徒弟制度は崩壊? デジタルシフトの時代に求められる"商談進行ツール"
売上や生産性の向上を目指し、営業組織にSFAなどのSales Techを導入している企業は増加傾向にあるが、「なかなか成果が上がらない」「ツールの利用が浸透しない」などの声もあがっているのが実状だ。
ビジネスマネジメント 代表取締役社長の松本雅紀氏は「ツール活用以前に、営業活動における商談の進め方がわかっていない可能性がある」と指摘する。適切に商談プロセスを管理するテクノロジーがあっても、商談の進め方を理解できていなければ、ツール活用どころではないということだ。しかし、そこで指導しようにも現在はさまざまな「制約」があり、営業担当者の育成・支援は企業にとって大きな課題となっているという。
はたして「制約」とはなにか。松本氏がまず指摘するのは従来の「徒弟制度的教育」の難しさだ。松本氏は日本マイクロソフトなど複数の企業で、パートナー営業やマーケティングなど長年にわたって幅広い経験を得てきた。その後、ベンチャー企業のBtoB営業・マーケティング責任者として若いメンバーに営業ノウハウを伝える経験をし、その経験をもとに営業コンサルタントとしてさまざまな企業を支援している。
「かつて営業部門の後輩・部下支援といえば、商談への同席や提案書のチェックなど、いわば手とり足とりの指導が一般的でした。徒弟制度は言わば体育会系的な育成手法で、名刺の渡し方からお辞儀の仕方、電話のとり方にはじまり、顧客訪問や企画書の書き方なども『背中を見て覚える』または『習うより慣れろ』的なものが多かった。しかし、社会情勢の変化によって価値観も制度も変わり、現場では戸惑いの声も増えてきています」(松本氏)
同社のパートナーとしてソリューションプランナーを務める小林利弘氏も大きく頷く。小林氏もまたIT業界で金融担当の営業、IT業界向け研修会社などを経て独立し、松本氏とはまた違った立場で営業活動の課題を実感してきた。
「そもそもフルタイムマネージャーが少なくなってきているため、上司が部下を十分にケアできないという現状があります。マネージャー自身が個人の売上予算を持っており、それを達成しなければ部門の達成はないという状況下で、部下のケアが疎かになっていると感じている人は多いです」(小林氏)
そしてもうひとつ、社会情勢の大きな変化と言えば「デジタル化」だろう。コロナ禍の影響でリモートワークが一気に進み、オンラインでの営業活動の割合が高まるにつれ、社内でも育成や支援が難しくなっている。そうした変化により、豊富な営業知識やノウハウを持ちながらも、それらを難しさに悩む人も多い。
「そこで、立ち返る場所というか、そうした環境下で営業担当者の育成・支援に悩む方々をデジタルによって支援するものをつくりたいと考えました。外部でもリモート環境下でも、プロセス全体が把握でき、不明点や戸惑う箇所が可視化されれば、的確に効果的な指導・育成が可能になるでしょう」(松本氏)
「BtoB営業の複雑極まりない行程をデジタルに置き換え、全体をサポートしていく。そんなツールに挑戦できないかと考えました。米国にはいくつか商談の進行を支援するソリューションがありますが、日本の商習慣などに馴染まないことがあります。日本の商習慣、商談進行を知り、米国における営業支援のトレンドも知る我々だからこそ、開発できるソリューションをつくりたかったのです」(小林氏)
プロセスごとの「質問と示唆」で商談進行をサポートする「Selfa」
日本の営業組織が抱える育成課題を解決するために「Selfa for Salesforce」は開発された。「Selfa」は、商談進行を可視化し、効果的にサポートするこれまでにないツールだ。とくに経験の浅いメンバーの育成・支援には効果的だというが、SFAシステムもまた営業支援システムである。商談進行支援のSelfaにはどんな特徴があるのか。
まず、Selfaがサポートするのは、見込み客が顕在化して実際に営業担当者が顧客と接し、商談を進めていくフェーズだという。
「近年、営業プロセスの標準化、デジタル化はかなり進んでいると言われます。たしかに、マーケティング活動による見込み客の獲得と育成、インサイドセールス組織の活用などによって有望な見込み客と出会うノウハウは蓄積されてきました。しかしながら、その見込み客がフィールドセールスの担当者に渡った途端に、『ハイ、がんばって』と“人間力”に任されることも少なくありません」(松本氏)
