経営企画から営業へ、そしてプロセス全体のマネジメントに
――これまでの経歴とユーザベースでの役割について教えてください。
前職はソニーで、経営企画と新規事業開発に従事していました。当時から競合分析や事業計画策定時にSPEEDAを使い、良いプロダクトだと感じていたんですね。新規事業開発におけるフェーズがひと段落氏、当時の社長(共同創業者・現経営顧問の新野良介氏)と食事をする機会があり、ビジョン、経営手法、組織体制に共感したのが入社したきっかけです。2017年の2月にジョインしました。
ユーザベースに入社した最初の年は、ソニー時代の私のように、大企業の経営企画部門にいる人たちをターゲットペルソナにする営業を経験しました。SPEEDAを使い、ターゲット企業の財務諸表からその企業の課題を自分なりに分析し「私ならあなたの事業部にこんな方向性を示します」と提案することを実践したところ、評価してくれる人が増え、結果を出せるようになったのです。
2年めからは、マーケティングとインサイドセールスのマネジメントに挑戦し、一気に7人のチームをまとめることになりました。自分なりに考えた方法でチームパフォーマンスを改善し、徐々に結果に現れ始めました。そしてSPEEDA事業のセールス統括だった者がCOOに昇格することを機に、フィールドセールスも合わせて見るようになり、現在は30人のマネジメントを担当しています。
――いまは営業プロセス全体を見ているのですね。組織横断でMAを活用していると伺っています。「Marketo Engage」を導入したきっかけは何だったのでしょうか。
MAの導入自体は2016年と聞いています。当時の主な目的はマーケターの生産性を高めることにありました。組織横断で本格的に活用するようになったのは、私がチームの立て直しを行ったあとです。組織を見始めたとき、インサイドセールスチームはできたばかりでしたし、フィールドセールスとの間に情報の非対称性がありました。
自分も営業をしていたのでわかるのですが、フィールドセールスは受注できなかった案件について自身に由来した原因は共有せずにインサイドセールスに対してのフィードバックを行ってしまう傾向にありました。一方で、フィールドセールスはインサイドセールスのメモや、マーケティングチャネルを観たうえで商談をする。逆の情報フローがなく、リードを軸にした組織の連携というものが、まだスムースに行えていなかったのです。CRMへの活動記録もまだ十分ではなく、プロセスの可視化にも問題があったので、まずは組織を「ワンチーム」にすることを意識しました。
――プロセスの可視化を進めていくときには反発はありましたか。
ありました。私も自身の営業スタイルを確立しようと思った際、売れない要因が何かわからず、そもそも何を可視化すべきかもわかりませんでした。そこで自身で毎商談を振り返るための47項目のチェックリストを作成し、自己の商談レベルを日々チェックし営業力を高めていました。そのプロセスのなかで、自己課題を腹落ちさせることができたので、可視化され他者からフィードバッグが行われる環境になることにフィールドセールスが反発する気持ちも十分にわかりました。ですが、当時のユーザベースは組織として再現性のある仕組みの整備が求められるフェーズに来ていたのです。チームメンバーとしっかりと話し、結果が出やすいところからプロセスの可視化を始めました。
Marketo Sales Connectを導入した理由
――組織としての体制が整い、プロセスの連携ができるようになったあと、Marketo Sales Connect(MSC)のパイロットユーザーになったと聞いています。MAの次に営業向けのMAとも言えるMSCを導入したのはなぜですか。
多くのSaaSビジネスでは、インサイドセールスとフィールドセールスの組織の規模が大きくなると、ひとりあたりの生産性が低下する傾向があります。当時の私たちもその時期に来ていました。そんなときは、デジタルツールを使うことと組織体制を変えることの両方をやるべきだと考えています。
営業活動の多くの時間はお客様へメールを送ることに使われています。メールでのフォローが丁寧にできる担当者と、そうではない担当者に差があり、機会損失が発生していたんです。また、セールス・イネーブルメントの組織を新しくつくっていくこともあり、効果的な営業ノウハウを明文化・可視化して共有できるものがないかと考えていた時期でもありました。積極的に探したわけではなかったのですが、Gmailの画面上で使えて社内メンバーのメール活動を可視化できるMSCは抱えていた問題の解決に適していたので導入を決めました。
――MSCを導入してどんな成果を得たのでしょうか。定量的・定性的の両方の観点で教えてください。
定量的な効果が顕著だったのはインサイドセールスですね。MSCの利用で、毎日のメール送信量が明らかに増加しました。インサイドセールスは全員がMSCを使っていますし、チームメンバーの7割強がテンプレート機能というものを活用しています。テンプレートを使えばより素早くメール送信することが可能になり、そのうえで各担当者がお客様ごとに文面の一部をパーソナライズすることもできます。スピーディーに、自分のニーズ合ったメールを受けとることができるのでお客様の反応も早くなりました。営業の生産性があがり、お客様にとってもハッピーな状態をつくることができたのです。
定性的な効果はふたつあります。ひとつは、インサイドセールスのチームメンバーの、マーケティングのナーチャリングプログラムに対する感度が上がったことです。インサイドセールスが立ち上がって年月が経ち、既存のお客様のリサイクルリードが増えるにつれ、インサイドセールスはマーケティングにもっとリードを掘り起こしてほしいと思うようになります。
