インバウンドの「手法」ではなく「思想」をとらえることが大切
――「INBOUND 2020」は、まさに最高のユーザー体験を目指すイベントだと感じました。御社が提唱する「インバウンド思想」について、いま一度お聞かせいただけますでしょうか。
伊田 ここ数年でインバウンドの重要性に対する理解が進み、「コンテンツは大事だよね」という声をよく聞くようになりました。一方、インバウンドの狭義の解釈が増えてしまっているようにも思います。私たち自身も「インバウンドなマーケティング・セールスとは何か」とたびたび議論していますが、その際に大事にしているのが、手法ではなく思想をとらえることです。
ブログ記事を作成し、記事に設置した資料をダウンロードしてくれた人に電話をするのがインバウンドでしょうと言われることもありますが、それはひとつの手法にすぎません。大事なのは、見込み客が何に悩んでいて、なぜその資料やコンテンツをダウンロードしたのかに考えを巡らせることです。つまり、相手のメールアドレスやお名前などの情報をいただくことよりも、まずはこちらから有益な情報を提供する先に「Give」する思想が鍵になると考えています。顧客や見込み客の個人情報を集めるためだけにコンテンツをつくったのであれば、それはアウトバウンドです。一方、顧客の課題を先回りして考え、その悩みを解決したいという思いでコンテンツをつくれば、インバウンドの思想を実践できていると言えるのではないでしょうか。
――御社自身がインバウンドの定義を模索し、アップデートし続けているのですね。
伊田 はい。営業やマーケティング、カスタマーサービスなどのあらゆる領域について、何がインバウンドで何がアウトバウンドかを考え続けています。先日は全社でオフサイトミーティングを実施したのですが、部門を超えてインバウンドの定義を議論したり、顧客との会話を想定して即興の寸劇をつくったりもしました。仕組みの前に思想を共有することが大事だとわかっているから、そこまで徹底するのです。
豊倉 伊田の言うとおり、インバウンドとは何かを私たち自身が常に考え続けています。たとえば普段私が行っている既存顧客に製品のアップデート情報を伝えるというアクションひとつをとっても、必要な情報は対峙するお客様の状態によって変わってきます。「これが正解」だと答えを見つけた気になって安心してはいけないのが、インバウンドの考え方なのです。
――今回発表された「Marketing Hub」の新たな課金モデルは、まさにインバウンドの思想を体現していると思います。
伊田 今回のアップデートは「マーケティング活動の対象としているコンタクトのみを課金対象とする」というもので、これもお客様の課題を解決するためには自然な選択でした。多くの企業が気づいていると思うのですが、CRMに格納しているコンタクトの総数と、マーケティングの対象にすべきコンタクトの数は、一般的には後者のほうが少ないですよね。一方これまでのマーケティングプラットフォームは、保存するコンタクトの総数に応じた課金が一般的で、このギャップに対応できる仕組みになっていませんでした。お客様目線でその部分を見直したのが、今回のアップデートの背景です。
お客様目線に立った課金体系の見直しはこれまでも意識していましたが、今回は特に大きな、そしてユーザーフレンドリーな決断でした。製品の価格や仕様を変更するときは、変更後にどう使っていくかをお客様側に判断いただける仕組みにしたいといつも考えていますし、私も豊倉も課金体系のせいで十分に価値を提供できてないのではないかともどかしさも感じていたため、待望のアップデートでした。
機能性と利便性の両立で、「意識しないでできること」を増やす
――「INBOUND 2020」で発表されたアップデートの中でも、「Sales Hub Enterprise」の機能拡張は特にインパクトがありました。営業・マーケティング組織に便利な機能のひとつである「カスタムオブジェクト」の追加について教えてください。
豊倉 「カスタムオブジェクト」は、これまでの規定オブジェクトで分類できなかったデータに対し、新規オブジェクトを追加することで、自社の事業特性に応じてデータ構造を柔軟に設計できる機能です。たとえば不動産業であれば「物件」、広告業であれば「媒体」、代理店ビジネスであれば「代理店」をカスタムオブジェクトに設定し、データを整理したりワークフローを作成したりできるようになります。この機能で契約全体や導入支援を管理すれば、マーケティングからセールス、カスタマーサクセスの工程までシームレスかつ細やかに対応することが可能です。
