情報の宝庫「音声データ」×AI活用の可能性
2023年、生成AIの登場は社会全体に大きなインパクトをもたらした。一過性のブームに終わらず、日常やビジネスの場においてAI活用が普及・定着していくことが予想される。とくに労働人口の減少やデジタル活用の遅れが指摘される日本の場合、AIの民主化は喫緊の課題と言えるだろう。
AI活用はデータがなければ始まらない。企業活動が生み出すデータは画像・テキスト・音声の3つに分類できる。中でも「実は有効活用できるにもかかわらずほとんど活用されずに眠っている」(p3)ものとして、「音声データ」に注目したのが『音声×AIがもたらすビジネス革命 VOICE ANALYSIS』(會田武史 著、幻冬舎)だ。
本書によれば、音声データには業務進行をあと押しする会話、意思決定にかかわる会話、新たな価値創造のヒントとなる会話など、ビジネスにおいて重要な要素が多く含まれている。取得も比較的容易である一方、単なる「記録」に留まり、活用まで至っていないのが現状だという。
とくに営業で課題となるのが「商談のブラックボックス化」だ。商談の会話を音声データとして活用することができれば、セールス・イネーブルメントやセルフコーチング、マネジメントを推進することが期待できる。
今まで資産と言えば、石油や金など換金性のある有形資産が主でした。しかし、AI社会になるとこの概念が変わります。画像、テキスト、音声などのデータという無形資産を豊富に持つ企業が、資産を多く持つ企業と評価されます(p57)
「録音ファイル」と「音声データ」は似て非なるもの
実は、打ち合わせや商談を録音・蓄積している企業自体は多いという。それにもかかわらず、テキストや画像と比べて「音声×AI」活用が進まない理由について、本書では「録音ファイル(生音源)」と「音声データ」の違いに言及する。
AIから良質なアウトプットを得るには「可能な限りAIに学習させられるようなきれいに整形されたデータ」(p136)を収集・蓄積しなければならない。単に記録として残しただけで、雑多な情報が混在する録音ファイルは、AI活用に適さないのだ。
(前略)ただ単に録音された状態ではAIによる学習も分析も期待できません。(中略)言い換えれば、録音ファイルと音声データは似て非なるものであり、AIが分析できる状態に加工しないといけないということです(p139)
本書では、音声×AI活用がビジネスにもたらす変化、「音声データ」を収集・活用するための仕組みづくりなど、AI時代の営業が「音声データ」を活用するためのヒントが示されている。ぜひ本書を手に取り、「音声×AI」が自社の営業組織をどのように変革するか、考えてみてほしい。