今回のご質問
「8月より日系企業から外資に転職をいたします。まだオンボーディングすらしていないためざっくりとした質問になってしまうのですが、外資セールスとして活躍するための勘所などあればご教示いただけますと幸いです」
"PIP"とは? 最大の違いはローパフォーマーへの接し方
私の経験に基づくと、日本企業の営業と外資企業の営業の根本的な違いは「ローパフォーマーに対する会社の接し方」です。イメージどおりだと思う方も多いかもしれません。実際にパフォーマンスが出ない期間が一定期間続くと、「PIP(パフォーマンス・インプルーブメント・プラン)」という“イエローカード”がマネージャーから渡されます。
マネージャーは、PIPを渡すと同時にメンバーに対して高めの中間KPIをセットします。受注金額の未達が続いているフィールドセールスであれば「訪問件数」や「提案数」などの目標値を高くするのです。PIPの中には「来月までに新規アポイントを○○件達成、達成できなかった場合、二度と昇給・昇格はありません」という文言があり、担当者はこれにサインすることになります。外資法人にも解雇規制がありますから、不当解雇は行われませんが、結果が出せない場合、立ち去る人が多いのも事実です。これが、「結果が出なかったからクビ」という外資のイメージにつながっている部分だと思います。
賛否両論あると思いますが、私自身マネージャー経験を経てPIPを出すことは決して悪ではないと考えるようになりました。環境を変えればパフォーマンスが出ることは誰にでもありますし、人としての良し悪しをジャッジしているのではなく、あくまで合う合わないの判断を行っているだけだからです。日本企業でも、みだりにマネジメントコストを投下し続けるのではなく、法律を遵守したうえでこのような手段をとりいれても良いかもしれません。プレイヤーにとっても、次の良い環境への出会いにつながる可能性があります。
SaaS業界で言えば、シリーズB、C、Dなどのステージにあればプロダクトがかなり成熟しており、営業のパフォーマンスさえ高ければ売れるようになっていきます。一方、シードからシリーズへ移行する過程であれば、プロダクトを磨き込んでいくために社内のエンジニアなどを巻き込むスキルが必要でしょう。いずれにせよ、その場所でパフォーマンスが出ない=その人が悪いという発想は持つべきではありません。
最先端のツールを活用できるアドバンテージ
また、外資では「メソッド」や「フレームワーク」を含め社内ツールが充実しています。私が直近働いていた企業では、Sales TechツールのGongやカスタマーサクセスツールのGainsightが活用されていました。退社してから2年ほど経ちますが、Gainsightは最近正式に日本進出してきましたし、Gongを活用する日本企業も少しずつ増えてきた段階です。アメリカ西海岸の会社はとくにツールへ積極投資しますから、日本法人のメンバーとしていち早くそれらを活用できるのはアドバンテージのひとつでしょう。
「MEDDIC」や「SPIN」などのセールスメソッドもアメリカ発祥です。雇用環境の流動性が高いアメリカでは、個人に依存せず、型をつくる必要があるという背景もあります。人に依存しない業務プロセス設計は会社からすると非常に効率的です。一方で働く側から見れば、果たせる役割が限定的だと感じることもあるかもしれません。
ただ、私が経験したスタートアップ系の外資企業では「日本の組織をつくるために良いと思ったことは全部やってみて」というスタンスでしたし、設立150年の老舗外資では、決められた仕事に対してパフォーマンスを出す傾向が強かったです。ひと口に外資と言っても違いはありますから、この点も留意しておくと良いでしょう。