新規開拓した企業の継続が大きな課題 セラクが挑んだABM戦略
独自の法人企業データベースを構築・保有するユーソナー。820万拠点の法人企業データベース(LBC)を基に、データ活用やマーケティング活動の推進支援を行っている。データベースの内訳は社数にして685万社、うち商業登記企業が460万社に上り、個人商店や個人事業主といった商業登記がされていない会社も含めて日本企業を網羅している。
このデータベースを活用し、ユーソナーではさまざまなツールを提供しているという。そのひとつとして、湯浅氏はSFA/CRM強化および新規顧客のターゲティングを行う「サイドソナー」を挙げた。同ツールはユーソナーが保有する法人企業データベースとSalesforceなどのSFAを連携することで、同企業・グループ内の各拠点と自社の取引状況、SFAへの登録状況といった「営業ステータス」をひと目で確認できるという。
ほかにも「ライブアクセス」機能では、自社のコーポレートサイトにタグを埋め込むだけで、どの会社が、いつ、何のページを見ているのか検知できる。興味関心を検知して積極的にアプローチすることで、成果につながる情報提供が可能になるというわけだ。さらにAIリスト「Rating 2.0」では、既存顧客を教師データとして、似た属性を持つ企業を「ターゲットリスト」として抽出できるという。
本セッションの主題であるABM(Account-Based Marketing)は自社のターゲットを明確にし、特定の企業へ組織的にアプローチする戦略であり、SaaS業界において昔から取り組まれてきた。さらに「近年は注目度が増しており、組織規模を問わず導入企業が増えてきた」と湯浅氏。今回、その取り組みについて語るのが、セラクCCCの安部氏だ。同社はクラウドシステムの定着・活用を支援しており、とくにSalesforce導入・活用支援については10年間以上に渡ってノウハウを蓄積してきた。グループ会社であるセラクのABM戦略をどのように推進してきたか、その道のりを振り返った。
デジタルインテグレーターとして事業を展開するセラクだが、自社のABMを推進する中でいくつかの課題を抱えていた。ひとつは、「狙い撃ち」するターゲットを選定するには企業データが不十分だったこと。ふたつめは、すでに接点のある顧客の情報管理のみを行っていたSalesforceを、顧客開拓にも活用したいと考えていたこと。そして3つめが、新規顧客開拓における営業の質の向上だ。とくに営業の質では「改善の余地が多分にあった」と安部氏。同社は直近5年間で500社と新規取引があったものの、その後の継続率が課題であった。
推測される原因として、安部氏は「個々人の過去のナレッジや経験に基づくターゲットリスト選定」「営業社員の新規開拓の評価制度が曖昧」というマインド・ルールの課題、「取引が一部の部署に留まり、他部署へ深耕できていない」「以前のシステムでは社内でもごく一部のメンバーしかデータの閲覧・活用ができなかった」というシステムの課題を提示した。
前述の課題のうち、本セッションでは、後者の「システムに関する課題をいかにして乗り越えたか」が紹介された。
決め手は「網羅性」と「アプローチの初速向上」
新規開拓営業の質・精度を高めるため、ABM推進のプロジェクトを開始したセラク。その際のデータ利用のポイントについて、安部氏は次の4点をあげた。
- 外部の企業データ提供サービスとSFAの連携
- SFA内の自社の顧客データに外部の最新企業データを付加
- SFA内のデータがクレンジング・名寄せされて一元化される
- 営業担当者が得た情報を管理し、SFAへ連携する
安部氏は「新規営業の『狙い撃ち』リストをつくるうえで、質の高いデータを保持・更新し続けることが必須」と強調。しかし従来は企業情報を営業担当者が手入力することで、未入力や入力ミス、重複登録などのトラブルが生じていた。ターゲットを明確にできない限り、PDCAを回して営業戦略を検証することは不可能と考え、正確性・網羅性の高いユーソナーのデータベースを導入したと振り返った。
また、全国に事業所があるセラクにとって、ユーソナーのデータベースが全国の企業情報を網羅していることも魅力的だった。「企業単位はもちろん、支店や事業所など拠点単位でも網羅されていることが、営業活動において有効に働いた」と安部氏は言う。
ユーソナーの導入以前、セラクではMAツール「Account Engagement」、SFA/CRM「Salesforce」、BIツール「Tableau」などを活用していたが、唯一テクノロジーとして不足していたのが「ABM」だった。現在は全体のシステム構成の中で、新規リードの最初の接点部分にユーソナー製品を位置づけ、事業部・支社含めて10を超える部門、100名ほどの営業担当者が活用している。
ユーソナー製品の主な活用用途は「(1)新規開拓営業」と「(2)一部の部署のみ接点がある企業への深掘り営業」のふたつだと安部氏。とくにリプレイスにあたって経営層を説得するため、最短で投資を回収することを意図して(2)に注力したと言う。
「たとえば勘の良い営業なら、横浜支店に取引がある顧客企業について、名古屋にも拠点があるのではないかと調べるでしょう。しかしユーソナーのツールを使えば、すでに取引があるかどうか、当該の企業が自分の担当エリアに拠点を置いているか等がすぐにわかります。そのため営業アプローチの初速が上がり、成果が出ているのです」(安部氏)