マーケティングとしては、過剰なメール配信はお客様に嫌がられることもありますし、慎重に施策を行っているわけですが、インサイドセールスはいままでそこが見えていませんでした。MSCはMarketo Engageとも連携しているので、インサイドセールスはMA上で顧客と自社がどういうメールコミュニケーションをとってきたか理解したうえでフォローを行うことができるようになったのです。ツールを通して、組織連携・理解が深まっている好例です。
もうひとつは、フィールドセールスやカスタマーサクセスをサポートする契約管理チームに変化が現れたことです。カスタマーサクセスは容易に想像できると思うので、ここでは契約サポートチームの変化について紹介しましょう。契約サポートチームの業務はルーチンワークが中心ですが、私たちはバックオフィス部門でも高いビジョンを持ち、創造性を発揮してもらいたいと考えています。
MSCでお客様の反応が可視化されるということは、メールで請求書を送ったあとのお客様の反応を「科学する」ことも可能になるということです。請求書を受けとった人がどう思うかも企業間取引においては顧客体験の一部だと考えることができます。顧客をハッピーにするためにはすべての接点において良い体験をしてもらいたいですし、社内的にも請求業務を行うチームがプロフィットセンターへと変化できると思います。
――本丸のフィールドセールスでの活用成果はいかがですか。
やはりお客様の反応を可視化できることが大きいと思います。お客様がメールを読んでくれるかを左右する要因は4つあります。
- お客様の属性:メールを確認する時間があるか。たとえば繁忙期で忙しくないかなど
- お客様とのエンゲージメント:商談が盛り上がり、お客様とつながることができたか
- タイミング:ホットなうちにメールを送っているか
- コンテンツ:メールの内容は適切か
最初のひとつは固有事象も多くあり、もっと多くのデータがないと要因分析は難しいのですが、残りの3つはMSCの中で「科学する」データが揃っています。たとえば、メールテンプレートの内容を固定し、送るタイミングをA/Bテストで検証したり、タイミングと内容を固定し、送る相手を変えてみたりすることができます。インサイドセールスと比べると、フィールドセールスが送るメールの数は減りますが、多面的にお客様を見るデータがあるわけです。送受信したメールはすべて可視化されているため、私と私の下にいる4人のマネージャーが部下の指導にも使うこともできます。
ツール導入で組織の課題を棚卸しできる
――そもそも西川さんのチームでは導入するテクノロジーをどんな基準で選んでいますか。選んだテクノロジーを使い続けるための体制に求められること、そしてそのために重視していることは何でしょうか。
「ROIを高められるシナリオがあるか」「ツールから私たち自身がどれだけ学べるか」「取り組みをドライブする意思がある人間がいるか」の3つです。この中では3点めがもっとも重要です。MSC導入については、私ではなく、インサイドセールスとフィールドセールスの両方を経験したことがある人物が推進役になりました。活用時の戦略では、1年から2年のスパンで見ることを重視しています。というのも、ツールの導入で、これまでのワークスタイルを新しいものに変え、定着させるのにある程度の時間が必要になるからです。
――テクノロジー活用は企業やチームにどんな効果をもたらすと思いますか。
ツールを導入すると、ツール独自の切り口で組織に向き合うことになるので、組織間の課題の棚卸しができると考えています。MSCの場合はツールを活用することになるマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスまでをワンチームにすることができました。
長期的に見ると、テクノロジーは企業活動の無駄を排除することに役立ちます。人間でなければできない業務に集中できる仕組みを自分たちでつくるか、流れに身を任せるかだとすると、選択するのは前者です。他社が成功するのを見てからではなく、自分たちでツールの価値を判断し、実行することが組織の戦略上重要だと思います。
――テクノロジーで「量」はそれなりに担保されると考えられますが、営業の質を高めることにテクノロジーはどう活用すればいいのでしょうか。
MSCに関しては、最初は難しいこと抜きでデータを増やすことです。分析やテストをするにも母数がなければ判断ができません。最低でもメールを1,000通ぐらい送ったころから傾向が見えてくるので、それまでは焦らないで我慢することですね。人数が多ければ多いほど、母数を早く集めることができます。たとえば、私たちの組織にインサイドセールスは7人います。毎日メールを平均20通は送るとして、1ヵ月で約3,000通の母数を集められます。質は量のあとからついてきます。
――最後にこれからMSCに期待すること、そしてユーザベースとしてチャレンジしたいことについて教えてください。
個人を識別できる情報を排除し、データを予測に活用できると面白いことができると思います。たとえば、Gmailがサジェストワードを表示するように、お客様の商談ステージに応じてメールのテンプレートを提案してくれれば、効率的にコミュニケーションができるようになると思います。
ユーザベースとしてのチャレンジは、SPEEDAで「経済情報で、世界を変える」を実践することですね。経済情報にワクワクする人材になり、お客様に向き合ってほしいと思います。SPEEDAには、その会社の成功を自分なりに成功を語れるデータが揃っていますから、プロダクトを活用した時にお客様がどう成功するか、その世界観にワクワクできる人材が揃った組織にしたいです。また、そんな社内の雰囲気がお客様に伝播すればうれしいです。
入口の収益を作ることに加えて、出口のお金をどう使うかを科学して、プロ集団としてお客様とともに良い経済をつくることを進めていきます。
――ありがとうございました!