熱狂的なファンをつくり、飲食業界の課題に向き合う
高橋(HiCustomer) まずは創業の経緯についてうかがえますか。
宮野(CRISP) 高校生のころにカリフォルニアに移ったのですが、911前後で日本へ戻ることとなり、タリーズコーヒージャパンの社員として5年ほど勤めました。中でも当時タリーズが運営していた「KOOTS GREEN TEA」という緑茶のカフェに携わっていて、2~3年間はその事業の責任者として店舗も10ヵ所くらいまで増やしていきました。
当時はまだ若かったので、「会社の枠を抜け出して自分のお店をつくりたい」と独立を決め、2007年からブリトーとタコスの店を始めました。個人の株主さんにもついてもらって、5店舗にまで手を広げたのですが、未熟さゆえに株主さんと上手く折り合いをつけられなかったこともありましたね。事業を譲渡して、次に取り組んだのがCRISPでした。
1店舗めは麻布十番で、想定していた外国人の方だけではなく、日本人の方も含めて非常にたくさんのお客様が訪れてくれて。売上も予想の4~5倍に上りました。オープン前の試食会などでは「サラダだけ?」「パンやコーヒーもあったほうが良い」と心配の声も多かったものの、いざオープンしたらさまざまな人に評価してもらえました。
ありがたいことなのですが、当時の僕はストレスも感じていて。裏道に店舗があったにもかかわらず、行列が表通りまでできてしまい「開店1時間前からお客様が並ぶ」「購入まで30分かかる」など僕らもパートナー(従業員)もいっぱいいっぱい。お客様もイライラしていたと思います。
高橋 そのような背景から、顧客体験向上のためにテクノロジー活用に向き合うことになったのでしょうか。
宮野 まさに、自社だけではなく飲食・外食産業全体の課題に向き合う必要を感じたんです。飲食業界ではお客様に支持されるほどに、クオリティや単価を下げていかざるを得ないという課題が存在します。実際、日本には良いプロダクトを持っている外食企業は多いのですが、その成長に対する投資を、効率や生産性向上を含めたコストダウン、「より良いものをより安く」に向けがちなんですよね。
一方、ITは違います。Gmailは、10年以上前は「無料だし使うか」くらいのツールでしたが、いまはGoogleのサービスがないと仕事が回りませんから、多くの企業が月額料金を払ってGoogle WorkPlaceを利用しています。ユーザー数が増えれば売上が上がり、より良い人を雇うことができ、サービスのブラッシュアップにつながる。そして、ユーザーにも価値が還元されているわけです。
業界を問わず、「体験にお金を払う」という側面は大きいと思います。ただ、飲食業界においてそこは定量化されていない。業界課題の解決のためにも、僕らはお客様に良い体験を提供すること、「熱狂的なファンをつくること」にチャレンジするべきですし、そのためにはお客様のことを良く知っておくほうが有利です。もちろん、来店したお客様に直接情報を聞いても良いですが、デジタル化したほうが聞きやすいでしょう。だからデジタル化を進めているという背景があります。