高まるセールスエンゲージメントの必要性
──先日開催された「ルートセールスDXフォーラム」は非常に盛況でしたよね。セールスエンゲージメントへの注目度の高さがうかがえました。まずは、セールスエンゲージメントが求められる背景について教えていただけますか。
鈴木(Salesforce) 営業活動で成果を出すうえでは、顧客へのアプローチ方法や優先順位、適切な活動のタイミングについて「再現性を持たせる」ことが重要です。そのためSalesforceは長年、データから状況を可視化して、次にとるべきアクションを導き出すことを目指してきました。しかし、見えてきた結果や傾向の判断を人が行うと、経験値やセンスに頼ることになって再現性を持たせることが難しくなります。
「いかに仕事を民主化できるか」が重要で、これは市場のニーズとしても強まってきており、当社もインサイドセールス向けに提案の自動化をするソリューションも提供しています。さらに、近年は各社でデータの蓄積が進み、業務負担を小さくするニーズも年々高まってきている。こういった時流の中で「セールスエンゲージメント」というキーワードが浮上してきた認識です。
──SFAやCRMが浸透しデータの価値が理解されてきたからこそ、次の「行動に活かす」部分の仕組み化が求められるようになってきたんですね。石田さんはいかがですか。
石田(UPWARD) とくにルートセールスという業態において、セールスエンゲージメントの必要性が高まっていると思います。
背景はいくつかあります。ルートセールスは決まった取引先に訪問するため、従来は「勘と経験と根性」で成果を挙げられた傾向があります。そのため、ITの力を借りる必要性もなかった。もちろんそれで上手くいけば、そのままのやり方で良いのですが、近年は外部環境の変化によって売上を伸ばすのが難しくなってきています。たとえばルートセールスの業態をとる代表的な業界、住宅業界や自動車業界では人口の減少などさまざまな外的要因によって、市場自体が縮小しています。
つまり、これまでの営業のやり方を続けていても立ちゆかなくなるため、変革をしなければいけない。そこで、SFAやCRMを活用する必要が出てくるのですが、ルートセールスの現場ではなかなか使いこなせていないんですよね。当社のアンケートから、ルートセールスを行っている企業の約7割がデータの蓄積自体できていないことがわかっています。その理由は大きくふたつあって、データ入力に手間がかかるということと、必要性を感じないということ。とくにルートセールスは1日に何十件も訪問するケースもあるため入力作業の負担は深刻です。
ここにセールスエンゲージメントの必要性があるんです。というのも、逆に言えばデータの入力が楽で、データを入力する必要性やメリットを感じる仕組みがあれば、営業変革を起こすことができる。入力が手間という課題を解消しつつ、「データを使えば売上をあげるための示唆を得られる」とメリットを感じられる。その両方を含んだものがセールスエンゲージメントの考え方だと思います。
──そういった背景の中、今回「Salesforce Platform」のCRM機能の一部とUPWARDが持つ独自の位置情報機能などを、ルートセールス向けにパッケージ化したOEM製品「UPWARD Sales Engagement Platform」の提供が開始されました。SalesforceとUPWARDのこれまでの関係性や歴史についてうかがえますか。
鈴木 UPWARDさんが当社のパートナーになったのが2013年と、かなり長い歴史があります。初期は、Salesforceに登録されている顧客情報を、地図上にマッピングして状況を可視化するアプリケーションから連携させていただきました。このマップ表示のアプリにもかなりニーズはあったものの、今振り返れば導入推進者のスキルが求められるツールだったと感じます。
その後、UPWARDさんがさまざまなお客様と会話する中で、ユーザーニーズに合わせた機能が強化されていきました。徐々にマップ表示だけではなく「営業パーソンの活動を楽に、最適化する」という点に価値訴求のポイントをシフトしていきました。
こうしたプロセスをずっとご一緒してきた中で、OEMで提供できるテクノロジーの幅も広がってきているんですね。そして先ほども申し上げたとおり、蓄積したデータをより上手く活用したいというニーズも強まってきている。そんな流れが、今回の新しいプロダクトのリリースにつながったと考えています。
──一緒に取り組みをされるうえで、UPWARDさんならではの特徴をどのように感じていらっしゃいますか。
鈴木 UPWARDさんは当社の歴史を長年見てきているため、当社の強みも弱みも熟知していらっしゃる。だからこそ、SalesforceとUPWARDさんのサービスが提供する価値の棲み分けや、組み合わせ方についてより深く考えられていると思います。