伊田 ここ数年はセールスのあり方も変化し、前後の部門と緊密に連携しなければならないというニーズも年々増えています。営業担当者が新規案件を取りたいと思ったとき、「このお客様は過去にこの資料をダウンロードしているな」と把握することや、それを踏まえた的確なコミュニケーションをとることは、もはや不可欠といっても過言ではありません。これからはセールス、マーケティング、カスタマーサービス/サポートが別々の情報を見ながらそれぞれ仕事を進める、なんてことはどんどん減っていくべきだと思います。
私たち自身もこれまで既存のオブジェクトだけでは十分ではないと考え、「サブスクリプション/契約」を管理するオブジェクトや、ユーザーの活用状況を把握するヘルスチェックやアラートのためのオブジェクトを自社開発し、HubSpotを使っていました。柔軟なオブジェクト構造がビジネスによっては必要なことを実感していた我々にとってはもちろん、顧客からも多く要望が寄せられていた待望の機能が、カスタムオブジェクトなのです。
BtoCの活用事例としては世田谷百貨店さんが、この機能を使ってイベント管理を効率化されています。世田谷百貨店さんは地域コミュニティの活性化を目的としているカフェで、定期的に交流イベントを開催し、参加者をHubSpot上で管理していました。これまでは誰がどのイベントに参加したのかを把握するのが難しく、親が申し込んで子供が参加するようなケースでも、家族同士の情報を紐づけて管理するのが難しいという課題を抱えていました。
カスタムオブジェクトを活用することでこの課題を解決し、効率的かつ正確にイベント参加者の管理を実現されています。こうした使い方は、塾や学校法人など「イベントへの申込者と実際の参加者が異なる」というケースが多い業界にも応用できそうです。なお、BtoBであれば、不動産業界の物件管理や人材業界の求職者管理など、データが膨大かつ複数拠点で同時に運用しなければいけない場合にカスタムオブジェクトが活きてくると思います。
――セールスアナリティクス・フォーキャスト機能についてはいかがでしょうか。
伊田 「セールスアナリティクス」は、各営業担当者のパフォーマンスを可視化してレポートを作成することによって、目標達成に向けた適切なチーム管理を支援する機能です。新規見込み客を割り当てられてから最初に連絡するまでにかかった時間や、取引の各ステージにどのくらいの時間を費やしているか、打ち合わせのあとにどのような変化があったかを可視化することで、リーダーがどこにもっと時間をかけるべきか助言できるようになります。
また「フォーキャスト」は、さまざまな切り口でパイプラインの状況を一覧表示できる機能です。各担当者がどのくらい売上目標に対して達成しているかがひとめでわかり、マネージャーごと、事業部ごと、対象期間など、数字の読みを一元的に見ることができます。
実はこれまでもメンバーごとの予実管理や電話の結果をHubSpot上で把握することはできたのですが、カスタマイズが必要でした。今回の機能拡張は、機能性と利便性を両立させ、「やりたいことをワンタッチでできるようになった」点に大きな価値があると考えています。
たとえば、毎週月曜日に数字の読みを出す営業組織は非常に多いと思います。そしてほとんどの営業担当者は、その資料を作成するために通常の業務とは別で追加の時間を割いているはずです。日々やっていることを伝えるだけなのに新たに時間を割くのは、もったいないことです。「CRMを更新して、読みも出しなさい」ではなく、営業活動の過程で必要な情報だから自然とCRMに入れる、それが自動的に可視化されてレポートになるというように、意識しないでできることを増やしていきたいです。
――もうひとつの機能拡張、「連携型CPQ」についてもお伺いします。
伊田 「連携型CPQ」は、美しいデザインの営業資料や見積書を簡単に作成でき、会計ソフトとの連携によってHubSpot上から直接請求書の作成が可能になる機能です。このアップデートにはふたつのポイントがあります。
ひとつは、お金に関わる作業の重要性です。営業であれば誰でも一度くらいは見積書の内容を間違えた経験があると思いますが、お金が関わる作業は何度経験しても緊張感を伴うものです。営業活動において、お客様からお金をいただくのも重要な仕事です。ここをミスなく、かつ各社の様式でできることはとても大事だと考えています。
ふたつめは、外部のプラットフォームとの連携強化です。見積書や請求書の発行、入金確認、売上計上などは銀行口座と連携する会計ソフトの領域で、すでに多くのユーザーを抱えたプレイヤーが存在しています。それであれば、HubSpotとしては、今はオールインワンにこだわるよりも、連携を強化したほうが良いと判断しました。連携型CPQにも、お客様の活動をより効率的に快適にするために、さまざまなツールとつなげられるプラットフォームとして柔軟に対応していくというHubSpotの思想が反映されています。