さらに新規開拓ターゲットの決定では「Rating2.0」へ過去3年間の企業の取引実績を取り込み、アプローチの優先順位づけを行った。組織規模などのような単純なデータではなく、自社ウェブサイトへの来訪履歴や過去の接点など行動の履歴を踏まえてスコアリングを行い、上から順にアプローチしていく。加えてアウトバウンド活動では、自社ウェブサイトにリアルタイムでアクセスした顧客企業がバイネームでわかる「ライブアクセス」機能を活用しているという。
導入から1年未満で「ROI目標対比180%超」を達成
こうしたSalesforceとユーソナー製品の連携によって、ABMの推進においてどのような成果が得られたのか。安部氏は次の4つを成果として示した。
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コスト4割減
個別に導入していた企業データベースと名刺管理ツールをユーソナー製品に一元化したことで、コストを4割削減できた
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ROI目標対比180%を達成
「初年度で投資を回収する」という目標に対して、導入から1年足らずでROI目標対比180%超を達成するなどABM戦略が一気に加速した
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営業の民主化
営業担当者自身がデータに基づくターゲットの選定・リスト作成を実行できるようになり、自律的にリストを作成・活用する文化が生まれた
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デジタルセールスの文化
データ活用によるリスト作成から発展し、デジタルセールスを進める営業カルチャーが根づいてきた
「こうした成果が出せたのは、当社との相性が良かったとも言える」と安部氏。成果が出た要因として、同社の商材は数百万~数千万と単価が高いためLTVに直結しやすく、効果が出やすかったこと、Salesforceの導入支援を通して社内に営業系システムの導入・活用体制と推進方法のメソッドがあったことを挙げた。とはいえ、決して余力があったわけではないという。「人員の配置を含め、システムの導入・活用体制の構築に会社として投資できたことが非常に大きかった」と強調した。
さらに安部氏は「実は、導入初期段階は少し右往左往していた」と明かす。システム導入プロジェクトはセラクの経営戦略部門を旗振り役に、営業シニアマネージャーをアサインして始動した。しかし経営戦略部門には営業現場への高い解像度が、営業シニアマネージャー層にはシステムに対する知識が不足していたという。そのため「何のためにどのようなかたちで使うか」が明示されないままシステムをリリースし、数日の間、誰も使わない状態が生じてしまったのだ。
この反省を活かし、現在は経営戦略部門に加え、より営業現場に近い横断部署である営業企画部門、営業系システムやSalesforceを得意とするセラクCCCが参画し、プロジェクトを再スタートした。さらにシステムを前向きに使ってくれそうな若手の営業担当者をプロジェクトメンバーとして招集し、目的やゴールを共有して進めることで成果につなげていった。
セラクがぶつかった壁について、「システム解約の理由としてよく起こること」と湯浅氏。それらの課題を乗り越えて同社が成果を創出したポイントとして、部署横断でプロジェクト化することにより目的意識を共有したこと、DXに関心のある若手営業担当からスモールサクセスを積み上げたのち全社展開していったことを挙げた。
「この2点は、他社においても再現が可能と言えるのではないでしょうか」(湯浅氏)
取引先企業が硬直化しているなら、ABMへ挑戦を
ここで湯浅氏は、ABMに取り組むべき企業の特徴をたずねた。この問いに対して安部氏は「扱う商材の単価が高いなど大枠の条件はある」と断りつつ、数年前と比較して取引企業が変わらず、硬直化している企業にはABMを勧めたいと回答。企業として永続的に成長していくためにも、新規顧客の開拓や既存顧客の深掘りに課題があるならば、ABMに取り組むべきだと語った。
続けて「営業系システムを定着させるためのボトルネックと解決策とは何か」と湯浅氏。安部氏は、業務系システムと異なり必ず使わなければならないものではないため、「使うと効果が上がる」という印象形成は必要と答えた。さらに安部氏は、定着しない理由としてしばしば挙がる「使いにくい」「使い方がわからない」という声の裏側には「使いたくない」というネガティブな気持ちが隠れていることが多いと明かす。ネガティブな感情を払拭するためには使う理由や目的を丁寧に定め、今ある業務の中にルールとして適用することが重要だと強調した。
この点を曖昧にしたまま成功することはまずあり得ないものの、自社ですべて解決するのはなかなか難しいという。セラクCCCがもつSFAやABMのベストプラクティスを提供することで、ABMの実践に悩む企業を支援できるのではないかと今後の展望を語った。
最後は、安部氏からABMの推進担当者へのメッセージでセッションが締めくくられた。
「ABMという概念は日本ではいまだ十分に浸透していないと感じています。営業戦略からシステムを使った改革まで取り組んでいる企業でも、保持するデータはまだまだ少ないのではないでしょうか。しかし外部のプロフェッショナルとパートナーシップを結ぶことで、成果を出せる可能性は十分あります。ぜひ抱え込みすぎずに相談してみてください」(安部氏)