「出会いからイノベーションを生み出す」Sansanのポートフォリオとは
今回の登壇者である中島氏は、機械部品の商社であるミスミや、経営コンサルティングファームのアーサー・ディ・リトル・ジャパンなどを経て2019年にSansanへ入社した。これまでのキャリアでは、製造業における商品開発、デジタルを駆使した事業開発や組織開発に携わってきたという。その経験を経てSansanでは、従業員数が1,000人以下の、SMB領域と呼ぶ規模の企業を対象に、デジタル変革の支援を担当している。
中島氏は、Sansanについて「多くの人は、名刺の企業だと認識しているのではないでしょうか」と話す。中島氏は同社のコーポレートミッションを引用し、本質は「出会いからイノベーションを生み出すことにある」と説明する。
「デジタルが注目される中でも、やはり新たなものが生まれるきっかけは、人と人とがかかわる瞬間にあると考えています。そこで、新たな出会いの創出や、新たな出会いから価値が生まれることを目指し、日々事業活動をしています」(中島氏)
中島氏の言葉のとおり、Sansanの事業ポートフォリオとしての枠組みは、営業DXサービス「Sansan」を主軸とした「働き方を変えるDXサービス」だ。そのひとつとして、「紙からデータへ」というコアコンピテンシーの延長線上にあるバックオフィス改革を推進するべく、請求書や契約書のデータ化に関するツールも展開している。
営業活動とDXの土台は“人脈”にあり?
今回のセッションテーマである「営業DXと顧客接点」について、近年はさまざまなデジタルツールが登場している。たとえば、見込み客の選定に役立つマーケティングオートメーション(MA)ツールや、商談・案件管理のためのSFAツール、さらにはコロナ禍で一気に導入が進んだ、デジタルイベントに関するツールなどが例にあがった。
一方、デジタルツールが豊富に提供されるようになり、手段が先行し始めたことで「そもそも営業のDXとは何か」「デジタル化とは何をすべきか」という本質的な目的を見失いがちな企業も増えている。
「私もそうですが、営業の現場は忙しく、日常業務の中で新しい物事を取り入れることは非常に負担でもあります。そんな中で、最初に着手するべきことに関する相談をいただくケースも増えてきています」(中島氏)
営業DXにおいて、中島氏がまず取り組むべきものとしてあげるのが「何のためにデジタル化を推進していくか」という目的の見定めだ。
目的は、大きくふたつに分けられる。それが「売上の拡大」と、「営業生産性の向上によるコスト削減」だ。両者は事業の収益性向上というテーマにまとめることもできるだろう。加えて、何か新しいツールを導入した際に、売上の拡大とコストの削減のどちらかに寄与しているかも検証できるようにしておく必要もあるそうだ。
では、そもそも売上の拡大に必要なものは何だろうか。中島氏は、「受注金額の最大化」、具体的には「受注件数と受注単価」に分けられると話す。
さらに、受注件数を増やすには見込み案件を増やす必要があり、そのためには商談を実施して案件化率を高めることも求められる。さらに突き詰めると、「商談には顧客へのアプローチ数を増やすべきだ」と解像度が高まっていく。そのうえで、中島氏は次のように指摘する。
「顧客へのアプローチに役立つのが、顧客の接点情報、つまり“人脈”です。人脈の情報は、受注の転換率に大きく影響する、営業活動における“基地”とも言える土台の部分なのです」(中島氏)
接点情報が可能にする、営業活動の高度化とは
中島氏のいう接点情報、人脈とは何か。この点は非常にシンプルで「顧客とやりとりしたすべての情報」だ。もっともわかりやすいのは、名刺など直接接触した顧客の人物情報だろう。あるいは、直接会ったことがなくても、資料のダウンロードやイベント参加などで得たリード、はたまた人事異動に関するものも該当する。
「中でも人物の情報は、商談を進めるうえでとくに重要です。システム化が進む法人営業とは言え、やはり人と人がコミュニケーションをするものです。あくまで一例ですが、『同じ高校を卒業した』といった情報があるだけで、受注率に影響することもあるでしょう」(中島氏)
こうした接点情報は一般的に、日々の営業活動でどんどんと社内に蓄積されていくものだが、一方でしっかりと活用できる状態になっていない企業も多い。受注経験がある企業や決裁者のステータス、契約の内容などがデータベース上にあるにもかかわらず、それらが点在するだけで、現場ではキャッチアップできていないケースもあるだろう。
「これらの情報を、きちんと整理して使える状態にするだけで、アプローチできる“幅”、商談の武器が非常に多くなります。幅が広がるということは、顧客との関係性を急激に近づけるチャンスであり、もっと直接的に言えば受注にもつながるようになるのです」(中島氏)