お客様の変化に目を向ける 世の中に合わせ、HubSpotも変わり続ける
――パワーアップした製品とともに、これからどんな価値を日本市場に提供していきたいと考えていますか。
伊田 強くお伝えしたいのは「会社が成長したからHubSpotから卒業だね」と考える必要はない、ということです。私たちは創業時より中小企業が使うソフトウェアとしてサービスを提供し、一貫して「お客様の事業が成長すること」を目指してきました。その成長にHubSpotが追いつけずパワー不足になってしまうとしたら、これは悲しいことです。私たち自身が成長を続けることで、お客様の組織の複雑化や細分化に寄りそっていきたいと考えています。
そのために、お客様がこれまでマーケティングのために保持していたデータベースを、営業やサービス部門ともさらに一元的に管理できるプラットフォームとしてさらに進化させていきたいと考えています。他のプラットフォームとの連携を含め、より容易により多くの情報を一元管理できるプラットフォームとして進化し、インバウンドの思想で売り手と買い手、双方を幸せにするセールス・マーケティング活動を世の中に増やしていきます。
豊倉 HubSpotは変化に対応し続けてきたプラットフォームです。デジタルによって買い手の情報収集や購買行動が変わり、営業やマーケティング、カスタマーサービス・サポートのあり方も変わる中で、プロダクトもどう変化していくべきかを常に考えています。HubSpotもその変化に対応・先行すべく変わり続けていくことはお約束できます。
――現在は、開発のロードマップも公開されていますよね。
豊倉 これまでHubSpotは、将来の機能拡充に関する情報発信が限定的でした。しかしHubSpotのようなプラットフォームを導入するとき、会社の規模によっては検討に数年かけることもありますよね。今後は「将来こういう機能を追加していく予定です」とロードマップを積極的に発信することによって、長いスパンで検討するお客様にとって有益な検討材料となる情報を届けていきたいです。
このような視点を持つようになったのも、大手企業にも導入を検討していただく機会が増えてきたからだと思います。「来年の予算で導入プロジェクトが進む」とか「フェーズ3ではこの機能が欲しい」といった検討方法やタイムラインもあると思います。弊社もロードマップを出すことで、その情報収集ニーズに少しでも寄り添いたいと思っています。
こちらのページでも公開しているのですが、サブスクリプションビジネスをサポートできる機能の強化を考えています。納品して売上が立つというビジネスモデルだけでなく、課金モデルの事業を運営するユーザーでもさらに快適に使えるようにデータポイントを追加したり、見積もり機能を強化したりするイメージです。
伊田 さらに、営業担当者が次に何をすればいいか? を先回りして提供するガイド機能の強化も意識しています。ガイド機能を考えるときも「あなたは営業としてこうしなさい」ではなく、「買い手の興味関心がこのようになっているからこうしなさい」という、インバウンドの思想のコーチングを目指します。
――最後に、未曾有の事態のなか、必死に変化しようとしている営業組織にあらためてメッセージをいただけますか。
伊田 昨年まではオリンピックを見据えて「首都圏の働き方が出社を前提としないものに変わる」と話していましたが、奇しくも別の理由でそれが現実のものとなりました。コロナ禍による変化のいくつかは一時的な現象と捉えられる一方で、不可逆的な変化も出てきています。たとえばBtoBのビジネスシーンではあまり一般的ではなかったウェビナーが、リモートワークの普及によって積極的に活用されるようになりました。状況が落ち着けばウェビナーは廃れるかというと、多分違いますよね。運営者、参加者共にウェビナーの利便性を実感したと思うので、今後も継続されると思います。
セールスにおいてもさまざまなことが変わるでしょう。しかしそのときに「自分がリモートワークになったから営業活動どうしよう」ではなく「お客様がリモートワークになったからどう営業活動をしていこう」と考え、そこに対応するマーケティングやセールスを行うためのプラットフォームとはどういうものかをとらえる必要があると思います。そのときにHubSpotを選んでいただけるなら、とても嬉しいです。
――インバウンドの思想を追求し続ける姿勢、進化し続けるプロダクトのどちらにも今後も注目していきたいです。ありがとうございました!
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