そもそも「ChatGPT」とは?
「ChatGPT」とは、米OpenAI社が提供するAIチャットツールだ。大規模言語モデルを使用しており、ユーザーが入力したテキストに対し自然な会話のような返答を自動で返してくれる。2023年3月にはChatGPTのAPIが公開され、さまざまなツールに組み込むことも可能になっている。
南日氏は、ChatGPTのポイントは「汎用性の高さ」にあると言う。
「ドラフトの作成から文章の修正、推敲までをChatGPTで実行できます。要約やリストアップもできるため、たとえばリサーチ業務を短縮するのに活用できるでしょう」(南日氏)
「顧客管理」が半自動化される
ここから「営業」と「AI」を絡めた本論に入っていく。
前提として、営業では「誰に/何を/どのように」売るのかというフレームワークで考えることが重要だと同氏は話す。「誰に/何を/どのように」を営業の業務で言い替えると「顧客管理/営業ナレッジ/営業プロセス」となる。
まず、「誰に=顧客管理」の部分でAIを活用すると、どのような変化が起きるのだろうか。
「顧客管理に該当する業務のひとつに『顧客管理システムの入力』が挙げられます。商談情報をCRM/SFAに入力する際、効率化に課題を感じている人も多いのではないでしょうか。AIツールを活用すれば、この業務を半自動化できます。たとえば、商談の文字起こし、商談のポイント抽出、顧客管理システムの更新が自動で行えるようになります」(南日氏)
続いて南日氏は、「個別顧客の情報収集」や「顧客リストの作成」にもChatGPTを活用できると話す。
「個別顧客の情報収集も、自動で収集・要約ができるようになります。たとえば営業が企業を指定すると、AIが情報収集・要約してくれるといった使い方です。顧客リストの作成も、『従業員数1,000名以上かつ製造業』などの要件を営業が入力することで、AIがリストをつくってくれます。AIが出力した内容を営業がチェックし、必要であればAIに再度指示を出します」(南日氏)
ここでのポイントは「最終的には人がチェックする点」だと同氏は言う。
「AIが出力した内容に違和感がある場合もあります。その場合も、何度でも修正指示を出すことができます。この利便性は対話型のチャットツールならではのポイントと言えるでしょう」(南日氏)
AIは「機械」のため気兼ねなく何度でも再依頼ができる。これによりスピーディーに作業を進めることができ、営業生産性の向上が期待できるのだ。
「営業ナレッジ」の有効活用が期待できる
「誰に/何を/どのように」の「何を=営業ナレッジ」の部分では、AIによってどのような変化が起こるのだろうか。南日氏は次のように語る。
「提案書・見積書の作成、商談に向けた情報収集、社内打ち合わせなどの業務では『ナレッジ』、つまり資料が必要となります。しかし、ナレッジが社内に存在するにもかかわらず活用できていないことが企業の課題となっています」(南日氏)
たとえば、資料を探しても見つからないケース、隣のチームも似たような資料をつくっていたケース、上司の勘と経験に基づいてアドバイスが行われているケースなどが想定できる。南日氏が引用したデータ(出典:SiriusDecisions, Inc. 2015)によれば、社内の営業ナレッジの6割以上が「使用不能」または「発見不可能」となっており、有効活用されていないという。
「ここでAIを活用すれば、最適な提案書をサジェストしてくれます。たとえば『〇〇という商品を、〇〇業界向けに提案したい』とAIに指示することで、AIが過去の資料を読み込み、適切な提案書をレコメンドしてくれます。なお、このようなAIレコメンドを実現するには社内ナレッジの“総動員化”が重要です。つまり、提案書、事例、ノウハウなど社内のあらゆるナレッジをAIに読み込ませなければなりません。これを行うことで、状況に合った適切なアドバイスを得られるようになるのです」(南日氏)
また同氏は、社内打ち合わせの効率化も期待できると話す。
「例として、営業が顧客側の担当者と合意はできているものの、なかなかその先に進めない場面を想定しましょう。上司との打ち合わせの議事録を蓄積できていれば、過去に同じ状況で社内の上司がどのようにアドバイスしていたのかがわかり、提案に落とし込むことができます。上司のスケジュールに左右されず、自分のタイミングでAIに相談できるため、効率化が期待できます」(南日氏)
「営業プロセス」において客観的な助言が得られる
続いて南日氏は「どのように=営業プロセス」の部分で起こる変化を解説する。「営業プロセス」には、顧客との商談や個別連絡などの業務が該当する。
「たとえば、ウェブ商談中にAIが自動でアドバイスを送るといった活用が考えられます。会話の中で出てきた深掘りしたほうが良いキーワードをAIがこっそり教えてくれるわけです。客観的なアドバイスをリアルタイムで得られるのがポイントですね」(南日氏)
また、顧客への個別連絡業務をフォローするソリューションの提供も始まっているという。
「たとえば商談が終わったあと、お礼メールをAIが自動で作成してくれます。あるいは、次回のアクションを想定し、メールに入れるべき内容の提案も行ってくれるようになります。こうしたことができるプロダクトは、外資系の大手企業がすでに提供しています」(南日氏)
営業組織がAI活用を実現していくには?
