老舗企業が感じたデジタルセールスへの可能性
1915年に創業し、長い歴史を持つ横河電機。同社のビジネスは7割が海外で行われており、世界各地に合わせて約1万8,000名の従業員がいる。そんな同社は昨今、新たなビジネス変革に向け、デジタルセールスに注力している。
デジタルセールスを強化するべく、まず最初に行ったのは「セールスの公式」を次のように再定義することだった。
「リード×成功率×価値=結果」
2017年にはデマンドクリエーションセンター(DCC)を立ち上げ、マーケティングオートメーションの運用を開始した。また、それと同時に、インサイドセールスを「オンラインセールス」「SDR(Sales Development Representative)」「BDR(Business Development Representative)」に分割した。リード獲得、商談成立、受注成立フェーズに合わせ、役割を細分化したことにより、認知拡大から受注までの広い範囲をインサイドセールスがカバーできるようになったと成果が語られた。
直面した3つの課題
加えて、マーケティング・営業・ポストセールスのバリューチェーンプロセスをデザインしながらPDCAを回した阿部氏。「インサイドセールスの役割は『プロセス内で起こるすべてのことを把握し、顧客の変化に対応することで、売上を最大化する』こと。非常に大切な役回りです」と重要性を語るなど、取り組みが功を奏している状況を明かした。
一方で初期は課題も多かったと語る阿部氏。取り組みの過程では、「製品・サービスブランド名のインフレ」「バラバラなIT環境」「DX人財と関連部署間の連携」という3つの課題に直面したという。取り組み当初、横河電機の製品やサービスのブランド名は1,000件を越えていながらも、コーポレートサイトは更新がままならず「化石化」するなど、IT環境が行き届いていなかったがためにデータの一元管理も実現できていなかったそうだ。
そうした課題を受けて、同社がまず最初に取り組んだのは「断捨離」だ。ブランドネームはブランド・アーキテクチャにのっとりシンプルなネーミングに変更し、IT環境はエンタープライズ・アーキテクチャに基づいた整理整頓を実施。現在も一元化に向けて引き続き整備を進めている様子が語られた。もちろん、「化石化」したコーポレートサイトもフォーマットを一新するなど「テコ入れ」が行われたのだという。
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「RACI」を可視化せよ
そうして話題は横河電機が「現在」着手する取り組みの話に。同社が現在進行形で取り組んでいる事柄は大きく3つ――「複雑なプロセスの簡素化」「パーソナライズされたカタログ・製品/サービス・価格・納期」「顧客との継続的な関係構築」だ。中でも、阿部氏は「複雑なプロセスの簡素化」と「顧客との継続的な関係構築」の2点を解説した。
まず、プロセスの簡素化については、全体最適化を行うためのカスタマージャーニーを策定し、社内オペレーションの見える化に取り組んだ。これは、外周がカスタマージャーニー、内周が社内プロセス、のふたつのリングで構成されており、「カスタマージャーニーに準じたプロセス」を可視化している。
RACI――「R(Responsible:工程の実行責任者)」「A(Accountable:説明責任者)」「C(Consulted:協議先)」「I(Informed:報告先)」の定義、および役割と責任の明確化に着手したと阿部氏は付け加える。
「顧客との継続的な関係性」については、体験価値をコミュニティ価値向上のひとつの手段ととらえ、価値の最大化を目指す「コミュニティ・ドミナント・ロジック」の取り組みを行った。これはいわば「横河電機のファンをつくっていくこと」を指すのだという。
阿部氏は「CRMは大事だが、これだけでは十分とは言えない」と述べる。オペレーションの改善・効率化に有効ではあるものの、継続的な競争優位を担保するものではないためだ。また、「自社の手持ちのデータだけでは不十分」と続けながら、自社のカスタマーデータだけでなくパートナーや従業員のデータを共有する必要性を訴えるなど、変革で得た知見を視聴者に共有した。
