営業の型が確立していない、究極の無形商材
――おふたりのこれまでのキャリアについて教えてください。
工藤 ゆめみには2011年11月に入社し、今年で10年めになります。新卒で入った前職はSES(System Engineering Service)を中心とする人材とITの会社で、そのときに営業職として出会った顧客の1社がゆめみでした。人材サービスだけでなく、ITサービスや事業を自分自身が創ることに興味が出てきたこともあり、「こういう会社で働いてみるのも良いな」という印象を持っていたゆめみに、自然な流れで転職しました。
染矢 僕も新卒で入ったのはSESの会社でした。メディア事業に魅力を感じて入ったものの、残念ながら僕が入社するころにはそのメディア事業は終了してしまい、営業部門に配属されたのがキャリアのスタートです。当時はリーマンショック直後で営業環境も厳しかったのですが、逆に「やってやる」という闘志が湧き、最終的に会社から「好きなことをやって良いよ」と言われるまで耐え抜きました(笑)。転職自体は家庭の事情で関西に帰ることになったのがきっかけですが、いくつかお声かけいただいた中からゆめみを選んだのは、いちばん“ゾクゾクする環境だった”から。当時は京都オフィスの存続が危ぶまれるくらい赤字が続いていて、それを立て直すのが面白そうだと思ったんです。
――御社の事業・提供しているソリューションについて教えてください
工藤 ここ数年は、さまざまな顧客接点がIT化し、事業会社のDXが進んでいます。しかし事業会社にとって、ITの力を使ってサービスを変えていくことは専門領域ではありません。ゆめみは顧客である事業会社の資産やサービスの良さを深く理解したうえで、ITの力を使ってパワーアップさせるための方法を日々考え、提供しています。
一般的な開発会社はシステムの要件定義から始めますが、我々は生活者、つまり「事業会社の顧客」にとって、どのようなサービスが必要かというところから入り込みます。固定された商材はほとんどなく、トータルソリューションとして提供しているため、無形商材の中でも究極の無形商材と言えるのではないでしょうか。同じ無形商材でも、SaaSのセールス手法については「The Model」に代表されるような一定の型ができていますが、我々は今まさに自社の「営業勝ちパターン」をつくろうとしているところです。
――究極の無形商材を売るなかで、おふたりは営業組織でどのような役割を担っていらっしゃるのでしょうか。
工藤 私は取締役として全社の売上も見ていますが、主に関東をカバーする5~6名の営業チームを改革し、組織化していくことを現在ミッションとしています。関西やそのほかの地域における営業戦略とその実行は、基本的にはすべて染矢さんに任せています。
染矢 僕は京都オフィスの黒字化をミッションに入社したわけですが、おかげさまで京都は4期連続で増収増益です。2年前から裾野を広げ、北海道から九州まで東京以外のさまざまな地域を担当しています。
黒字化というミッションは一見シンプルですが、僕の営業思想は、たとえるならば「社内外のプロデュース業」です。入社当初から、顧客にソリューションを提供する社内のエンジニアやデザイナーたちにヒアリングし、彼らが関わりたいと考えるサービスや企業をベースに営業戦略を立てていきました。関わるプロジェクトによってメンバーと当社が得られる技術やメンバーの動機を意識しながら顧客を開拓することで、ちょっとおこがましい言い方ですが、社内のメンバーをプロデュースするような気持ちで取り組んでいます。
社外の顧客に対しても、当社が提供するソリューションと直接関わりがないところも含めて業務に参加させてもらい、顧客企業のサービスデザイン全体をプロデュースさせてもらえるような関係性をつくっています。顧客満足度を高め、継続的なお付き合いをさせてもらうなかで、「ゆめみと取引している事実=顧客にとってひとつのステータス」という状態を常に目指しています。
顧客の本当のインサイトを引き出すために、営業の個人目標は設定しない
――染矢さんは黒字化に至るまでどのような苦悩があったのでしょうか。
染矢 もっとも悩ましかったのは、現状のリソースを考えると、今お受けできないお仕事があるということでした。お客様のためにも、少ないリソースで無理やりご一緒するよりも、一度お断りして次にご一緒できるチャンスをつくるほうが良いと判断し、3年ほど遠回りしたこともあります。