従来のSFAでは、マーケティングから渡ったリストを基に、電話をかけ、訪問し、見積もりを出し……という「やったこと=マイルストーン」に関する報告はあっても、「どんなふうにその行動に至ったのか」「それにより顧客から何を得たのか」まではわからないままであることが多い。Selfaはこの商談進行を可視化でき、マネージャーが的確な支援を実現できるツールだ。
たとえば、顧客の課題に沿った正しい提案書を出すためには「おさえるべき事項」を顧客から引き出しながら商談を進める必要があるだろう。SFAで行われるべき商談管理とSelfaの商談進行支援の違いを、マーケティング・セールスの格言として有名なセオドア・レビット氏による「ドリルの穴」の話を用いて「獲得する情報が異なる」と松本氏は説明する。
「商談管理の観点からは、ドリルを売るために把握すべき情報は『どのドリルを、いくつ、いくらで、いつ必要なのか』ですが、そこに落とし込むためには、商談進行においてお客様の『本当に欲しい物=穴』を聞き出す必要があります。ともすると『穴』の情報を把握するために、営業担当者に過大とも言えるほどの情報を入力させるシステムに陥ってしまうことも多々あります。大切なのは『穴』の情報を収集することではなく、聞き出すためのプロセスを踏むことなのです。Selfaでは、商談進行のプロセスにおいて『穴をどこにあけるのか、何のために、穴の大きさや数は……』といった情報を引き出す方法を整理して示します」
Selfaでは、商談進行に必要となる確認事項を、「Q&S(Question=質問とSuggestion=示唆)」として営業担当者に提示し、「はい」「いいえ」「わからない」の三択で回答させる。商談のフェーズだけでなく、そこに至る背景までが可視化されることで、マネージャーはタイムリーに的確なアドバイスができる。Selfaの商談進行プロセスには、松本氏、小林氏の豊富な経験に加え、SPIN式やソリューションセリング、ストラテジックセリングなど、主なセールストレーニングの考え方が、日本の営業プロセスを踏まえて反映されている。
「プロセスを管理して個別の成果をあげる欧米型と、共同体の中で連携しながら成果をあげる日本型、現在は両方の良さを取り入れようとするトレンドがありますが、どちらも学んで知ったとして、はたして実践できるのかと言えば、また別の話です。まずは両方のギャップを埋め、実践の中で学ぶ方法として開発したのがSelfaであり、『BtoB営業というロールプレイングゲームの攻略本』と考えていただければと思います」(小林氏)
シンプルで答えやすく、営業が思い込みから脱却できる設問設計
商談進行におけるプロセス管理を実践していくために、Selfaの「Q&S」で意識したのが「使いやすさ」だという。煩雑な営業行程を記録するのは誰もが嫌うもの。「はい/いいえ/わからない」の三択で、商談中でも入力できるような簡便な方法にこだわった。さらに、商談進行に重要な視点の往来を松本氏は「山は登るもの、海は潜るもの」と表現する。
「たとえば、ひと言で『課題』と言っても現場から経営層まで下から上にあがるほど見えてくる景色は異なります。そして、全体把握から詳細へと深く掘り下げて理解していく必要があります。これらの情報を適切に得るためには自分目線ではなく、相手の立場に立ってヒアリングができるような設問を用意する必要があります」
また、「AだとしたらBですか?」というように条件づけされ、分岐して回答を求めるものも営業担当者を混乱させやすい。商談進行を正しく導くためには基本的に1問1答型で、正しく状況把握ができるよう設問設計を行う必要がある。SelfaではBtoB商談における「Q&S」が用意されており、それを標準的な商談進行のひな形として利用することができる。細かなノウハウにより、営業は思い込みから脱却し、適切な行動や質問ができるようになっていくというわけだ。案外、ベテランでも抜け落ちや癖があり、それに気がつくきっかけにもなるという。