こうした考えのもとで展開しているサービスがSansanだ。同社のCMを目にしたことがある人も多いだろう。SansanのCMでは、顧客のキーパーソンと初対面だと思いきや、実は過去に社内に顧客の名刺情報があり、もっと早く知りたかった、知っておけばもっと効果的な営業活動ができた──といった内容がコミカルに描かれている。
「名刺情報に加え、メールやウェブサイトでの問い合わせ情報も集約できるようになり、オンラインとオフラインを問わず接点情報を蓄積するデータベースとして、Sansanは多くの企業に活用いただいています。そうした情報を一元管理できることで、キーパーソンの人事異動にいち早く気がつけたり、過去の商談を参照しながら新たな商談ストーリーを組み立てたりと、さまざまな活用方法が広がっています」(中島氏)
アポ獲得率3.5倍に Bill Oneの急成長をけん引した接点情報
Sansanでは、社内でも同ツールを活用した営業活動に取り組んでいる。その例として、2020年にローンチした「Bill One」のケースがあがった。Bill Oneはサービスローンチから4年で61億円の売上高まで成長しており、前年比で2倍以上の、文字どおり「急成長」が続いている。
Bill Oneの成長に寄与したのが、Sansanを駆使した営業活動だ。売上の拡大には、自社プロダクトのターゲティングが非常に重要であり、そのうち中島氏がセオリーとしてあげるのがペルソナ設計だ。しかし、Bill Oneのような新規サービスの場合は、アタックするのに最適な人物をいかに見つけ、絞り込んでいくかが難しい。
そこでSansanを活用し、これまでに接点がある人物や、その人物との関係性などのデータを全社共通の基盤として整備。顧客の組織体系を確認しやすくした。さらに、Sansanを導入している企業から、Bill Oneのターゲット層となり得そうなCFOクラス、経理担当者などを抽出し、最初のアタックリストを作成した。
「これまでSansanを使う中で、財務や経理部門のデータが社内に蓄積できていました。また、こうした部門の方は横のつながりも強く、ネットワークのデータもあったことが、大きなポイントになりました」(中島氏)
加えて取り組んだのが、Sansanの契約はないものの、何らかの接点情報がある人物へのアプローチだ。これは、社内のチャットツールでSansanとBill Oneの営業メンバーが情報を共有することで、相乗効果が生まれることを狙った。
その結果、2年間の営業活動を通して、接点のある企業とない企業では、前者のアポイント獲得率が2%だったのに対し、後者は6.8%と、3.5倍の違いが生まれた。Bill Oneの導入企業のうち6割が、「何かしらの接点があった顧客」だという。また、そのうち30%はSansanの契約がない企業であり、接点情報を蓄積しておくことの重要性を示している。
接点情報の活用で、煩雑な商談の準備時間は大幅に削減できる
セッションの最後では、営業生産性を上げていくために重要な、コスト削減にも話題が及んだ。
中島氏は、マッキンゼーのレポートを引用しながら、日本企業の営業生産性が、世界と比較して低く、55%が商談の事前資料や情報収集に当てられていると指摘。1商談につき、営業ひとりあたりがかけている時間は40分ほどだという。商談40回に換算すると、事前準備に30時間近くがかかっている計算だ。一方、Sansanを導入している企業の場合、営業ひとりあたりがかけている時間は15分、月換算でも10時間程度と、半分以下に収まっている。
「ポイントは、顧客情報を一元管理できているかどうかです。たとえば、顧客企業のキーパーソンへアプローチすることを考えてみましょう。接点情報があれば、社内に顧客側のキーパーソンと接点を持っている人がいるか、過去にどんなやりとりをしているかといった情報がすぐに集まります。これまでのキーパーソンの異動履歴や、さらに上の階層にいる決裁者に関する情報、顧客企業のIRや最新のニュースもあるとしたら、どうでしょう。アプローチの事前準備にかかる時間は、大幅に削減できるはずです」(中島氏)
つまり、接点情報の適切な管理と活用は、営業DXの2大テーマである、「売上の拡大」と「コスト削減」の両方に効果を発揮するわけだ。これにより、営業が本来時間を費やすべき、「顧客へのアプローチをいかに高度化するか」とい取り組みに時間を割けるようになると中島氏は話す。ポイントは、顧客の理解ではなく、その先にあるアプローチの検討こそが本丸であるということだ。
ここまでをまとめ、中島氏は次のようにセッションを締めくくった。
「接点情報を集約し、即座に活かせる環境をつくることが、営業DXのポイントです。以前であれば、デキる営業パーソンというのは、接点情報を自分で集約して、保持していました。テクノロジーによって、全社で共有できるようになっているのは、とても素晴らしいことだと思います。ぜひ、社内の貴重な資産を眠らせるのではなく、活用することを当たり前にしていきましょう」(中島氏)
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