僕が営業・マーケティングにおいて大切にしているファネルは、LTVの最大化→解約率の最小化→売上の最大化です。持続的な組織をつくっていくことを考えているため、「目先の売上をつくるためにとにかく売る」ことはせずに、1社1社と向き合い信頼を積み重ねる営業に取り組んでいきました。
――「顧客のために」という考えに加えて、組織や事業の継続性までも考えて営業活動を行っていたのですね。工藤さん率いる東京オフィスの営業チームでは、どのような課題がありますか。
工藤 染矢さんの今の話ともつながりますが、幸いにも1つひとつの取引が長期に渡るのがゆめみの特徴です。その大きな取引が口コミとなって新しいお客様を紹介いただけて、結果的にまた大きな売上につながっていくという良いサイクルが生まれています。一方、ゼロベースから商談を生んでいくことには難しさを感じています。究極の無形商材という難しさに加え、当社のようなベンチャー企業にいきなりまるっと任せられるのか、既存のSIerとの違いは何かという点は、我々からのアピールだけでは解決しません。事業会社側の判断軸も大いに影響しますし、担当者の方によっても考え方が大きく違うので、新規のお取引をどうスタートさせていくかは、現在も仮説検証しながら考え続けている課題です。
――おふたりとも常に営業手法やあり方について試行錯誤しているのが伝わってきます。一方で、御社ならではの営業の特徴があれば教えて下さい。
染矢 ゆめみ自体が非常にオープンな組織でして、営業においても、営業部長が出した指針を受けてメンバーが動く、という構図はありません。1人ひとりが仮説を立てて動き、良かったことも悪かったことも、お互いに共有し、また次の方法をつくり上げていくようなチームです。最近も、入社したばかりの営業メンバーがパートナーと協業して新しい商材を掲げ、新しい色を加えてくれました。おそらくほかの会社であれば、「偉い人」が行うような外部を巻き込んだ新しいチャレンジを、新人自ら実行できるのは当社の営業の「らしさ」が伝わるエピソードだと思っています。
――オープンな組織において、営業個人の売上目標の設定や評価はどのように行っていますか。
工藤 売上のノルマは設けていません。そもそも売上という言葉自体が我々目線のものであり、本来必要なのは、お客様の予算をお預かりするという考え方です。そのうえでお客様とご一緒できる機会をどれだけ増やすかという目線を持てば、状況に応じてベストな判断は変わってきます。段階的にプロダクトを開発するのが良い場合もあれば、まずはPoCを直近のゴールに設定することもあるでしょう。大きなシステムを開発するよりも、繰り返し小さなトライを重ねることにお客様の予算を使ったほうが良いこともあります。
個人の売上目標を設定してしまうと、本来提供するべきこのようなニーズや応えるべきインサイトに気づけなくなってしまうんです。逆にこの考え方で長期的な信頼関係を築き、お客様のニーズに合わせて一緒に予算計画をつくるような立場になることができれば、結果的に当社としての予測も立てられるようになってきます。と言いながら、クォーターの締め日が迫ってくると毎回ヒヤヒヤするんですけどね(笑)。
もうひとつ細かい話をすると、私は取締役ですが、社員1人ひとりの給与額を把握していません。給与に対してどれくらい貢献すべきかは本人が考えることであり、そこに強制力は発生させられないと考えているからです。それも、自律状態を生み出すひとつの要因になっているのではないかと思います。
――「個人の売上目標」を設定せずとも、継続して成果を上げることができているのは、営業チームを精神的にリードしているおふたりの個性によるところも大きいのではないでしょうか。お互いの個性で、組織に良い影響を与えているなと思う点をぜひ教えてください。
工藤 染矢さんの特徴は、プロジェクトの早い段階で人間関係をつくることに力を入れることですね。京都オフィスの黒字化に際しても、まずメンバー全員に「どんな案件やりたいか」とインタビューしている姿が印象的でした。要望を吸い上げ、それを実現するための筋道を立て、周囲を巻き込みながら売上をつくっていく独特のリーダーシップがあるんですよね。お客様と向き合ううえでも、雲行きが怪しいときに空気を変える一手を繰り出すのはいつも染矢さんで、みんなもそれを期待していると思います。
