連載第1回の記事では、セールス・イネーブルメントの必要性について、営業手法が科学されてきた歴史に触れながら解説しました。第2回となる本稿では、定義や全体像など「セールス・イネーブルメントの基本」を押さえていきます。
1. セールス・イネーブルメントとは?
1-1. 定義と「再現性」の重要性
日本の多くの企業では、長らく経験や勘に頼った営業活動や、気合と根性で足で稼ぐ営業活動が行われており、属人的でした。しかし、従来の方法では立ち行かなくなってきた今、「セールス・イネーブルメント」が日本でも注目されています。
セールス・イネーブルメントは「Sales=営業」と「Enablement=できるようにする」という言葉を組み合わせた造語で、「再現性をもって営業組織を強化する方法論」のことです。
ここで言う「再現性」とは、「特定の手法で特定の性質を持つ結果が出ること」「その結果の一致度が近い」ことを指しています。
売上を上げ続けている強い営業組織には「再現性」があります。組織で最適化された営業プロセスの型やKPI、ルールなどが定められており、どの営業も一定の成果を上げることができる仕組みが構築されています。そのため、営業人員を採用すればするほど売上を増加させることができます。このような営業組織では能力要件が高い超優秀層に頼らなくて良いため、採用コストは低い傾向があります。
企業が中長期的に健全な成長を遂げていくためには、営業組織の「再現性」を高めることが重要なのです。
1-2. メカニズム
セールス・イネーブルメントに取り組もうと考えた際、何からどのような順番で取り組めば良いか悩む方も多いかと思います。ここでは、SALESCOREが考えるセールス・イネーブルメントの基本メカニズムとステップについて解説していきます。
営業組織の誰もが再現性を持って売れるようにするには、「エッセンスの特定」「エッセンスの仕組み化」「仕組みの展開」の3ステップを踏む必要があります。
まずは、エッセンスを特定します。エッセンスとは、「これをすれば売上が上がる」という要素のことです。
データを「収集」して「分析」し、効果を「計測」するというサイクルを回しながら自社に適した良質なエッセンスを特定していきます。
具体的には、まず顧客情報や営業活動のデータを収集し、どの営業担当の、どの数値が良いかを可視化してKnow Whoを明らかにします。
たとえば、営業活動のデータから「顧客からの紹介経由での商談や売上が多い営業担当」が存在することがわかったら、それがなぜなのかを分析していきます。具体的には、その営業担当に直接「なぜ紹介から商談が多いのか?」「どのようなトークで紹介打診をしているのか?」など、数値が良い理由や実行していることを具体的にヒアリングし、リストアップします。
そして、データやヒアリングから明らかになったエッセンスの中から、「ビジネスインパクトが大きく、コストパフォーマンスの良いもの」を選び、仕組み化します。
エッセンスは、上の図のように「抽象度」と「応用範囲」で分類することができます。たとえば、紹介打診のトークは真似をすれば誰でもすぐにできるようになりますが、紹介打診以外の状況には応用することができません。そのため抽象度が低く、応用範囲が狭いエッセンスに分類されます。
一方、組織文化は抽象度が高く、応用範囲が広いエッセンスです。たとえば、再現性のある強い営業組織には「1時間あたりに生み出さなければいけない成果を常に意識する」という組織文化がありますが、このような組織文化は浸透しづらい反面、さまざまな場面において応用することができます。営業シーンでは1アポの質を上げるための動きをするようになりますし、社内においても無駄なミーティングや提案書の作成はしなくなるでしょう。
このような各エッセンスが持つ性質を理解したうえで、仕組み化する方法を検討します。トークであれば、各シーンごとのスクリプトをまとめたプレイブックが効果的です。また、組織文化であれば、行動指針を基にした評価制度を導入するといった施策が有効です。
最後に、全員が実行できるよう、仕組みを展開します。
組織全体でセールス・イネーブルメントに取り組み、価値のある施策とするためには、まずは何のために行うのか目的を全員と共有することが大切です。
そのうえで、営業マネージャーはアクションを実行できているメンバーがいたら褒めたり、良い事例があればほかのメンバーにも共有したりするなど、全員が取り組みやすい雰囲気づくりを心がけるとともに、KPIを置いて数字を追うなど、メンバー全員が仕組みに則ったアクションを実行することができているか確認しましょう。
経営陣は営業組織に任せきりではいけません。ビジョン・ロードマップを策定してそのとおりに進捗しているか確認したり、マネージャーやメンバーの取り組みを評価したりするなど、経営陣が取り組みの全体指針となって引っ張っていくことが重要です。
セールス・イネーブルメントに取り組む際は、各階層が各自の責任や役割を適切に理解し、組織全体でコミットしていきましょう。
1-3. 会社にもたらす優位性と取り組めること
セールス・イネーブルメントに取り組むことで、営業組織が今まで以上に売上を上げることができるようになるのはもちろん、ニーズを汲んだ新商品開発をするためのマーケット調査や、売上の予測精度を高める役割を担うことができるようになります。
また、下の図にあるようにセールス・イネーブルメントの領域は非常に広く、取り組めることは豊富にあります。
ただし、すべてを同時に実行する必要は必ずしもありません。まずは自社の課題を適切に特定したうえで、よりインパクトが大きく、コストパフォーマンスの良い打ち手から取り組みましょう。
セールス・イネーブルメントは有効な取り組みですが、社内で確立されたアクションと捉えられているケースは多くありません。そのため、周囲を巻き込みながら少しずつ成果を出して社内での理解を得、組織の規模を大きくしたり、予算を増やしたりしていきましょう。