入社直後から印刷業界に危機感 新規事業創出への道のり
――これまでのご経歴を教えてください。
現在、大洞印刷の専務取締役を務めています。私は大学卒業後、損害保険会社に入社しました。1年間働いたのち、父の体調不良をきっかけに、父が経営していた大洞印刷に入社し、現在に至ります。学生時代は一般教養としてプログラムを学びつつ、そういったアプリケーションの活用方法を考える、経営学部の情報管理学科に在籍していました。
大洞印刷に入社した当初は営業職として兄の下で働き、その後は工場の中を管理する生産管理の部署に異動しました。当時30人規模の小さな町工場のような会社だったこともあり、29歳の時には役員として経営に携わっていました。
――役員就任直後に社内変革に着手されたとうかがいました。きっかけを教えてください。
大学を卒業した翌年、Windows95がリリースされました。インターネットの爆発的な普及にともない、ペーパーレスに移行していく世間の流れも容易に想像ができたので、入社した時点で印刷業界に大きな危機感を感じていました。危機感が拭えないまま、生産管理として工場を管理する立場になったのですが……ひと言で言うなら現場は「ザ・昭和」でした(笑)。
リピートの仕事をいただくたびに、膨大な紙の資料の中から前の売上や受注状況などの関連情報をすべて手作業で探す。非常に効率が悪く、先ほど申し上げた事業の構造問題と、仕事の仕組みの問題、この両方に課題を感じていました。そんな中、父が一線を退き、兄とふたりで会社を運営することになりました。会社を変えていこう、と変革を決意したのはこのときですね。
――具体的にどういった施策を行ったのでしょうか。
最初に着手したのは、デジタルに置き換えられないものを作ることです。
手に取って楽しいもの、喜ばれるもの、具体的には文具やノベルティ、パッケージなど「リアルに存在することに価値があるもの」を作っていく方向へ舵を取っていきました。これが2004年です。こうして「ノベルティ・販促」事業をスタートすると同時に、当時の売上の大部分を占めていた伝票事業を徐々に縮小させていきました。ちなみに、15年ほど経過した現在の売上の割合は、前者が90%、後者が10%と、逆転しています。
当時、伝票事業の市場は非常に好調でした。しかし、伝票関係の仕事をしながらも、「好調だからといって、伝票事業にさらなる投資をして意味があるのだろうか」と危機感を抱いていました。この事業は縮小していくな、と早い段階で気がつくことが功を奏したように感じています。