組織を動かすデータの「見せ方」
今回はまず、データの表現方法について解説していきます。同じデータでも見せ方によって相手の受け取り方は変化します。読み解くのに時間がかかったり、専門知識が求められたりするデータを、組織横断でメンバーが日常的に利用するのは困難です。
組織全体が共通言語としてデータを理解し、組織の状態や課題に気がつくことを目的にするのであれば、見せ方にも考慮が必要です。
上の図は同じデータを使っています。左側の表形式はデータを詳細に見るのには適していますが、内容を瞬時に読み解くことは困難です。右側のグラフ形式は詳細なデータを見るには不向きですが、直感的に情報を把握することができます。
車のダッシュボードを見てみると運転中に必要なデータを瞬時に把握できるように工夫されています。道路標識やスマホアプリなどもそうです。見せ方を工夫することで多くの方が瞬時に共通の認識ができる情報媒体になります。
続いて、データにより何を見せるのかという点についてお話したいと思います。
上の図のいちばん左の図は売上推移のみを表示しています。売上が推移しているのはわかりますが、それが良いのか悪いのかがわかりません。データをただ見せるだけでは組織を動かすための情報として不十分です。
左から2番めの図には売上推移に年間の予算目標を表した線(予算線)を追加しました、これにより予算の進捗状況がわかるようになりました。同時に不足する売上(ギャップ)が見えるようになりました。
ここまでは実績推移ですが、実績とは過去のデータです。つまり「結果」です。マネージャーは「結果」をコントロールすることはできません。マネジメントすべき対象は過去ではなく「未来の成果」です。未来の成果を出すためにプロセスをマネジメントしていく必要があります。
左から3番めの図は2番めの図に見込みを追加したものです。観測時点で保有している見込量がひとめでわかり、予算に対してギャップがあれば、ギャップを埋めるための見込み商談有無が把握できます。現在の見込み量であればギャップは埋められると判断するのか、不足するのであれば対策を実行しなければなりません。または今期の成果を諦めるという判断もときには必要になるでしょう。
最後にいちばん右の図です。こちらは昨年度の売上と見込み量の推移を加えたものです。これにより見込み量がどの程度あれば、どの程度の着地になるか予測が可能になります。売上のギャップに対して、見込み量の過不足を判断するための判断材料となるデータが増えました。即座に現状のリスクを把握できるため、組織はより確信を持って挑むことができるようになります。
予言と予測の違いとは?
補足の説明になりますが、見込み量のデータを用意するためには事前準備が必要です。現時点での見込み量がどの程度あるかという情報は、営業活動に合わせて刻々と変化していきます。一般的な営業管理ツールには、その時点の見込み量しか存在しないため、スナップショットと呼ばれる、特定のタイミングの見込み量を記録して保存する必要があります。
いちばん右の図は、スナップショットデータを1年間蓄積することで初めて見ることができるようになります。昨年の見込み量と比較したい場合はスナップショットデータを1年間蓄積してみてください。
当社では2014年からスナップショットデータを蓄積しています。これらを用いて環境変化や年度による変動を考慮したいくつかのシナリオを用意し、期初にある見込み量が営業の予算目標値に達成できるか検討しています。
実際に私が営業責任者を務めていた際の予測精度はどの程度だったかと言うと、毎年期初に報告していた売上予測から外れたことは一度もありません。データドリブン型の組織変革前は期末直前まで当期の着地予測を出すことができなかったため、大きな変化です。
だからと言って、突発的に発生する環境変化を完璧に予測することはできません。来年、景気が後退局面になる可能性があると判断した場合は、見込み創出量や成約率、投資予算を調整して衝撃に備えた営業計画を立案します。このときも過去の売上推移や見込量の推移、成約率のデータといった判断材料があることが意思決定において大きな違いを生みます。
※確実に未来を言い当てることを “予言”=実現できないこと、過去のデータに基づき根拠ある見通しを“予測”=自身が改善できるプロセスと考えています。