ニーズが顕在化している見込み客の実情は……?
前回は、見込み客と売り手がおかれている状況を整理し、共同作業に有効な「プ譜」の使い方を解説しました。今回は、インサイドセールスの現場を例にプ譜の活用方法を具体的に解説していきます。
インサイドセールスの役割を、「ニーズの確認を行い、受注確度の高い見込み客を選別して、営業に商談をパスする」としているBtoB営業組織は多いでしょう。「受注確度の高さ」は各社が設定したBANT条件(予算、権限、ニーズ、時期)のしきい値を満たしているかで判断されると思います。中でも解釈や定義がばらつきやすいのがニーズです。
ニーズは「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」に大別され、顕在ニーズは、「見込み客が取り組もうとしている問題が言語化されていて、解決の必要性を見込み客が自覚している状態」と言えます。また、『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』(丸善出版)によれば、ニーズは「基本的な要件(必要性欲求)」とされ、ニーズを満たすであろうものが特定の対象に向けられると「ウォンツ」になると言います。たとえば、「会議の生産性を向上させたい」はニーズで、そのための手段として「AI議事録システムを使いたい」はウォンツになります。
見込み客の視点に立って考えてみましょう。購買前のプロジェクトの初期段階において、「会議の生産性を向上させたい」というニーズと「AI議事録システムを使いたい」というウォンツを持っていたとしても、見込み客のプロジェクトはうまく進んでいきません。見込み客に必要なのは、「どのように生産性が向上していれば成功と言えるのか?」「関与者の業務がどうなっていれば生産性が向上したと言えるのか?」という成功の定義です。
成功の定義は、見込み客が売り手の製品を手段として使用し、プロジェクトを成功させるための判断基準にもなるものです。これがないと、自社のプロジェクトにとって最適な製品を選べず、計画に一貫性を持てません。最終的にはプロジェクトの失敗を招くでしょう。
しかし、多くのプロジェクトは成功の定義がそもそも考えられていなかったり、あいまいだったりしています。また、プロジェクトが進む中で変化・変更することもあるでしょう。このような状態の見込み客に対し、売り手が「この見込み客はニーズが顕在化していてウォンツも明確だ」と判断して商談をセットしても、以上のような状況のために案件が進捗しないことが多々あるのです。
では、インサイドセールスが見込み客の「成功の定義」を言語化できるようになればどうでしょうか。さらには、その状態を実現するための構造や見通しを明らかにし、見込み客の目標の全体像のなかに自社製品がどう貢献するのかまで位置づけられたらどうでしょうか。
見込み客は自身のあいまいな状態を脱し、プロジェクトの方向性を定めることができるでしょう。これは、見込み客の意思決定コストを下げ、プロジェクトを一歩進める支援になります。見込み客は、インサイドセールスを自社のプロジェクトを支援してくれるに足るパートナーと認知するでしょう。
ここからは大きな学習コストをかけずに、このような良い効果を生むための文書の作成と使用方法を具体的に解説していきます。