同氏はデジタルセールス&マーケティングをこれから始める視聴者に向けて、「主幹部署を定める」「ツールはひとつにこだわらない」「CSではなくCX」をはじめとした11のポイントをシェアし、自身のパートを終えた。
「定量的な顧客の変化」を示して理解を得る
阿部氏による自社事例の解説を受けて、トレジャーデータ・小澤氏は複数の質問を投げかけた。そのうちのひとつが「2017年にデジタルマーケティングを開始した際、最初に着手したトピックとその理由」だ。この問いに対する阿部氏の回答は次のとおり。
「お客様とのタッチポイントを増やすうえではオンラインの活用が有効であると思い至ったものの、問い合わせ内容をはじめとする顧客情報が散在しており、いわば情報が断片化している状態でした。そこで、まずはデータを整理して一元化することから始めましたね」(阿部氏)
また、トップのコミットメントを得るうえで意識するべきポイントを尋ねられた際には、関連部署が多い場合、それぞれの部署にかかわる役員の協力が必要不可欠である点を前提として述べたうえで「顧客の変化を定量的に見せていきました」と語る場面も。また、まずは小さな成功事例を重ねていく進め方も有効であると解説した。小さくとも良い事例を積み上げて何度も有効性を証明することで、成果が認知されやすくなり、結果的にトップの協力を得やすくなる、と自身の経験を交えて説明を続ける。
「取り組まないことのリスクを数字で表し、同時に成果も見せていく――王道ではありますが、マーケティングのデータを信じてもらううえでは最善のやり方であると考えています」(阿部氏)
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データは一元管理してこそ効果を発揮する
セッションの後半、小澤氏はカスタマーデータプラットフォーム(以下、CDP)プロバイダとして事業を展開するトレジャーデータの歴史を振り返りながら、ポストコロナ時代に力を発揮するCDPの有用性を紹介した。 CDPは各事業部が持つさまざまなデータを活用し、トラッキングする顧客のリアルタイム行動データの集約を通じて、より精緻なパーソナライズを行うツールだ。
オンラインセールス時代の昨今、ビジネスフェーズごとにテクノロジーを介在させる組織は珍しくないものの、それらを統合した一元管理を実現できている企業は少ない。また、各顧客接点から収集されるデータがサイロ化してしまっている組織が多い点も阿部氏は課題として指摘する。
収集したデータを統合し、機械学習を通じて「活用可能」な状態に整えるCDPは、阿部氏から語られた営業活動におけるデータ活用課題に対する解決策として有効だ。
ひとつの事例として、小澤氏はパーソルプロセス&テクノロジーの活用事例を紹介した。サービスや質の標準化に対する課題を抱えた営業組織に対して、「営業プロセスの見直し」「営業パーソンのイネーブルメント」という2点にフォーカスして改革に取り組んだと語る。
なお、データに基づいた課題解決を実現していくうえで活用されたのは顧客との電話で交わされた「会話」だ。これらをテキストデータとして可視化することでプロセスの改善や営業スキル向上に役立てられたのだという。オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの比率を出し分け、それらの比率を微調整することで最適な比率を導き出したり、トップセールスのトークスクリプトをテキストマイニングにより分析し、若手営業の教育に活用したりするなど、「プロセス」と「人」の両軸の改善に取り組んだ。
セッションの終盤、デジタル時代に即したBtoBセールスのプロセスを最適化するうえでは、新しい取り組みは避けて通れない。そうした新たな一歩を踏み出すうえでは、散在しているデータを統合し、いつでも活用可能な状態に整えることこそが、ブレイクスルーの鍵になると小澤氏は改めて強調する。また、阿部氏も営業・マーケティング活動のデジタル化は「取り組まない、という選択肢はない」と述べたうえで「マーケティング・セールスのデジタル化は、とにかく早く対応するべきです」と視聴者を鼓舞し、セッションを締めくくった。
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