企業が抱える命題は「業績を上げること」
佐伯卓也 ふたつの手法は、決して二律背反で争っているわけではありません。状況に応じて、必要な箇所に即した方法を実践いただくことを推奨しています。
佐伯慎也 一例ですが、金融機関には対人で得られる「昔からのデータ」が多く蓄えられている一方で、ウェブなどの非対面チャネルから得られる「新しいデータ」も混在しています。昔からのデータが格納された大きな箱に新しいデータを入れるべきかを検討する際、コスト・スピード両方の観点から新旧データを同じ格納先に保管することは最善ではない、と判断され、結果的に2種類のデータがばらけたまま、というケースも珍しくありません。
――金融機関に限らず、営業組織におけるデータ活用には課題を感じている企業も多いように感じます。昨今の営業現場におけるデータ活用の現状をどのようにお考えですか。
佐伯慎也 我々が大きな課題であると感じているのは、データ活用が「手段」ではなく「目的」化してしまっている組織が多く見受けられる点です。企業が抱える命題は「業績を上げること」です。業績を高めていくうえで欠かせないのが、「営業組織が元気になって、明日の収益がハツラツと生まれていくこと」――これこそがデータ活用を推し進める目的であるべきであると我々は考えています。同時に、データの積み重なりによって、ポジティブな言葉に説得力を持たせていくことが「営業組織が元気になるデータ活用」の第一歩であると感じます。
裏付けとなるデータが存在しないコミュニケーションは、どうしても「空中戦」になりがちです。売上を達成していないメンバーに「大丈夫だよ」と投げかけるポジティブな言葉も、根拠となるデータがなければ地に足がつかない楽観的なメッセージに思えてしまいますよね。
また、どのような場面でデータを活用していくか、という視点では、「できなかった理由」を明らかにするのではなく「どうすればできるようになるのか」など、前向きなコミュニケーションの元でデータを用いることができると素敵ですよね。
佐伯卓也 仮に、支店ごとの数字がすべて可視化されるようになったとします。A支店の数値が昨週から3%減少していることが明らかになった際、A支店の支店長が「なんで数字が下がってるんだ、これでいいと思っているのか?」と根性論を持ち出したところで、誰もハッピーになりません。
そうではなくて、3%落ち込んだ要因は何か――人員配置の影響なのか、コロナ禍の影響なのか、はたまたそのほかに理由があるのか。あらゆる視点から多角的にデータを参照し、想定しうるさまざまな可能性に考えを巡らせることで、1人ひとりが具体的な対策を能動的に考えるマインドが組織に浸透する。これにより、営業パーソンのPDCAサイクルのスピードアップにつながり、根性論を展開するマネジメントから脱却することも可能であると考えています。
とくに、私たちの顧客である地方銀行が活気づくことは、地域全体の活性化に直結する、というのが我々の持論です。コロナ禍による未曽有の事態に苦慮する中小企業は星の数ほどいます。局地的に数字を追うのではなく、視野を広げて多角的に数字を把握することで、課題の全体像を俯瞰することができるようになると信じていますし、それを地方銀行の行員の皆さんに伝えたいです。営業が架電をする際、闇雲にリストの上から順番に電話をし続けるのではなく、「この架電は地域にとってどのようなメリットにつながっているのか」を見据えられることができれば、仕事を通してより多くの「ワクワク感」が得られるのではないかと思います。