「効率が悪いこと」を愚直にやって成果を出した若手時代
――現在USEN-NEXT Designの社長でいらっしゃる髙木さんですが、若手のころから、営業力の強いUSENでもトップ営業だったとうかがっています。当時の営業スタイルについて教えてください。
USENは、前身である大阪有線放送社から50年以上にわたり店舗向け音楽配信サービスを提供してきた会社です。創業者の宇野元忠が「街に音楽放送を」と、自らケーブルを張って街の商店(お店)に有線音楽放送を提供するところから始まりました。そのころから人海戦術で飛び込み営業をする文化があり、私が入社した2002年当時もその文化は色濃く残っていましたね。番組表を1枚渡され、とりあえず街の商店に飛び込んでいくような感じでした。
そんな中、自分なりに飛び込みの効率化を目指そうとしたこともありました。すでに取り引きのある商店なのか否かもわからない状態で飛び込んでいくことに疑問を感じ、加入店リストをゼンリンの地図にマークして、未開拓の商店だけに飛び込みをしようと考えたんです。しかし、先輩には「そんなことをしている暇があったら片っぱしから飛び込んだほうが早い」と言われてしまい……。もっと効率的な活動もできるはずなのにという思いはあったものの、新しいやり方を周囲に理解してもらうためにも「まずは誰よりも飛び込み営業で成果を出してトップになろう」と決めて、継続的に取り組んだことで、良い成績を挙げてマネージャーになりました。今振り返るとなかなかたいへんな日々だったと思いますが(笑)、一定の手法に継続して取り組んで成果を出したことは自信につながりました。
――マネージャーとして組織の効率化をリードするのも、また難しかったのではないでしょうか。
おっしゃるとおりです。私がマネージャーになった当初は組織全体の活動データを管理できていない状況で、仕事量や習熟度などを定量的に測る指標がなくもどかしい思いもありました。その後、グループ企業全体の営業・マーケティング効率化を担うインサイドセールス業務を行う新会社として設立したUSEN-NEXT Designの社長となった今でも、効率化についてはトライ&エラーを繰り返しながら取り組んでいます。
たとえば、マーケティングは架電をして見込み客との接点や商談機会を獲得することが目的ですから、突き詰めると人じゃなくて良いのではないかと考えたこともありました。今となっては笑い話ですが、効率化のためにAIの自動音声でコールから受注まで完結しようと試みて、「150万コール中1件の受注」という結果を出したこともあります。営業の効率化は必ず必要ですが、「人の意思決定」を促すためにはまだまだ営業担当者が担うべき部分も大いにあるということを実感しました。
Magic Moment Playbookの導入で「商談完了率」は70%に
――効率化を追求するなかで、「Magic Moment Playbook」と出会い、見込み客への架電のタイミングをうまく掴んでいらっしゃるんですね。
そうですね。当社はお客様のファネルごとに完全分業のフォーメーションを組んでいるため、リードを的確に引き渡していくことがとても重要になります。具体的には、新たな接点を生むマーケティングセールス、見込み客とつながり続けるナーチャリングセールス、オンラインで受注までを進めるオンラインセールスの間で、リード発生からオンライン商談までの時間をいかに効率的に進めるかというところにMagic Moment Playbookがハマりました。
特に当社のお客様は個人でお店を開いている方も多いこともあり、商談のリスケが頻繁に発生するため、タイミングをきちんと掴まなければ商談機会を逃してしまうんです。もともとはマーケティングセールス、ナーチャリングセールスがスプレッドシートにリード情報を記入し、各オンラインセールス担当がそこから選択してアポを実行する方法をとっていましたが、今はMagic Moment Playbookでそのとき空いている人にどんどんディスパッチするオペレーションになっています。ビフォア・アフターで言うと、リードに対するオンラインセールスの完了率は55%から70%ほどに高まっています。ゆくゆくは「対応可能かつ成績が良い人」に実行権をどんどん渡していくアルゴリズムの実装をMagic Momentさんと共同で進める予定です。
――数あるSales Techツールのなかで、Magic Moment Playbookを選ばれた理由を教えていただけますか。
ツールとしての魅力ももちろんですが、導入を決めた大きな理由のひとつは、代表の村尾さんの徹底した合理的な考え方に共感したからです。村尾さんご自身もfreee在籍時に、我々と同じような中小企業経営者の皆様がお客様で、その「不在率」をいかに下げるかをひとつのテーマとして取り組まれていたのだそうです。「営業の効率化とはつまるところ、お客様にとって価値のある営業をいかに徹底的に提供しきるか」という考えのもと、価値提案の最大化を中心に据え、そのためならばドラスティックに合理化を追求するんだという姿勢に感銘を受けました。
Magic Momentの社員の皆さんも村尾さんと同じマインドで動いてくださっています。我々からの要望をなるべく早くシステムに実装しようとしてくれるのはもちろんですが、ときには「御社のゴールのためには、こうしたほうが良いですよ」と別の角度から提案をくれるなど、本当に当社のことを考えたうえで伴走してくれるのが頼もしいと感じています。