「もちろんQ&Sは商材や企業の状況に応じ、カスタマイズや独自のQ&Sを作成して利用することもできます。その際におけるQ&Sの作成スキルは、まさにマネージャーが部下を正しく導くためのコミュニケーションスキルと同様だと考えています」(松本氏)
「若手と中堅、ベテラン問わず、インターネットの普及の結果としてお客様の購買プロセスが変化していることや、製品サービスのライフサイクルが短期化していることにどう対応するか。担当者自らの成功体験や苦手意識から『やりやすいほう』に傾いてしまうことをどう避けるか。Selfaの商談進行支援により、本人またはマネージャーが失注や受注に至るプロセスのなかで客観的な『気づき』を得、対話することで、結果の質の向上につながっていきます。また、Selfaの利用により商談進行の標準化においてPDCAを回すことが可能になります。Q&Sもそれに合わせて進化させていくことが大切だと考えます」(小林氏)
なお、これらの心構えは営業支援を行っている人からすれば当たり前に思えるかもしれない。しかし、オフィスで直接会って無意識に行っていた質問も、リモート中心の現在の環境下では行いにくくなっていないだろうか。たとえば、ちょっとした空き時間の雑談で「前回の訪問で誰に会った?」というように集めていた情報も、リモートではあらためてテキストに起こして確認する必要がある。まして支援が必要な営業担当者ほど、「何を聞くべきわからない」と躓いていることも多い。遠慮がちになり、SlackやZoomなどでは自ら聞いてくることはまずないと言っていい。仕事のオンライン化で「個業化」が進行するなかで、いかに情報を集め適切な支援を行うかは、マネージャーにとって大きな課題になりつつある。
ビジネスマネジメントが、とあるBtoBのIT企業に対して実施した調査では、商談の状況確認にはオンライン会議のほうが約27%も多い時間を費やしているが、アドバイスや雑談などに費やされる時間は半分近く減ったということがわかった。状況確認に終止し、本来リアルでなされていたノウハウの伝達やアドバイスが十分になされていないことが伺える。
「オンラインでの質疑応答では、どうしても質問が定型化して十分な情報伝達が難しい状況にあります。商談進行の情報を簡易に取得できるSelfaを活用することで、取りこぼしがちになる項目までもあらかじめ把握することができ、営業会議では状況確認ではなく仕事上の雑談やアドバイスに時間を使うことが可能になります」(松本氏)
Salesforce連携でセキュアに提供 商談進行の最適化を目指す
Selfaがまず目指すのは、個々の営業担当者が商談進行の流れやコツを理解し、マネージャーが的確な支援を行い、営業成果へとつなげていくことだ。そしてチーム全体の抱える商談の進行状況を可視化することにより、受注予測の精度向上やリソースの適正配置にもつなげることが可能となる。将来的には情報が蓄積されることで、製品や組織、メンバー、業界、エリアごとの商談の進め方の差がわかり、標準化したものをツールに反映させることができるようになるだろう。
「営業組織に還元できる成果を出すには、商談進行プロセスの改善が定着することが重要です。そのために営業支援システムにおけるトップシェアであるSalesforceをSelfa開発のプラットフォームとしたことも、その意図によるものが大きいわけです」(小林氏)
また、Salesforceのパートナーとなることで開発環境や運用環境に対する投資を抑えたうえで、セキュリティを保ち安定したサービスを早い段階で営業組織に提供できる準備ができたという。
「今後、オンラインによるBtoBの商談で新規案件を獲得していくことが難しくなっていくのは明らかです。特に1案件の規模が100万円を越え、数週間から数ヵ月という検討期間を必要とするような商材、かつ営業担当者が20人を超えるような組織では、商談進行支援は必要不可欠なソリューションとなるでしょう」(松本氏)
オンラインによる営業のジョブ化、個業化はニューノーマルとなりつつある。商談管理はできているが、新たな案件の商談進行がうまくいかない、営業育成がリモートで困難になっているという組織や、営業組織を支援する立場で同様の課題を持つコンサルタントはこれからの営業組織の新たな武器として商談進行支援ツール「Selfa」の導入・活用を検討してみてはいかがだろうか。