また当社も業界向けのアプリケーションを提供する中で、対応できる業界はまだまだ限られているのですが、UPWARDさんがルートセールスの文脈で幅広く市場をカバーしてくださっているのは心強いです。
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タイムテーブル
- 新しい社会で目指す顧客との関係構築の在り方/株式会社セールスフォース・ジャパン 取締役副社長 古森茂幹氏
- ルートセールスの営業DX、いま注目すべき「セールスエンゲージメント」/UPWARD株式会社 執行役員 COO ビジネスグループ統括本部長 石田正樹氏
- レガシー企業が目指す営業活動のDX/リンナイ株式会社 営業本部 販売管理部 DX推進グループ 主事 加賀将之氏
・オンデマンド配信視聴期間
2022年12月8日(木)12:00~2023年1月13日(金)13:00
専門商社や製造・金融、"行動主体"の幅広い業界にフィット
──UPWARDさんからも、UPWARD Sales Engagement Platformを発表された背景について教えてください。
石田 営業活動の入力を楽にしようという世界にシフトしてきたものの、ルートセールス業態に対してはなかなかベストフィットなソリューションが提供できていないという課題がありました。業種特化型のいわゆるバーティカルSaaSが流行っていますが、ルートセールスという「業態」に特化したものはないんです。
そこで今回のUPWARD Sales Engagement Platformに関しては、ルートセールスの「かゆいところに手が届く」ソリューションを提供できればと考えました。世界最強のSalesforceプラットフォームの上に、UPWARDのコア技術とルートセールスに特化したコンポーネントが組み合わさることで、ベストフィットするのではないかと思います。
──ルートセールスの課題を解決したいという思いが、今回のプロダクトにつながったんですね。
石田 日本においてルートセールスの業態をとる企業は多く、ここの変革をサポートすることで、日本全体のビジネスの活性化にも直結すると考えていました。
また、最近のポジティブな流れとして、コロナ禍によってITを活用して成果を出していかなければという機運は高まりつつあります。このタイミングで、単なるツール導入に終わらせずに、変革の後押しをすることに大きな意義があると感じています。
──UPWARD Sales Engagement Platformに対して、Salesforceさんはどういった期待をされていますか?
鈴木 私が営業時代にSales Cloudを提案していた際も、案件の量が非常に多い企業様をたくさん見てきました。たとえば、1日20件訪問する卸売業のケース。膨大な活動を記録して活用する業務を、なるべく楽にできるように、お客様とずっと頭をひねってきたわけです。それを解決できるツールに、大きな期待を寄せています。また、業界特化ではなく、さまざまな業界で活用いただけるため、この製品を通じてお客様のすそ野を広げていけると良いなと考えています。
──UPWARD Sales Engagement Platformが「こういった組織の活動に役立つ」という対象があれば教えていただけますか。
石田 自動車などを含めた製造業のほか、専門商社や金融・保険業界の企業様からの引き合いも多いです。金融・証券などリテール向けの営業も、お得意様を回って提案するルートセールスに近い業態ですから、フィットします。
ルートセールスに特化した製品ではありますが、似たような「行動主体型」で、お客様を頻繁に訪問してサービスを行う方に広く活用いただけるはずです。今後さらなるニーズが期待できると考えています。
Excel管理を脱却!予実管理やスケジューラーもカバー
──UPWARD Sales Engagement Platformの特徴的な機能についてうかがえますか。
石田 ルートセールスにおけるDXのかゆいところに手が届くポイントとして、ふたつの機能を紹介します。
ひとつは、予実管理の機能。これはルートセールスとは切っても切り離せない業務です。ルートセールスは、必ず取引先もしくは商材ごとに予算と実績の管理をされています。要は、「得意先が何社あって、年間で大体このくらいの取引を見込んでいます」という計画に対して、結果いくらだったかを管理しているわけです。案件ごとの管理というより、小さな部品から大型の受注まで全部トータルした実績との比較になります。
ここがCRMやSFAだけではきれいに表現しづらく、裏でExcel管理されている企業様も多かったため、UPWARD Sales Engagement Platformでは標準機能として提供しています。