――実際に現場で活用している方々の声は、いかがですか。
最近では、新卒115人を対象にした営業実践を通した研修プログラム「Sales Base Camp」でMagic Moment Playbookを活用しました。彼らは従来の非効率な営業方法を知りませんから、最初からおそらく「営業活動ってこれくらい合理的なものなのだ」と思っていると思います。そういう意味でビフォア・アフターは掴みかねるのですが、自分が接点を持った見込み客から、いつ何件受注につながったか、つながらなかった見込み客に対してはMAでどのようなメールが配信されていて、どれくらい開封されているかなどをすべて見ることができます。「自分がやっていることが何かにつながっている」という感覚を最初から得ることができているのではないでしょうか。ただ、すべてが可視化されて言い訳ができない分、苦しさもあるかもしれません(笑)。
ツールの定着には、他ツールを一切使わせないリーダーシップが不可欠
――新しいツールの導入に際しては組織への定着が課題になることも多いですが、どのように推進されましたか。
何を持って定着とするのかは、さまざまな観点がありますが、業務にツールを落とし込んで使ってもらうまでのスピードは1週間ほどで、かなり早かったと思います。これに関しては「今まで使っていたGoogleカレンダーやスプレッドシートなどは一切使わず、Magic Moment Playbookを使うように」と、トップダウンで進めました。
その結果3ヵ月ほどで、115名の新卒と約30名いる営業組織の全員がMagic Moment Playbookを中心に業務に取り組む状態をつくることができました。業務の効率化はコストの削減や時間の創出にも直結しますから、経営面でもインパクトを生むことができたと思います。このスピードで一気に組織を変革できたのは、リーダーシップが発揮されやすいUSEN-NEXT GROUPの文化も関係しているのかもしれません。
――強いリーダーシップのもと、あくまでもMagic Moment Playbookへの一本化にこだわった理由は何でしょうか。
CRMだけを活用した場合、どれだけ顧客データがまとまっていても、どの顧客から当たっていくかは最終的に営業パーソンが自分で決めなくてはなりません。過去にそのような状況にある営業組織と仕事をする機会があり、CRMを活用している限りは1人ひとりのスキルに依存してしまう部分があると感じたんです。それに対しMagic Moment Playbookは空いている営業パーソンに自動でリードを当てていくので、1人ひとりの行動量を最大化することができます。特に新卒は「どのリードにあたるべきか」を考えるだけでかなりの時間を取られてしまいますから、ここを自動化できるか否かで、営業組織全体の効率はまったく違ってくると思うんです。
現在、通話システムは別のものを使っていますが、将来的にはここも連携させてMagic Moment Playbook上からワンタッチで架電ができるように移行したいと考えています。LINEやInstagramなど、あらゆる顧客接点のチャネルから集まってくるリードすべてに対応できるようになれば、もっとおもしろいですね。
――グループ企業のインサイドセールス業務をすべて担う新会社として設立されたUSEN-NEXT Designですが、最先端の営業オペレーションを今後、USEN本体ならびにグループ全体へとどのように広げていかれるのでしょうか。
現在グループには23の事業会社がありますが、基幹システムが統合されておらず、各事業のプロダクトに紐づく顧客情報もそれぞれに管理している状態です。オペレーションもバラバラで統合するには課題が山積みですが、おそらく今は各事業会社がどのように効率化を進めているか、グループ全体で見られているところなのだと思います。その中で我々がやっていることは超合理的ですから、まずはきちんと成功事例をつくり、認めてもらうことですね。
――最後に、売上向上や営業スキルの標準化などに課題を抱えているマネジメント層へ、メッセージをお願いできますでしょうか。
先ほどツールの定着をトップダウンで進めた話をしましたが、現場はどうしてもそれまでの運用に合わせた使い方をしたがるものです。中には裏技を使ってでも従来の運用に固執するメンバーが出てくることもあると思います。たとえば自動化が機能の要であるMagic Moment Playbookも、例外的に手動対応に切り替えることができるのですが、勝手に切り替えているメンバーがいれば発見して止めなければなりません。
経営側のビジョンと現場の運用は往々にしてかけ離れているものですが、ビジョンに紐づいてツールを導入したのであれば、そのビジョンに共感したマネジメントがリーダーシップを発揮し、ときには力技で実務に落とし込んでいかなければ意味がありません。新しい運用に順応していないメンバーを見つけて軌道修正していくのは地道で時間がかかることですが、それを継続しているから力になっていくんですよね。それこそがオペレーションでありマネジメントだと私は考えています。
――注目のMagic Moment Playbookを非常に早いタイミングで使いこなされている御社およびグループの、今後の「合理的な営業活動の追求」もとても楽しみです。本日はありがとうございました!