「データを可視化すれば理解される」と思っていた
──これまでのキャリアについて教えてください。
さまざまな企業・職種を経て現在が9社めになります。新卒でNTT東日本に勤めたあと政治家の秘書になり、その後統計ソフトウェアの企業に入社しました。そのソフトウェアの営業をするために統計学を必死に勉強したことが、現在のキャリアの原点になっています。
「データサイエンティストとしての知見を小売業に活かしたら面白そうだ」と転職した百貨店では、婦人服売り場の現場を担当しました。データ分析から遠い部署ではありましたが、最前線での実践を通して営業や販売の現場にデータ分析を根づかせる工夫を学んだと思います。
eコマースが盛り上がってきたタイミングでAmazonに移り、広告代理店や通販会社を経て、現在の三井住友海上に入社しました。原点がNTTですから、日本のトラディショナルな企業に戻って通用するか挑戦したかったんです。
入社してからは、企業のリスクを可視化して課題解決を図るサービス「RisTech(リステック)」の立ち上げ、そしてデータ分析組織の立ち上げに取り組んできました。現在はマーケティング組織を統括するCMOとしてマーケティング全般を担っています。
──営業やマーケターとして顧客と向き合う中で、どのようなデータ活用の課題を感じてこられましたか。
営業は「データを使ってこんなふうに顧客の問題を解決したい」と思ってもそれをうまく言語化できないんですよね。なぜならビッグデータやAIなどデータの領域は専門的になりすぎて、専門家とビジネスサイドの断絶が大きすぎるからです。逆に、データサイエンティストのようなビジネスなどの課題解決や意思決定をデータ分析によってサポートする人材もビジネス側に歩み寄れておらず、共通言語がないことが大きな課題です。このような専門家とビジネスサイドの間に立って、データ活用を推し進める存在が「ビジネストランスレーター」です。
また、データ活用においてやるべきことは実はアナログ。データ分析の最終的なゴールは成果を出すことですから、そのために意思決定をして人を動かしていく過程はかなり泥臭いと思います。
実は、ここが勘違いされがちな部分です。多くの会社で「とりあえずデータサイエンティストを採用してデータを活用してみよう」という風潮がありますよね。しかし、いざデータサイエンティストが入社しても、その大前提となる「何のためにデータを使うのか」という目的が欠けていたら意味がないんです。
──営業やマーケティングの眼差しを持ちつつ、データ分析をする木田さんも、そういった課題に直面することがあったのでしょうか。
最初のころは失敗もありました。たとえば、百貨店に入社した当初は、データを引っ張ってきて可視化すれば、みんな理解してくれる、喜んでくれると思っていたんです。しかし、意気揚揚と整形したデータを見せて「これとこれの組み合わせが売れます」と提案しても、現場からは「それは知っている」と言われてしまって。現場の知見や理解がなく、仮説を立てずにただデータを可視化してしまっていたんですね。
一方で、私は営業時代に人と向き合ってさまざまな問題発見・解決を行ってきました。顧客と向き合った経験は、データ活用に活きています。先述のとおり、課題を見極めて目的を明らかにすることが第一だからです。