SaaS事業の成長、人材育成のためにSalesforceを選択
2015年に創業し、当初は広告運用のノウハウやメディアの知見を活かしたデジタルマーケティングソリューションを展開してきたオープンエイト。現在は2019年2月にオフィシャルリリースしたビジネス動画編集クラウド「Video BRAIN」を中心にSaaS企業への事業転換を果たし、SaaS事業、API事業/MLaaS事業へと幅広く展開している。成果向上に大きく貢献したSalesforce導入のきっかけは、主事業であった広告事業を展開していたころに抱えていた課題だった。
執行役員 兼 CPOとして事業運営の責任を担う加嶋さんは、次のように当時を振り返る。
「基本的にはインバウンド型で、マーケティング、インサイドセールス、そしてフィールドセールス、カスタマーサクセスの分業化がなされていました。しかし、お客様へのアプローチや、その状況把握が属人的でした。情報はExcelやスプレッドシートで管理しており、組織としての共有やデータ蓄積が十分にできていない状態だったのです。課題の可視化はもちろん、事業予測も難しかったため、セールスオペレーション全体を見直し、営業活動の情報を一元管理する方法を模索していました」(加嶋さん)
インバウンドセールス部/フィールドセールス部の部長を務める松本さんは、新しい営業育成の考え方であるセールス・イネーブルメントの確立も、当時の組織課題のひとつだったと語る。
「プロセスごとのリードタイムの可視化に加え、誰がどのようなアクションを行っているのか、回数や内容――どんな話をしているかまで、履歴を蓄積し共有できれば、チームの成果につなげられます。テクノロジーの活用によって、組織の営業力の底上げと1人ひとりのスキル向上も実現できると考えました」(松本さん)
事業運営面と営業スキル向上、双方の課題をきっかけに複数の営業支援・CRMツールを比較検討することとなった。その中で、カスタマーサクセスまで一気通貫で可視化・管理ができ、CRMとして求める要件を満たしていたSalesforceの導入を決定した。
「お客様の属性以外の細かな情報やコメントなどまでしっかりと把握・蓄積し、それらを分析することで、営業活動だけでなくプロダクトの改善にも役立てていくことができる。それは、ほかの営業支援ツールには見られない発想で、非常に魅力的に感じました。ちょうど『Video BRAIN』を開発している最中だったこともあり、SaaSとしては顧客からのフィードバックによる迅速なブラッシュアップは必須と考え、先駆けてSalesforceの活用を目指したわけです」(加嶋さん)
入力工数の軽減、動画学習の提供で現場メリットを増幅
営業現場でSalesforce活用をスタートするにあたって懸念されたのが、「データの入力・登録や確認の手間」だ。当初はある程度強制力を発揮して入力を促したが、現場がメリットを感じるようになり、自然に活用が進み始めたと松本さんは語る。
「当初は『入力するように』と強めに指示をしました。入力・登録することで、自身の営業活動で生まれやすい課題や、改善点が見えるようになり、Salesforceを導入した理由も伝わると考えたからです。初めは怪訝そうにしていたメンバーも、利用しながら自身の業務の改善にもつながることを実感し、定着は自然と進んでいきましたね」(松本さん)
とはいえ、業務効率化のためにも登録や入力の手間は可能な限り軽減できれば望ましい。そこで2020年に入社した前側さんを中心にさまざまな改善が行われた。まずはマーケティングからセールス、カスタマーサクセスまで一気通貫での活用を密にするために「Salesforce活用定例会」を週次で開催。そして、Salesforceのチェック機能や入力補助機能などの活用、項目の連動関係の設定や入力規則のアナウンスの徹底がなされた。加えて、工数を要する部分は条件づけができるフロー機能で対応し、SalesforceのデータをTableauに蓄積することで入力データのチェックも可能にした。
「実は入社した時点で、Salesforceの運用については経験がなく、いわば初学者でした。しかし、社内の各部門やSalesforceの営業担当者、Tableauのコミュニティなど、さまざまな方々の力をお借りして取り組みを進めていくことができました。ユーザー向けの学習プラットフォーム『Trailhead』もとても参考になり、サポートも丁寧で心強かったですね」(前側さん)
さらに同社では現場にメリットを感じてもらう育成施策として、自社ならではの学習コンテンツを提供できる「myTrailhead」も活用している。myTrailhead上には動画コンテンツも格納可能なため、自社プロダクトの「Video BRAIN」を活用して動画が作成され、入社時や部署異動時には、動画を通して基礎知識を学習できるようになっている。この活用方法については、ゆくゆくは社外のSalesforceユーザーへの提案も想定しているという。
CSはSlack連携で効率化を実現 セールスへの展開も
一歩先の工夫として現在はSalesforceとSlackの連携をカスタマーサクセス部門で試験運用中だ。これまでは既存ユーザー向けのコンテンツやヘルプページについて、閲覧状況を参照して強化や改善施策を決定していたが、マーケティングなどのコンテンツに比べ、日々のアクセス数に大きな変化がないため、状況チェックが無駄な作業になりがちだった。現在は、週毎にコンテンツのPVが2倍以上になったときだけ、Slack通知がなされるように設定し、その後に調査を行い、改善・強化などの意思決定を行っている。
