優勝を本気で目指す過程」に価値があると考えていましたね。今回の大会に限らず私が仕事に向き合う際のスタンスでもありますが、最終的に同じ順位に終わったとしても、2位や3位を狙って準備をした場合と、1位を目指して準備した場合では、得られる経験値は雲泥の差ですから。
──審査員の方々からの質問の中で、とくに印象に残っている言葉はありましたか。
米川 圓窓の代表取締役である澤円さんからの「なぜ一般論を最初に持ってきたのですか?」という質問です。プレゼン内容に対して当事者意識を持っていただく狙いもあって、あえて冒頭に一般論を持ってきていたため、「やはりそこが気になりますか!」と。
橘 質問というよりも審査員の皆さんと言葉を交わしたうえでの感想にはなるのですが……自分は、「宋世羅の羅針盤ちゃんねる」でノウハウを発信されている宋世羅さんがカッコ良いなと感じました。もしも第二弾があるのなら、ぜひ宋さんと勝負してみたいです。