チーフ・イノベーション・オフィサーが担う役割
――カッシアーノさんはSAP CXにおいてどういう役割を担われているのでしょうか。
私の名刺にあるCIOは、「チーフ・インフォメーション・オフィサー」ではありません。「チーフ・イノベーション・オフィサー」、「チーノ」と読みます。現在、この役割は西洋でのトレンドになっています。5年前にはCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)が台頭してきていましたが、「デジタル」が当たり前となった世界ではもう特別視されなくなっています。
「チーノ」はハイブリッドな存在で、まるでふたつの帽子をかぶっているような状態です。ひとつはビジネスに関する帽子。ベンチャーキャピタルのようにファイナンスの視点を持つ必要があります。もうひとつは、イノベーションのマネジメントを行う帽子。テクノロジーやマーケティングをビジネスに活かしていく知見が必要です。
つまり「チーノ」はテクノロジーにとても明るく、ビジネスのことも理解している存在でないといけない。新しいテクノロジーは本当に顧客へ売れるのか。10人に?それとも100人に?リピートはされるのか。そういうことをビジネスとテクノロジーの両面から考えていかないといけない。たとえば車メーカーの「チーノ」だった場合。自社の持つ新しい技術が社会でどういうポジションをとるか考えることが必要でしょう。
「チーノ」には、ビジネスとテクノロジーと戦略、この3つが必要です。とにかくまだ新しい役割なのですが、これは今後日本でも当たり前になってくるのではないでしょうか。どうでしょうか?
――まず、CDOが素晴らしい仕事として認知され始めている段階ではありますが、各職種をつなぐべくきっと日本でも台頭してくる役割だと思いました。今回SAP CXとして開催されたイベントでは顧客の体験に基づくエクスペリエンスデータからデジタルトランスフォーメーションを起こしていくという話が強調されました。その役割を担うのもチーノなのですか?
いいえ、それは違うと思います。チーノは企業内にある保育器のようなものです。会社の中で、事業や従業員をサポートしていくような存在です。
顧客体験においてもっとも重要な役割を担うのは、CRO(チーフ・レベニュー・オフィサー)でありCSO(チーフ・セールス・オフィサー)もしくはCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)です。もしくは新しい役割であるCXO(チーフ・エクスペリエンス・オフィサー)かもしれません。これはあまり、話されてこなかった役割です。
まず、顧客体験をより良いものとするためにはセールスやマーケティングはこれまでのようにサイロ化するのではなく、結びついていく必要があります。ABMに可能性を感じており、当社でもかなり投資をしています。BtoBのマーケットでは、ABMは重要かつ助けとなるものでしょう。CSOとCMOがチームとして連携すれば、1社1社の体験を良くしていくことができるからです。
将来的にはCRO・CSO、そしてCMOなどの誰もがデータを所有しないで、都度消費するだけになるでしょう。CXOが一貫したカスタマージャーニーの責任とデータを保有するようになるからです。CSOやCROは営業と顧客のタッチポイントを改善していくために、CMOは市場のパイをとりに行くための施策を考えるために、データを活用します。
分業をしながら互いに強く連携していくという状況は加速していきます。それぞれが個別に働くことはもうありません。一丸となって顧客のジャーニーをより良くしていくのです。そして、チーノの役割は従業員がより早くそうした仕事をできるようにツールや手法を提供していくことでもあります。