買い手が市場の主導権を握っている時代
「Seller Free Economy(セラー・フリー・エコノミー)」は訳すなら「売り手のいない経済」。昨今は「売らない営業」という表現が見られるようになったが、市場全体の傾向として、「売り手ではなく買い手が中心になってきている」というのが本セッションのプレゼンター、Marcus Sheridan(マーカス・シェリダン)氏(IMPACT社)の見識だ。
ウェブコンテンツマーケティングの第一人者と呼ばれるシェリダン氏は、数々の登壇や著書を通して、ビジネスパーソンをエンカレッジしてきた。今回のセッションでも、情熱的なプレゼンテーションで聴衆に気づきを与えた。
まずシェリダン氏は、興味深いデータを見せた。買い手が営業と話す前に、営業プロセスの80%は終わってしまっているというものだ。しかし、営業担当者に「『あなたは営業プロセスの何%に貢献していますか』とたずねたら、『80%』だと返ってくるだろう」とシェリダン氏。営業プロセスの大半が終わっているということは、マーケティングプロセスの重要性を示している。今後もその重要性は高まっていくからこそ、企業はこのことについて議論し、適応していくべきだと話した。
また、「営業とマーケティングにとって非常に重要だが、議論されてないトレンドはほかにもある」と紹介されたのが、約33%の買い手が「“seller free(売り手不在)”の購買体験を好む」と回答しているデータだ。さらに「75%以上の買い手と売り手が、対面のやりとりよりも、デジタルのセルフサービスやリモートでの人の関与を好む。これはロックダウンのあとも継続的に強まってきた感情だ」とマッキンゼー&カンパニー社のソースを引用した。
シェリダン氏は「今、市場を主導しているのは買い手。企業がそのことを認識し、企業がコントロールしているという古い信念は手放すべき」だと強調した。
信頼はあらゆるビジネスの基本
こうしたこれからのseller freeの市場に備えるために、シェリダン氏は、「信頼」の重要性を語った。
「信頼はあらゆるビジネスの基本的な鍵です。企業は信頼の構築に焦点を当てる必要があります」(シェリダン氏)
そして、信頼を高めるための3つの鍵を、次のとおり示した。
- 他社がやっていないことについて話すこと
- 他社がやっていないことを見せること
- 他社がやらない方法で売ること
ひとつめとふたつめは、ウェブサイトやコンテンツを通じて他社がやっていないものを買い手に見せることの重要性を指摘している。シェリダン氏は例を挙げ、「ガラスボウルをつくる製造業者だったら、その製造過程を全部見せること。すべての過程を公開している企業はありませんし、(隠しておくべき)秘伝のタレなどないのです」と説明した。
3つめはまさにseller free economyに関わるポイントだ。ここで言う他社がやらない方法とは「完全に再発明した購買プロセスのこと」だとシェリダン氏。会場に「自分は完全に異なる方法で販売していると言えますか」と問いかけ、「(購買プロセスで)抜きんでる機会は十分にあります。そしてその方法を今からお見せします」と、新たな購買プロセスを構築するノウハウを示した。