課題の本質は「データから顧客を理解する」組織風土がなかったこと
――2021年1月に、顧客起点の営業成果貢献ツールとして「Magic Moment Playbook」のローンチを発表されました。事業開始以来初めてのプロダクトリリースとなりますが、背景を教えてください。
Googleやfreeeで営業組織を変革してきた経験から、営業におけるデータとテクノロジーの重要性については一貫して発信してきました。2017年に立ち上げたMagic Momentでは、組織構築や営業ナレッジの提供を主としながら、実際にデータを分析して示唆を提供する「Insight Board」というツールを一部の企業に提供していたんです。ところがその提供を通して、分析するにはデータが必要であるという当たり前のことを、多くの企業が理解していない実状に気づいたのです。
さらに見ていくと、課題の本質はデータがないことではなく、組織がそのような風土になっていない点にあると気づきました。私は社員にも「入力するのではなく、記録をするのだ」と伝えるのですが、自分たちが記録したデータが未来をつくるということを理解していないから、入力を面倒くさい単純作業だと思ってしまうわけです。多くの企業はデータを使えていないのではなく、収集しようとすらしていなかった。「これはまずい、仮説が違っていたな」と思いました。
この気づきを経て、組織構築や営業ナレッジを提供する前に、「お客様のことを理解するためのデータ」をつくる必要性を日本企業にまず浸透させていくことが必要であると考えるようになりました。それまでInsight Boardを提供していたときは、クライアント企業に対して「データをきちんと入れていないからインサイトを抽出できません。それ自体が御社に対するインサイトのようなものですよ」と説明することもあったのですが、そうやって正当化するのは違うと思ったんです。「データが散らばっていて使いこなせていない」という課題も耳にしますが、多くの企業ではその状態にも至っていないわけですから、「データ×営業」の領域にはまだまだ可能性が広がっているぞと頭を切り替えました。
――「データをつくる必要性が浸透していなかった」という問題に、まずどのように向き合われましたか。
営業組織においてもSFAやCRMの導入が進んでいるのにも関わらず、正しいデータを集められていなかった要因を見極めていくと、ツールを提供するベンダー側だけではなく導入する企業側にも問題があると感じました。多くの企業が、ツールさえ導入すれば魔法みたいに課題が解決すると考え、なんとなく提案を聞き、ほかの企業も取り組んでいるからという理由でツールを導入しています。言い方は悪いですが、踊らせるほうにも踊らされるほうにも問題があったんだと思います。
――そもそも、多くの企業がそのようにツール導入やデジタル化を急いだのは、売上への危機感からでしょうか。
「売上が伸びないからツール導入を進めよう」と考えている企業は案外ほとんどないと思います。その目的意識の前に、内部統制や経産省によるDX推進要請に対応しようという理由のほうが強かったように感じました。売上を本当に伸ばしたいなら、まずはそのための戦略を立てるべきです。「ツールを入れたのに売上が上がらなかったじゃないか」と言われても「売上の話なんてしてこなかったじゃないですか」としか言えません。ツール導入において、目的意識が抜け落ちてしまっていたという課題を認識してもらい、一緒に整理していくのも、我々が提案できる価値だと考えています。
目的に寄与する正しいデータを象徴する言葉として、我々は「TRUE INDEX」という言葉を使います。ひと言で表すと、「分析に使うデータはすべて定義どおりでなければならない」という考え方です。そのためには、収集するデータはどのような特性か? どういった種類のデータが必要かを定義し、リアルタイム性を保つことが必要になります。ただ単に「Byte」という単位で存在し分析しても答えに辿りつかないようなものは、私たちの言うデータではありません。そのため今回のプロダクトも、正しいデータをつくりそれを活用できるように設計することが重要でした。
正しいデータを正しく活用すると、オペレーションを構成する各変数が変わっていきます。多くの場合、ツール導入は業務効率化やコスト削減のメリットがフォーカスされますが、それだけでは大したインパクトにはなりません。抽象的に言うと「売上の伸び」と「コストの減少」の間の面積をいかに大きくしていくかという考え方こそが重要で、そこを意識すると変数のかけ合わせによるインパクトが変わってくるんです。