社長になりたい、けれど営業が苦手だった
――キャリアのスタートについてまず伺えますか。
実家が自営業だったこともあり、経営者になりたいと思っていました。世の中の仕組みもわかり、人脈ができるのは銀行だと聞いていたので、金融業界を目指していましたが、せっかくの就職活動という機会なので、いろいろと受けてみたなかに当社がありました。IT業界はまったく目指してなかったのですが、自分が望んでいたようなチャレンジングな環境だと感じたんです。早いスパンで新規事業を立ち上げて、失敗したとしても再度チャレンジできる。魅力を感じて入社を決めました。
また、社長になるためには営業力の強い会社で1位をとらなければいけないとも思っていたのですが、「営業は苦手」だと感じていて。苦手は早いうちに克服しようという気持ちで営業職としてキャリアをスタートさせました。
――なぜ、苦手だと思われていたのですか?
学生時代にテレアポのバイトをしたことがあったのですが、1件もアポをとれずに1日で辞めてしまったことがありました。家庭教師を勧めるテレアポだったので、夕方ごろに個人宅へ電話するのですが、「夕飯をつくっていて」「子どもの面倒を見ていて」と言われるたびに、「そうですよね、すみません」とすぐに引き下がってしまって。営業行為は人に迷惑をかけてしまっているのではないかという思いと苦手意識が芽生えました。
――そんななか、取り組まれた営業1年目はいかがでしたか?
当初は全然うまくできなかったですね。テレアポからつまづき、1日200件かけてもアポ0件という感じで。既存リスト向けの営業をしている先輩はいたものの、商材を提案するために新規リストをつくって営業しているのは自分だけだったので周りとの比較もできず本当に難しかったです。改善するためには、自分と向き合うしかありませんでした。
――どうやって克服されたのでしょうか。
1年目の終わりのほうにやっと成果が出てきたんです。とにかくたくさん行動するしかないと思い、量を重ねたことで成果が出ました。なぜ量をこなして成果がでたのか?というところなのですが、肝は「リストづくり」でした。1件のコールでアポがとれなくとも「予算のタイミングじゃないから」「金額が高いから」「目指すことに対して、機能が不十分」など、いま提案が難しい理由を聞いていくわけです。「では、予算はいつとられますか」とヒアリングし、リストに書き留めて、予算獲得のタイミングになればきちんと電話する、ということを着実にやりました。ニーズを拾っていくと、「機能追加したとき」「値下げのキャンペーンの際」「予算のタイミング」とタイミングに合わせた見込みアポのリストがどんどんできていきました。
――リストの見つけかたではなく、ご自身なりにリストを再構築していくところが重要だったのですね。
そうですね。そうやって安定的に案件を獲得できるようになって、マネージャーとなり部下を育てていく立場となりました。自分ができない営業からできる営業になった理由は「リストづくり」にあったわけですが、これは属人化しない仕事で、再現性が非常に高く、能力が低くてもトッププレーヤーになれる手法だと思っていたので、確実に部下にやらせようと思いました。
しかし実際には、「リストづくりを徹底させられない」という難しさにぶつかりました。どうしても営業は、その瞬間に売上が上がる「今すぐ客」じゃないと取り組まないんですよね。営業の宿命なのでしょうか。優秀な営業であればあるほど、徹底しなくとも数字が上がるし、優秀じゃない人もここまで細かくはやれない。
どう良くしていくかと考えたのですが、組織体制を変えるしかないと思いました。マーケターやインサイドセールスがリストづくりや顧客育成であるいわゆる「リードナーチャリング」を担う。営業は商談や売上に専念させて、組織としてリストを整備する。すべてを営業に求めないことも大切かなと。