もうひとつが、スケジューラーの機能です。訪問先の件数が多いため、スケジュール登録も億劫になってしまう。そこで訪問対象の顧客がリスト表示された状態で、画面遷移なくドラック&ドロップでスケジュール登録ができる機能を搭載しています。
──引き続き2社の連携を深めていかれると思いますが、中長期の展望や直近の機能追加の予定、お互いに期待していることがあれば教えてください。
鈴木 当社はCRMを中心としたアプリケーションを長年提供してきましたが、今後はよりかんたんに、シンプルに課題を解決したいお客様が増えてくると考えています。そのための連携を強化できたらと思います。
また、今回“Sales” Engagement Platformという名称ですが、ラストワンマイルの活動をより効率的に管理したいのは、セールスに限らないはずです。領域を広げたプロダクトのエンハンスメントを期待していますし、私たちとしても考えているところです。
さらに、海外展開も期待したいですね。とくにアメリカはセールスエンゲージメントという言葉が生まれた場所ですし、移動が日本よりも不便でニーズは高いと思います。日本の市場での実績を引っ提げて海外へ展開していければと期待しています。
石田 我々もグローバルへの展開をポイントとして考えています。日本に似た商習慣、つまり狭い土地に多くの物件を抱えていて、車移動という特徴があると、情報入力の手間が課題になりがちです。これは実はAPACに多い傾向がありますから、展開していきたいですね。
また追加の機能は、お客様の声を聞きながら、営業に限らない職種向けのコンポーネントも順次検討したいと思います。さらに、マネージャー向け機能のリリースも予定しています。現場の状況を可視化するだけでなく、それに基づいたメンバーへの指示やマネジメントのための示唆を得られるような機能です。
──最後に、営業成果を上げる手段としてテクノロジーを活用したいと考えている読者の方々に向けて、メッセージをいただけますか。
鈴木 テクノロジーに対して難しい印象を抱いている営業の方が多いのですが、今は驚くほどテクノロジー活用の敷居が下がってきている。それをぜひ知っていただきたいと思っています。たとえば、営業の売上予測もそうです。当社の営業マネージャーはAIが出したフォーキャストと自分が出したフォーキャスト、どちらがより正確だったか比較していますが、AIが意外と優秀なんですね。それほど高度なこともテクノロジーで容易にできるようになってきていますから、ぜひ怖がらずに挑戦していただけると良いなと思います。
Salesforceも、Sales Techのリーディングカンパニーとして、当社1社だけで頑張るのではなく、エコシステム全体で総力を挙げてお客様を支援したいと考えています。今後もご期待いただきたいです。
石田 ベストフィットするソリューションがなかなかなかった、という話をしましたが、一方で適したソリューションに巡り合えたとしても、その先に大きなハードルが待っています。それは、社内の理解を得て推進すること。Salesforceさんでは推進者のことを「チャンピオン」と呼びますが、とても重要なファクターです。そういった縁の下の力持ちのような方が、DXに成功された企業の裏側には必ず存在します。
そういった推進者の皆さんを当社としてもサポートしたいですし、そのためのプログラムも現在作成しているところです。Salesforceさんにはチャンピオン同士のネットワークもあります。必要であればそういったネットワークをつなぐこともできますし、推進するうえでのベストプラクティスも当然お届けできます。
読者の皆さんにはとにかく「ひとりじゃないです」とお伝えしたいです。できる限りのサポートをさせていただきますから、ぜひ、めげずに突き進んでください。
──ツールとソフト、両面で営業組織を支援される姿勢が伝わってきました。本日はありがとうございました!
【好評につき】ルートセールスDXフォーラムをオンデマンド配信中!
2022年11月に開催されたルートセールスDXフォーラムが、好評につきオンデマンド配信中。視聴・詳細は「ルートセールスDXフォーラム」から。
タイムテーブル
- 新しい社会で目指す顧客との関係構築の在り方/株式会社セールスフォース・ジャパン 取締役副社長 古森茂幹氏
- ルートセールスの営業DX、いま注目すべき「セールスエンゲージメント」/UPWARD株式会社 執行役員 COO ビジネスグループ統括本部長 石田正樹氏
- レガシー企業が目指す営業活動のDX/リンナイ株式会社 営業本部 販売管理部 DX推進グループ 主事 加賀将之氏
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2022年12月8日(木)12:00~2023年1月13日(金)13:00