ここまでAIが営業にもたらす影響が解説された。では、実際に営業組織がAI活用を推進していくにはどのようなことを意識すれば良いのか。南日氏は大きく3つのポイント「1. 組織方針」「2. 組織体制」「3. 現場利用」が重要になると語る。
ひとつめの「組織方針」は、AI活用を規制するか活用するかで分かれる。つまり、情報漏えいや事実誤認といった「リスク」と捉えるか、生産性向上につながる「機会」と捉えるかだ。これらは部門によっても視点が変わってくると南日氏は言う。全体の戦略を紐解き、どのような基準でAI活用を判断するのがベターなのかを検討することが企業には求められる。
ふたつめの「組織体制」は、フロント部門のように「人数」を重視した組織体制なのか、営業企画のように「生産性」を重視した組織体制なのかがポイントとなる。昨今、コロナ禍の影響もあり、売上向上よりも利益を追求する風潮が高まっていると話す南日氏。この潮流を踏まえ、単に人を増やすのではなく、今いる人員の出力を上げていくことを意識することが重要となる。「AIなどのテクノロジーを活用するうえでは、ラインの生産性を重視した組織編成が非常に重要です」と同氏は強調する。
3つめの「現場利用」は、実際の業務への組み込みを意味する。組織方針や組織体制が決まったあとの工程として必要だが、多くの組織ではこの工程が抜けてしまいがちだという。生産性の向上は、ひとりで取り組むのではなく全体で取り組んでいかなければならない。そのために必要なのは営業の業務を標準化することだ。また、現場を管轄するマネージャーが組織方針を理解し、オペレーションを徹底的に現場まで落とし込むことも重要である。
一方、時代の流れは速いため、組織方針の切り替え判断を早くする心構えも必要だ、と南日氏は補足した。
「テクノロジー技術のトレンドの移り変わりは速いです。一度決めた方針を変えたり、チューニングしたりする必要性も発生するでしょう。営業の自主性に重きを置きすぎると、戦略や方針が変わったタイミングで舵取りについてこれらなくなる可能性があります。現場利用の観点については、ある程度『標準性』を重視したうえで落とし込むのが良いと考えます」(南日氏)
「ナレッジワーク」にもChatGPTがすでに搭載
同社が提供する「ナレッジワーク」は、営業ナレッジを共有化するためのツールだ。「誰に/何を/どのように」の「何を」の部分で効果を発揮する。条件での絞り込みや、フリーワードでの検索機能も備えており、スピーディーに資料を探せるのが魅力であると同氏は語る。
「たとえば資料を探す際、用途は『商談用』、営業フェーズは『課題の合意をしたい』、業種は『金融』と条件指定します。そうすると、適した資料の一覧が出てきます。グルメ情報や物件情報の検索サイトと同じような使い勝手をイメージしていただけるとわかりやすいでしょう」(南日氏)
さらに同ツールは、すでにChatGPTを活用した機能「Knowledge AI Chat(β)」を実装している。
「たとえば『競合商品Xを検討中のお客様に、自社の商品の魅力を伝えるにはどうすれば良いか』とたずねます。そうすると適切な情報や資料が即座にレコメンドされ、該当の資料に素早く飛べるようになっています。これにより、上司や同僚に質問する手間を省けるわけです」(南日氏)
「もし、営業課題についてディスカッションしたいと感じておられる方や、ツールに興味がある方がいらっしゃれば、ぜひ当社にご連絡ください」──。南日氏はそう言ってセッションを締め括った。