「データの変動をSlackで通知する仕組みはたいへん便利だということがわかりました。セールスはもちろん、全社に展開したいと考えています」と前側さんは意欲を見せ、松本さんも「商談数やフェーズの進捗があったとき、さらにお問い合わせのフォームにすぐにリードにつながりそうな情報が来たときに即時で知らせてもらえると、わざわざデータを見に行く必要もなくなって助かります」と期待を寄せる。現在は、通知のルールやしきい値などを相談中だ。
「Tableauの示唆を踏まえて営業」がスタンダードに
管理者から現場まで幅広く活用され、直接成果にもつながっているのがTableauと連携したデータ可視化・分析だ。プロダクトの責任者である加嶋さんの場合は、「Video BRAINの利用率はもとより、業界別や規模別などでかけ合わせた分析結果など」、営業部長である松本さんには「フィールドセールスの行動の深度と次フェーズへの移行タイミングの分析」など、それぞれの役割やニーズに応じてダッシュボードが用意されている。
「Tableauは自由度が高く表現も豊かで、動きをつけることも可能です。高いポテンシャルを活かし、より直感的に見せられるようにしたいですね。この人が見るなら、こういう操作をするだろうというところまで想像して組み立てていければ」(前側さん)
松本さんも「Salesforceに入力し、そのデータや分析を見て考えて動く。そこまでが一連の営業活動の流れとして浸透しています」と評価し、「ひとりで活動していても、やり方や提案の内容が合っているのかどうか、ほかとどう違うのか、なかなかわからないものです。しかし、データとして入力・共有することでチーム全体の課題や改善点はもちろん、『これでよかったんだ』という確信も得られます。施策や時間のかけ方など、互いに客観的な判断を行うことができるのも、重要な効果だと感じています」と語った。
事業責任者としては、事業全体を俯瞰したときに現場担当者と共通言語をもとに会話ができるようになったことも大きな成果だったという。加嶋さんは「営業の大きなミッションは売上をつくることであり、構成要素としてリード獲得数や商談設定数、受注率や商品単価などがあり、そのどこを改善すればいいのか、自分や組織の目標と照らし合わせて見ることが重要です。Salesforceの活用でその共通認識が根づいたのは大きいですね。営業的な成果が上がったことも間違いないと思います」と語る。
情報活用の場面で効率化が大きく進んだことを受け、「入力の簡便化などの努力も報われた」と前側さんも振り返る。
「さまざまな業務で時間削減効果が得られたと実感しています。特にデータ集計作業で削減できた役員の作業時間を積算してみたところ、1年に960時間にものぼることがわかり、改めて手応えを感じています。もしExcel管理を継続していたら、これほどの連携や効率化はできていなかったでしょう。現在は営業部門・カスタマーサクセス部門での活用がメインですが、今後はプロダクトの開発部門などでも活用できるよう、ライセンスを追加することを検討しています」(前側さん)
マネージャーのためではなく、営業の成長実感にもつながる
Salesforceの導入により、営業による売上向上や社内のデータ共有、業務効率化などさまざまな成果が得られたが、加嶋さんは「特に営業の意識改革が得難い成果といえるかもしれない」と評する。
「SFA・CRMの導入は、『マネージャーが管理したいからではないか』と見られがちですが、実際に導入してみるとそうでないことがよくわかりました。各メンバーがそれぞれ周りから刺激を受け、サポートし合い、自ら成長する環境や風土が創出されつつあります。今後もそうした活用を意識していけたらと考えています」(加嶋さん)
松本さんも大きくうなずき、「使うことによって自己分析ができ、成長実感も持てますから、メンバー全員の活用ニーズが高まっています。今後はさらに使いこなし方を自ら考える好循環につながっていけば」と期待を寄せ、前側さんも「セルフサーブできる仕組みや環境を早く整えていきたい」と語った。
Sales Tech活用に課題を抱えている、もしくは今後導入を検討する営業組織はどのような姿勢で活用に向かうべきなのだろうか。それぞれの立場から、次のようなアドバイスが寄せられた。
「新しいことに取り組むためにもデータの蓄積・活用は欠かせません。効率化やコスト削減のために、再現性を担保することも必要です。そのため、成長企業は1日でも早くSales Techを導入したほうが良いと思います」(加嶋さん)
「導入前は、使うのが面倒とか、難しいとかネガティブな話も聞いていました。しかし、実際に触ってみると意外と誰でもすんなりと使いこなせましたから、まずは手を動かしてみることをおすすめします」(松本さん)
「大企業のような一斉導入ができない中・小規模の企業でも、段階的な導入を目指せば難しくないと思います。サポートはもちろん、コミュニティも大きく、ユーザー同士のつながりも強いところが、Salesforceの強みです。自分のスキルやキャリアにもプラスになりますから、ぜひ挑戦してみていただきたいです」(前側さん)
オープンエイトは今後もSalesforce×Tableauをビジネスの要として活用し、「Video BRAIN」を中心にさらにSaaS事業を拡大していく。「メディア向け」など業界ごとの機能特化や強化、さらには、「Video BRAIN」によるPowerPointやPDFなどへの書き出し機能の活用、SFA・CRMなどとの掛け合わせによって新たな事業創造にも取り組む予定だ。