染矢 先に言われちゃいました(笑)。僕も、工藤さんの特徴としてパッと出てくるのは人間力です。営業をやっていると、お客様に対しての振る舞いとメンバーに対しての振る舞いが相反してしまうシーンもあるのですが、そのバランスが非常に良い人です。言葉選びも上手で、お客様に納得感が生まれ、内部のメンバーも次のアクションを理解しやすいような、「たしかにそれが最善だな」と思える旗振りが上手いんです。あとは問題解決をする場面におけるキャッチアップの速さ。社内で何か問題が起きたとき、当事者間では感情的になったり私情が入ったりしますが、工藤さんは原因を細分化して冷静にフィードバックしてくれるので、そこを見習いたいなと思っています。
今のところ、僕自身は先頭に立って「行くぞ」とみんなを引っ張っていく立場だと思いますが、工藤さんはそれに加えて、しんがりから「みんな行くよ」と支えてくれるような存在です。それは先頭で走ってきた経験があるからできることですよね。社内の信頼も厚く、工藤さんの存在で、社内のメンバーは「営業」の見方も変わったと思います。社内のメンバーに対してはもちろん、お客様やその先のユーザーに対しても、常に「相手の立場」で考える工藤さんは、そうあるために「営業力」を駆使しているように思えます。
属人化を脱却し、次のステージへ 変化を楽しむ人と働きたい
――ここまで営業のスタイルや状況をうかがってきました。現在、御社が営業メンバーの採用を強化している理由を教えてください。
染矢 大きく分けてふたつありますが、共通するキーワードは「属人化の解消」です。自社の勝ちパターンを仮説検証しながら模索しているという話は工藤さんからもありましたが、僕の担当地域に関しては今のところ自分だけでやっている状況です。これを組織としての取り組みに進化させ、よりできることを増やしていくために純粋にマンパワーが必要というのがひとつめの理由。もうひとつの理由は、今のところ僕が先頭に立つ営業案件が多いことから、僕だから縁遠くなってしまっている案件もあるかもしれないということ。そこから脱却し、組織として次のフェーズに向かっていきたいと考えています。
工藤 BtoBの無形IT商材は、極論を言うと営業担当者がいなくてもソリューションとマーケティングが良ければ受注することは可能です。ただしその先、社内でITを使うのは人間ですし、ITの活用を通じて価値を届けるのは顔の見えない消費者に対してです。そこまでサービスを届けるためにどうすべきかということを、人に説明し、人に納得してもらい、人に決めてもらうのはコミュニケーションの力。そのコミュニケーションを媒介するのは営業という職種にしかできない役割であり、どのようなコミュニケーションが必要かを考える力がこれからの営業には求められると思います。その観点でも、属人化から組織化へという大枠は、全社共通のチャレンジですね。
――そんなゆめみの営業組織をひと言で表すと?
工藤 まだ組織の輪郭ができておらず、今まさにつくっているところです。今は1人ひとりの個性が活きていて、それがこれから組織になろうとしています。
染矢 本当にひと言でいうならば「カメレオン組織」ですね。プロジェクトのメンバー編成、お客様の特徴によって自分の動き方を変えられるような組織です。「営業は毎回ここからここまでをやります」ではなく、今何が必要かを営業がプロジェクトごとに見抜きながら、自分の立場を変えていける組織でありたいと思っています。
――最後に、どんな人と一緒に働きたいかメッセージをお願いします。
工藤 染矢さんが「カメレオン組織」とたとえたように、プロジェクトの規模や性質、メンバー編成によって必要な役割は変わるわけですが、ひとりですべてを担う必要はないと思っています。それよりも、活躍しているメンバーを見ているとどこかに突出した個性を感じられることのほうが大事だと感じます。今あるポストに収まるよりは、組織が大きくなるなかで自分の動き方をつくり出し「こういう役割にはちゃんと名前をつけてポストをつくったほうが良いのではないか」と、自ら変化を起こせる人と出会いたいと思っています。